第ニ章 「バラビアの地」

第二章・第三章 あらすじ

 アギライ女史は早速、バラビアネス(以下バラビアに割愛)の任務を全うすべく、まずバラビア環状病院への侵入・及び脱出経路の作戦案を2日がかりで練り上げ、そのまた2日後の深夜、地上に向けて、単身現地へ向かった。

 ある意味、奇襲作戦とも言えるので、巡航船フィラデルフィアは非常時に使用することとし、艦長のコガと副長モルは地球周回軌道上の同船内にて、待機していた。

 また、その作戦の情報は、MISM作戦部から諜報部へ。そして地上にあるMISMバラビア支部経由で、バラビア諜報部員「ne」(ネマスの暗号名)に送られ、あとは「ne」の連絡を待って、実施時刻・進入経路等を最終的に決定する予定であったが、約10日ほど前から「ne」とMISM諜報部とは、連絡不能になっていた。

 事態を憂慮した、作戦部部長ブラッドバーンは作戦の中止を決定。現地へ到着、待機中であるはずのアギライ女史に、作戦中止の指令を出したのだが・・・。

バラビアネスへ

 4日後、整備を終えた巡航宇宙艦艇「フィラデルフィア」は、バラビア作戦実施のため、地球の周回軌道上にいた。俗に「連絡橋」と呼ばれる、地球と宇宙とを行き帰する為の、転送ステーションに向かうためだ。

「あとどれくらいだ?」とコガがモルに聞いた。

「あと約25分で連絡橋にコンタクトします」

「よし、そろそろ司令を起こすか」とコガは言った。
「いいんですか?起こしちゃって・・・」モルは航海ディスプレイから顔を上げた。

「ヤツが起こせといったんだ、かまわないだろう」
「じゃあ司令を起こしますよ」
 モルはそう言うと、端末のキーボードに腕を伸ばし、船内モニターをチェックした。

 その頃、アギライ女史は、フィラデルフィア内の睡眠区画で仮眠をとっていた。

バラビアネスへ(その2)

「いや、まだ起こさなくていい」と、ガルフ総括は、コガ艦長に言った。
 コガが振り返る。

「連絡橋までの指揮は、私がとる。とにかく今、彼女に必要なのは休息なんだ」
「わかりました」コガは同意した。

「綿密に計画は立てたが、今度の任務は女史にとって非常に危険なものになるだろう・・・」とガルフは言った。

「せめていっしょに行けぬのなら、任務の詳細を教えていただきたい」コガは続けた
「我々には司令を守る義務がありますからね」

「うむ・・・」とガルフはうなずき、考え深げに目線をコガとモルに向けた。

「わかった、連絡橋到着までには、まだ間がある・・・任務の詳細と現場の断片的な情報を教えよう」
 ガルフはそう言うと、船内メインデッキから見える地球を見ながら任務の詳細を語りはじめた。

バラビアの詳細(元23課司令ハンスと諜報部長クー女史)

「バラビアネス環状病院、通称"メガへクス"」
「一辺の長さが、約160キロ、人間が地上に作り出した巨大地下施設といえます」

 諜報部長クー女史は続けた。

「地上に出ている建造物はごく一部で、その巨大さにもかかわらず、出入口は現在のところ2箇所しか確認されていません」

 ハンスはうなずいた。
「噂には聞いているが・・・あそこの情報収集担当は君らの仕事だったね」

「だからこうして来ているのです、内部で何が行われているのか、こちらも情報は把握しつつありますが、侵入実施には、まだ情報そのものが、十分とは言えません」
 
 そして、クーは、ハンスを見ながら言った。
「今回のアギライの行動は、危険すぎます」

クー女史の憂慮

「せめてアギライの先任者たる、あなたが現場で指揮をとれば、何の問題もないのです」

 ハンスは、たばこをふかしながら言った。
「しかしね、今の司令はアギライだ・・・、わしは一助言者でしかない」

 クーは、手に持っているペンを、デスクにつつきながら言った。
「アギライ女史が有能であることは認めますが、経験が足らないのも、又事実です」

「危険な事は、十分認識している・・・」とハンスは言った。
「もし任務が失敗した場合、バラビアの非人道的行動をとる連中は、アギライを利用しようとするだろう」

 クーはハンスに言った。
「私には人命より、任務を優先する、あなたが理解できかねます」
 そして強い調子で続けた。
「とにかく今回の任務は中止すべきです」

 間をおいてハンスは言った。
「残念だが、それは出来ないだろうな・・・」
 ハンスはそうゆうと、吸い殻をもみ消し、もう一本のたばこをシガレットケースから取り出すと火をつけた。

 クーはハンスをにらみつけた。

バラビアの真相

「今、バラビアでホロコーストが行われているのを、君は認めるかね?」

 クーは、驚きの表情みせた。

 灰皿に手を伸ばしながら、ハンスは続けた。
「アギライの任務は、それも調査することにある・・・これは極秘だがね」

 クー女史は、信じられなかった。
「諜報部でも把握していないのに、なぜそれを知って・・・」とクー女史が言いかけた時、ハンスは遮り言った。

「クー女史、事態は急を告げている、もう一刻の猶予はならんのだ」

 たばこの煙が、まるでクー女史の無力感を表すように、漂っていた。

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