第八章 「託された使命」

あらすじ

 事実上活動不能になってしまった、ネマス以下緊急23課のメンバー達。しかしその行動を監視していたダイス大佐もまた、国務長官ブレストの陰謀に翻弄されるのだった。一方、作戦部長ブラッドバーンは側近であるカイザー書記官の強力な支援を得て、ついにブレストの陰謀を阻止する為の情報を入手し、諜報部の協力のもとに独自の作戦案を練っていた。そしてアギライ女史は、ベラショウが残したアルビド・コントロールへの手がかりをもとに最後のアプローチを開始。アルビド機動要塞落下阻止にむけて、必死のオペレーションに挑んでいた。
ブレストの魔の手
「・・・信じて、待つ・・・か」と、ネマスはつぶやいた。

 フィラデルフィア艦内の医務室に監禁された、緊急23課TECH23のメンバー達。ネマスの脇ではモル技官が、寝袋にくるまり仮眠をとっていた。またコガ艦長は、フィラデルフィアが占拠された際、負傷した個所の傷口が予想以上に深く、モル技官が応急手当をした時以来眠っているのか、医務室のベッドで横になったまま、動かなかった。ネマスは疲れと無力感で、ただ何も出来ず、膝に毛布をかけて座っているしかなかった。

 その医務室の様子を、監視カメラで見ていたダイス大佐は言った。
「これでいいんだな」

 別のモニターごしに、太い静かなブレストの声が、ダイスのそれに応答した。
「あぁっ、ご苦労だった。ところでキミらの今後の行動内容だが・・・」と、ブレストが言いかけた時、突然、彼を映し出していたモニター画面がプツリと消えた。

「・・・通信班どうした?」とダイスは言った。

「回線が切断」と通信班長が呼応する。

 それから数秒後、フィラデルフィアの下部にドッキングしていた、巡航艦デトロイトの右舷下部が飛散、同時にすさまじい閃光と共に爆発した。
ブレストの魔の手 その2
「さようなら・・・ダイス大佐」とブレストは言った。
「醜いものを消すために、キミは尊い犠牲者となったのだ」

 月面MISM本部のオペレーションセンターに、ブレストはいた。彼の前にあるモニター画面には、爆発の惨状が映し出されていた。「これで邪魔者は消え失せたな」とブレストは、心の中でつぶやいた。そして彼のシナリオどおりに、物事が運んでいるので、彼はいっそうの満足感を覚えた。

「あとは、あの機動要塞さえ落ちれば、全ては完了する」

 ブレストは、その満足感に浸ることなく、素早く次の指令を部下に命じた。
「マウントゼロは作戦続行、最終段階に入れ!」

 部下は復唱し、MISM本部にある作戦指揮中枢ユニット「マウントゼロ」に、命令をインプットし始める。そして作戦実行用の監視モニターに、次々と指令の内容が映し出されていく。

「アルビド機動要塞消去作戦、最終指令。同機動要塞及ビ、旧コントロールセンターヲ、破壊セヨ。イカナル損害モ、考慮外トス。実行マデ30ミニッツ、カウントダウン開始」
ブラッドバーンとカイザー
「確かか!?」
 MISM本部の作戦部部長室にいたブラッドバーンは、カイザー書記官からの報告を聞くなり、そう言って驚いた表情を浮かべた。カイザーは答えた。

「間違いありません、ブレスト国務長官はアルビド機動要塞を熟知しています。しかも意外な事がわかりましたよ、これを見て下さい」

 カイザーはそう言うと、諜報部用のファイリングケースから、写真を1枚取り出し、ブラッドに見せた。

 古いその写真には、手前に人物が2人写っており、奥には何かに使用する機材が置かれ、どこかの工場内で撮影されたもののようだった。が、ブラッドバーンには、その写真の意味をすぐに理解したようだった。

「・・・これはブレスト・・・そうか!昔、アルビド社はヤツがオーナーだった」
 カイザーはうなずいた。
作戦部長の思案と行動
 だが、作戦部長ブラッドバーンの表情は、すぐに曇った。
「いい写真だが、これだけでは何もできない。物証がいる・・・もっと確実な物だ」

 ブラッドに、注意深く考えながら話すときの癖が出た。目線を右にそらし、素早く瞬きをする。そして彼はつぶやくように言った。
「何かこう・・・、アルビドとブレストをつなげる、決定的な・・・・・!」突然、ブラッドはカイザーに視線を戻すと言った。

「カイザー君、やはり直にアルビドをおさえるしかない。ブレストの狙いもそれだ!!」

 ブラッドは立ち上がりながら、続けた。
「つまりこれはMISMの意図ではなく、ブレストの清算。ヤツの汚い過去を切り捨てるためのものだ」

 カイザーは、コートを着るブラッドに向かって言う。
「・・・そして、アルビド機動要塞に全てのカギがある・・・と」

 コートをはおると、ブラッドは満足そうにうなずき、言った。
「現場の指揮はキミに任せる」今度はカイザーがうなずく。

「部長はどこへ行かれるのですか?」
 カイザーの脇を通り過ぎるブラッドバーンに、カイザーはたずねた。

「無論、ブレストに会いに行く・・・。あらゆる手段を講じておく中で、これが私に出来る唯一の役目だからね」
最後のアプローチ
 目の前にあるコントロールパネルをアギライは操作している。
<アギライさん、あなたならこの悪魔を、この世から消し去る事が出来ます>
 ベラショウの言葉がアギライの脳裏に浮かんだ。

 アギライ女史は、炎の塔の最上階にあるアルビド・コントロールセンターへ通じる、最後の扉(カプセル)に乗り込み、アプローチを開始していた。とはいえ、カプセル内は荒れ果て、端末の電源を供給するところからの復旧作業は、順調に進んでいたものの、やはり時間がかかっていた。

 最後の通信線をつなぎながら、彼女は心の中でつぶやいていた。
「・・・私は、アルビドが地上に落ちないようにすれば、それでいい」

 しばらくして、通信用ケーブルの接続は終わり、それぞれに絶縁用のテープを巻いてゆく。
「そしてベラショウさん。あなたの存在が嘘でもいい、私はあなたを守りたい」

 全ての復旧作業が終わると、彼女は祈る気持ちで、両サイドにある手動用起動レバーに手をかけた。
「だから、蘇って!アルビド・コントロール!!」

 起動レバーを起こすと、鈍い金属音がカプセル内に響いた。そして、彼女の前にあるコントロールパネルに手動起動のランプが灯った。
エルドラの言葉
 アギライの願いも空しく、アギライを乗せたカプセルは起動しなかった。
「・・・・・」
 コントロールパネルには、起動拒否の文字が点灯する。

「・・・動かない・・・」
 その時、アギライの目の前で消えてしまったベラショウ・・・かつての、アルベルト女史がつぶやいた言葉が、彼女の脳裏をかすめた。

<起動命令はエルドラ語で。そして必ずあの言葉を言って下さい>

「昔、地上で暮らしていたとき、必ず毎朝唱えていた・・・、あの言葉!」
 アギライは思いだし、そして言った。

「スパシニオン・デル・アランドロス」(闇に光を)

 すると、コントロールパネルに表示されていた起動拒否の文字が消えた。

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