それはライトバスから始まった

1.トヨタ ライトバスとは?

 昭和30年代後半、モータリゼーションも徐々に進展を見せて来ました。結果的には立ち消えとなった運輸省の国民車構想ですが、市場に与えた影響は大きかったようで、昭和33年には軽自動車のスバル360が、そして昭和36年には我らがパブリカが大衆乗用車として登場しました。モータリゼーションの進展はたとえて言えば扇が広がるように似ていて、消費者のニーズが少しづつ細分化して行き広がりを見せるのです。
 それまでトラックの荷台で運んでいた人をちゃんと屋根のある車で輸送したい。しかし、大型のバスでは運転するのに特別に免許を持つ人を持たなければいけない。何よりも余裕がありすぎる。
 具体的に言うと普通免許で運転が出来、25人前後の人員が乗れる小型のバスの需要が生まれました。そこで出来たのがRKライトバス、ダイナマイクロバス、そしてトヨペット マイクロバス(RK160系)であります。そしてこの当時ある程度の完成度をもって生産されたマイクロバス、それがこのトヨタ ライトバス(RK170系)なのです。登場は昭和38年4月。現代のドラマのロケバスの定番、トヨタ コースターまで脈々と受け継がれるマイクロバスの系譜、トヨタ ライトバスはその始まりとも言える車なのです。

ライトバス

トヨタ ライトバス(標準ルーフ シングルタイヤ車)


2.小型バスの悩み、クーラー装備

 世はまさに高度経済成長の只中、あれよあれよと言う間に生活レベルは向上していきました。喫茶店、百貨店などは冷房完備は当たり前、職場にも冷房が次々と入っていきます。この時流に自動車も乗らない訳はなく、大勢の人が乗るバスだからこそクーラーが必要となりました。しかし、小型のバスにはことはそうはうまくいかなかったのです。もちろん価格という面での難点もあります。しかし、純粋に技術的な面から難点を挙げると、走行用に装備しているエンジンからクーラーの駆動に必要な動力を取り出すと走行に著しく悪影響を及ぼす。つまりクーラーを駆動すると走らなくなるということです。もう一つの方法としてサブエンジンを使ってクーラーを駆動する方法(結果的にはライトバスはこの方法を取る)がありますが、サブエンジンの重量、出力などが適切にバランスされて使用に適切なエンジンがない。軽くて小さくてそこそこ出力があるエンジンがなかなかない。新開発するにはコストがかかりすぎる。クーラー装備でただでさえ価格が高くなりそうなのにこれ以上はちょっと…。価格と性能を高度にバランスすることが実に難しかったのです。

3.小型?軽量?パブリカのエンジン!

 前述の通り、価格と性能をバランスさせてなおかつクーラーを装備する。そのためにはメインのエンジンをより強力なものに代えるか、クーラー駆動用のサブエンジンを使うか。いずれにしても価格を考えるなら既存のものを使用することが条件です。この当時のライトバスに使われていたエンジンは3R−B型。最大出力80馬力/4600rpm時、最大トルク14.5s−m/2600rpm時となっています。仮に最大出力をもっと出せるようにすると、重い車体を引っ張るのに必要な良好なトルクを駄目にしてしまう。結果使いにくいエンジンにしてしまう可能性があるので、これ以上のパワーアップは望めません。じゃあ、トヨタに既にあるエンジンで軽くてそこそこパワーのあるエンジンは?…そうだ、パブリカのエンジンがあるじゃないか。一番小さいエンジンが我らがパブリカのエンジンなのですから、選択の余地はありません。