意外な原因…ミニエース、首都高に死す 最終回

 任意保険のロードサービスが来てからは事態は早く動いた。もとより自走は無理と割り切ったので、後はミニエースを運ぶだけである。とは言っても、運ぶ先は選ばないといけない。結局、運ぶ先は東大和の筆者がいつも行く車屋さんに行くことにした。ここなら、次の朝電話しておけば、数日は置いてくれる。錦糸町から東大和まで距離は52キロ。超過した分は有料となるがこれはしかたがない。
 流石に日曜日の深夜、首都高は所々工事しているがそれでも空いていた。午前3時半、東大和に到着。
ミニエースを置き去りにした後、立川の駅までローターに送ってもらってそこからはタクシーで帰る。
 次の土曜日、ミニエースのフューエルポンプを交換するために、東大和の自動車屋さんに行く。ポンプを止めているナットとスプリングワッシャを外してポンプ本体を外す。さて、ダイヤフラムが切れているか、と思いながら外したポンプを見るとダイヤフラムは切れていない。なんと、ダイヤフラムを引っ張るアームを止めているピンが取れてしまって、ダイヤフラムが動かない状態になっている。
 この故障、筆者の周りでは最近頻発している故障で、自分の車がそうなるとは思っていなかった。というのも、その故障があるのは一度ダイヤフラムを交換したポンプによく起きるからである。このピンを外さないとダイヤフラムは交換できない。このピン、外したはいいがポンプボディに戻したときにはきちんとかしめて止めないといけない。このかしめが弱くてピンが外れるのである。
 ポンプの回りは汚いし、ポンプには一度も手が入っていないと思っていたが、外してみて初めてわかったが、一度手が入っている。その証拠に@ポンプを止めていたナットとワッシャーが意外と綺麗だった。Aインシュレーターが前後逆に付いていた。Bガスケットが社外と思われるものに換えられていた、などの状況証拠からである。
 予備のポンプを取り付け、スターターを回す。ガソリンが回るまで時間がかかったが、キャブレターにガソリンが行けば何事もなかったかのように綺麗にエンジンはかかった。
 
11/19/2005

原因判明!ミニエース、首都高に死す その3

 時は既に午前1時を回っていた。JAFの車が漸く到着した。JAFのお兄さんが到着後すぐに口にした言葉が「この車、何ていうんですか?」だった。彼らは職務上どんな車から要請があったか記録しておく必要がある。筆者は彼らのデータベースにミニエースという車名がないことを知っているので、「タウンエースにして置いてください」と答えた。
 さて、工具類があるので再びトラブルシュートをする。最初はプラグに電気が行っているのか、イグニッションコイルからデスビに高圧の電流が行っているか調べる。デスビの中心に行っているコードを外し、車体の金属部分に近づけてスターターを回す。青い火花が綺麗に飛んでいるのが確認された。では次に燃料。ポンプからガソリンが来ているのか確認する。いや、それはさっき来ているのを確認したが、ポンプを動かした状態ではなかった。JAFのお兄さんが持っていたペットボトルにポンプから出てくるラインのホースを外して飲み口に差し込む。その状態でスターターを回す。その時である、いくらスターターを回してもポンプからガソリンは出てこなかった。つまり、燃料ポンプが故障しているのである。ホースにあったガソリンはポンプからの圧も無く、そうなるとキャブレターにいくこともなかったガソリンだったのだ。
 そういえば、夏頃から走って止まるってしばらくするとキャビンがガソリン臭かった。故障は多分ダイヤフラムが切れて圧を作り出せなくなったからに違いない。止まる前の軽いショックはダイヤフラムが切れた時のではないだろうか。
 原因はわかった。だがどうにもできない。いつもなら予備の部品というか、ガラクタを積んでいてその中にミニエースのポンプが3つも入っているのだが、今日は無いのである。その場での修理は完全に諦めて、JAFに引っ張ってもらう一方、降りた先からのロードサービスを依頼する。
 さて、ミニエースをレッカーするのにも実は苦労した。JAFのお兄さんに「これ、ステアリング固定できませんかね?」ときた。動かないようにステアリングを固定しなければいけないようなのだが、ミニエースにステアリングロックなんてない。無い場合はベルトでシートと固定するそうなのだが、ベルトで縛ればシートが勝手に倒れてくるという実に親切な設計なのである。結局、シートベルトを駆使してステアリングを固定した。
 下駄を履かされてJAFの車に錦糸町まで牽引される。筆者のミニエースはご承知の通り、ETCをつけている。料金所を出る時に、JAFのお兄さんから自分の車の代金は払ってくれと言われて、「じゃあ、ETCの電源入れてくるから」というと、「この車、ETC付いているんですか?」と目を剥き出しにしてお約束通りのリアクションをくれた。
 錦糸町の出口すぐのところで下ろされて、ロードサービスを待つ。時間は既に午前2時。果して、朝日が出るまでに帰れるのだろうか?
11/05/2005

