プロローグ〜なぜ「スポーツ800」なのか〜

長谷川さんと

 1999年11月、我々パブリカオーナーズクラブの面々は、ついにパブリカの開発主査であった長谷川龍雄氏にお会いした。その時の感動というか衝撃はいまでも筆者にとっては忘れられない出来事である。
 長谷川氏は僕のトヨタスポーツ800を見ながら、こともなげにこういった。「これ、屋根をはずすと、ボディのよじれ方が違うでしょう?」筆者はその言葉に一瞬言葉と時を失ったが、次の瞬間壁が瓦解していくように、知識の扉が開いていった。筆者はそれまで、屋根がアルミで出来ているのは応力が働かないので、軽量化のためにアルミにしたという話を全く信じていたのだ。しかし、長谷川氏の言葉は暗に屋根にも応力がかかっているんだよ、と筆者に教えてくれた。
長谷川さんと筆者「スポーツ800はねぇ、軍用機のジュラルミン剥き出しの無塗装銀がイメージカラーなんだよ」との話をされた時には、買うときには赤が欲しかったんだけど銀色でよかったと思ったものだ。まだ本格的な話をしていないのに、筆者のスポーツ800の知識を一変するようなコメントが続々と出て、この先どうなるのだろう。期待に打ち震えたのを覚えています。
 さて、筆者は「ヨタハチ」なるトヨタスポーツ800の愛称を可能な限り使わないで置こうと思いながらこのホームページを作ってきました。そういった方針を「スカしてんじゃねぇぞこの野郎!」などと思った方もいると思います。なぜ「ヨタハチ」ではなく「スポーツ800」と言ってきたか、それは長谷川氏の話の中では終始「スポーツ800」とおっしゃって、終ぞ「ヨタハチ」とは一言も言わなかったからです。今に至るまで言っていないのです。筆者はそこに長谷川氏の開発主査としての誇りを感じたのです。別に根拠はありません。ただ、そんな長谷川氏に敬意を表して筆者は「ヨタハチ」とは極力言わないことにしたのです。
 長谷川氏とのトヨタスポーツ800についての話ははっきり言って衝撃の連続でした。つまり、我々が雑誌などから得た情報がいかに間違っていることなのかを認識させられたからです。刷り込みのように常識としていた知識が一部全くの嘘ないしは憶測にすぎなかったのです。トヨタ自動車工業、つまり長谷川氏側から見たトヨタスポーツ800のお話です。