止まった原因は何?ミニエース、首都高に死す その2

 首都高の非常用駐車場になんとか辿り着いたミニエース。試しにもう一度スターターを回したがエンジンはかからない。ここでエンジンがかかるようならとっくにかかっている。車が止まった状況から、筆者の旧車仲間に電話をしたが誰一人電話に出る人はいなかった。考えてみれば当然か。次の日は週の始まり、月曜日である。日曜日は風俗店でも夜9時をすぎるとすっかりお客がいなくなるぐらいであるから、みんな気持ち早く寝てしまうのである。ひとりだけ電話に出たが、自分の置かれた状況を話すだけである。
 ここは冷静に対策を考えよう。落ち着くために、帰り際に貰ったペコちゃんのホッペとシュークリームを食べた。こういう弱った時に甘いものはありがたい。取りあえず考えられる故障原因のトラブルシュートをしよう。その前に、高速道路上という状況を鑑みてレッカー作業をできるのはJAFだけである。首都高から出るためだけでもJAFを呼ばなければいけない。取りあえず救援要請をする。すぐにはどの道これないから、来るまでの間は自分でトラブルシュートである。
 まず電気系を点検。イグニッションコイルに繋がるアース線などの外れはなし。プラグコードは外れていない。本当ならここでプラグから火花が飛んでいるか調べるべきであるが、この時重大なことに気がついた。車検を受けるに当って、いつもは積んで走っている工具や部品の一切を降ろしていたのである。エマージェンシーキットは載せていたが、牽引ロープのように他車がエマージェンシーの場合の道具は載っていたが自車がエマージェンシーの時の道具は載っていなかった。間の悪い時はこんなものである。次は燃料系。キャブレターにガソリンが行っているのか確認するため、キャブレターに繋がっている燃料ホースを外してみる。すると、ほんの少しであるが先からガソリンが零れた。ということは、ガソリンは来ている。じゃあ、原因は何?ここで原因究明は振り出しに戻った。重大な故障の可能性もあるという訳である。スターターモーターで走ったこともあり、バッテリーをこれ以上使うのは止めた。バッテリーついでに言うと、携帯電話のバッテリーも心もとない。仮に錦糸町で降りられたことを考えて、家までのミニエースの運搬手段を考える。筆者は幸い、任意の保険でロードサービスが30キロまで無料で受けられる保険に入っているので、その手配もすることにした。肝心の連絡ができないといけないので、その連絡以降は形態の電源も一時切った。
 たまたま持っていたジャケットを着て、後席に横たわること数十分後、JAFの車が到着した。
11/04/2005

公道復帰1周年、ミニエース、首都高に死す その1

 車検も無事に終え、ブレーキがガツンと利くようになってよかったなぁ、なんて思いながらの帰り道、何の予告も無くミニエースのダニオくんがその息吹を止めてしまった。場所は首都高7号小松川線の路上である。
 今から考えるとその日は最初からケチがついていた。ダニオくんを預けてあるところまで電車で向かった訳だが、途中の中央線武蔵小金井駅で心身事故が発生し、筆者の乗っていた電車は線路上で止まった。筆者が乗っていた電車のひとつ前を行く電車が事故を起こしたため、駅にもなかなか入れず、入ったかと思ったら先頭の車両のみがホームに辿り着き乗り降りはそこからしかできない状況。トイレに行こうにもトイレのあるホームでは救出作業の真っ只中のため使用できず。挙句の果てには消防の人が線路上に散らばった肉片と化した人を拾っているところまで見てしまった。これが救出活動か?と、亡くなった方には申し訳ないが、嫌味の一つもいいたくなる状況だった。そのため、現地着が約二時間も遅れてしまった。
 さて、引き取りが終わり快調に走り出したミニエース。空荷という少し不安定な状態の中、トラックの後方乱流に悩まされながらもうちに向けて85キロにて巡航していた。京葉道路を通り越し首都高7号線に突入。千葉から帰るのにわざわざ京葉道路を通ったのも後で考えると、それこそ魔が差したとしか思えない。錦糸町に向けて快調に走っている時に事件は起きた。
 軽く上っている高速道路を走っていると、軽いショックの後何だかリアアクスルが回っていないような感じがした。やばい!調子に乗りすぎて走っていたらデフを壊したか…最初はそう思った。そのうちにエンジンがパワーダウン。バッテリーチャージとオイルのウォーニングも点燈。エンジンが止まった。ピストンを吹きぬいたか?いや、スバルならいざしらず、ヨタハチでピストンを吹きぬいたなんて話は聞かない。いろいろな思いが錯綜する。そうこうするうちに、ミニエースのスピードがあっと言う間に落ちる。ここは首都高、路肩に逃げようにもその路肩が無い。あるのは数百メートル毎にある非常用駐車場。幸いその明かりは見えるところにある。
 少し上っているという状況が筆者を焦らせた。完全に止まる訳にはいかない。完全に止まったら、人力で押すわけにも行かない。後からは百キロ以上のスピードで後続の車が来ているのである。しかし考えている暇はない。ミニエースのスピードは今この瞬間に警官に見られたら最低速度違反で捕まるようなスピードになっている。筆者はとっさにハザードランプを点け(この瞬間、ハザードランプの点く年式の旧車にしか縁がなかったことに感謝した)クラッチを繋ぎスターターモーターを回した。これで少しでも前に進むのである。
 後から聞いた話だが、現在は教習所では非常時にスターターモーターで前に進むことは教えていないそうだ。よしんば教えていたにしても、路上を走る車の約8割がオートマチック車という状況ではそんな手段は使えない。現在流通している車ではそんなウラ技を使うと車が壊れてしまうそうだ。伊藤家の食卓に車が故障しても走るウラ技として投稿しても、いろいろな意味で採用はされないだろう。
 さて、前に走ってはいるがミニエースは非常に遅い。路上の障害物になっていることは明らかだが、前に進まないよりはましだ。ここで修理書に書いてあったスターターモーターの性能を思い出した。確か出力が0.5馬力。1馬力は1秒間に75キロのものを1メートル進めることのできる力である。750キロあるミニエースは10秒で1メートルしか進まないのか?いや、ベアリングとか機械の作用でもう少しは速いだろうけれども…。いやまてよ、30年以上何もしていないスターターモーターに新車時のスペックが出ているはずがない、せいぜい0.3馬力くらいじゃ…。要らぬ時に理屈っぽく考えるのは筆者の変な癖である。いま考えるべき事は、前に見える非常用駐車場にこのミニエースを入れる事である。
 バッテリーなんかなくなってもいい!とにかく、筆者はスターターを回し続けた。非常用駐車場までの百数十メートルは時間も距離も長く感じた。
 焦っている一方で、冷静に何が壊れたのか分析する自分がいた。クラッチを繋いでスターターが回って前に進んでいるのだから、エンジンやデフなどの駆動系の部品のトラブルでない事はわかった。もの凄くお金がかかる修理にはならない可能性が高い。最初に考えたデフが壊れたというのも、ピストンが吹き抜けて壊れた後のようなエンジンの破損状況ではないのである。ということは、考えられるのは電気系と燃料系。しかし、スターターモーターは回っているので、バッテリーのターミナルが外れているということはない。プラグコードが振動で外れた?それにしても、二本とも同時に外れる事は考えずらい。ということは燃料系だが、ガス欠というのはありえない。ゲージは半分燃料が入っていることを示していた。
 よろめくように、筆者のミニエースは漸く非常駐車場に入った。これで取りあえず二次的な事故にはならないで済む。筆者はほっと胸をなでおろしてサイドブレーキレバーを引いた。筆者は車外に出る。少し冷たい空気が心地いい。よかった、大きい事故にはならなくて、と思った次の瞬間目の前を凄い勢いで車が走り去る。いや、ちっとも良くないのだ。ここは高速道路の上、歩いて帰る訳にもいかないのである。時刻は午前0時丁度だった。
11/03/2005