第十章 「奇跡の終局」

あらすじ

 月面MISM本部総合指令塔付近に転位してきたアルビド機動要塞は、自身の再転位によって時空の彼方へと消えてしまった。しかし、アルビドと時を同じくして転位してきた巡航艦フィラデルフィアとデトロイトは、月面を滑るように胴体着陸をしたものの、そのほとんどが大破して月面に埋まってしまっていた。MISM作戦部書記官カイザーのもと、それらの乗務員の救出活動が始まったが、ネマスを含む緊急第23課のメンバーらの安否は依然不明であった。また月面地下都市にあった「炎の塔」跡地では、MISM諜報部部長クー女史の指揮のもと、懸命のアギライ司令の捜索活動が始まっていた。
炎の塔跡地
 夢の中でアルベルト(本名ベラショウ)女史がアギライに言う。
「ありがとう・・・そして、さようなら」
 しばらく眠っている時と同じように、闇と静寂がアギライをつつむ。

 アギライ司令を乗せていたカプセルは、そのまま緊急脱出用の保護カプセルとしても機能していたのだった。

「・・・光が眩しい!」
 アギライがそう思った時、彼女の意識が現実に戻った。そして目の前には、ライトをもった諜報部部長クー女史がいた。

「大丈夫!?」
 クー女史は声をかけたが、一瞬アギライには現状が理解できなかった。強い精神的ショックから、今まで何をしていたのか、そして今、何が起こっているのか、把握できないのだ。彼女はただクー女史の顔を見て、呆然としている。

「よかった・・・間に合って、あなたは運がいいわね」
 クー女史はそう言うと、カプセル内にいたアギライの身体に光をあてて、負傷箇所が無いかどうか調べた。
アギライ司令救出
 アギライを載せていたカプセルの外側は、炎の塔崩壊時に激しく破壊されてはいたものの、その内側は保護されていた。またアギライ女史に大きな怪我は無いようだったが、左ひざの付近から若干出血しているのを、クー女史が見つけた。

 カプセルの外では諜報部の隊員数名がいて、救出の際に使用した機材などをかたずけていた。

「あ・・・ありがとう」
 アギライはその隊員達に声を掛けた。隊員達は笑顔を見せ、うなずいた。

「私・・・、」とアギライが言いかけた時、そばにいたクー女史がその経緯を説明した。
「全て、終わったわ」クー女史は続けた。

「アルビド機動要塞は地球に落ちる寸前に、フィアデルフィアと転位して、月面MISM本部塔脇に出現。その脇をかすめた後にアルビド機動要塞は再転位して消滅。そしてフィラデルフィアは月面に胴体着陸。今、作戦部の指揮でフィラデルフィア乗組員の救出活動が開始されたとの報告が入ったわ」

 アギライが動こうとしたので、クー女史は制止した。
「動かないで!出血がひどくなるわ・・・ちょっと待ってて、手当します。安心して、これでも私、医者のライセンスがあるのよ」
緊急第23課メンバーの救出
 月面に激突し大破したフィラデルフィアの船内に、カイザー書記官率いる作戦部救出班は進入していた。船外には約50名程のMISM救護隊員らが活動しており、内部進入班と連絡をとりつつその支援にあたっていた。

 フィラデルフィアは月面に横たわる感じで、その半分を月面に沈めていて、船外各所にある非常用ハッチには、高濃度の酸素注入口が設置され、その船内に空気を供給していた。

「誰か照明をくれ!」と、カイザーは防護ヘルメットをとりながら言った。
 カイザーの額に汗がにじむ。

 内部は暗く、足元を見ながら慎重に奥へと進んでゆく。

「・・・わずかだが船内に空気はあったようだ・・・生存者は必ずいる」
 カイザーは確信した。
緊急第23課メンバーの救出 その2
「カイザー班長、こっちに来て下さい!」
 その時、付近で行動していた隊員が叫んだ。
「右奥、医務室付近で乗員らしき人物を発見しました!」

 カイザーはすぐに現場に行き、倒れた人影を確認した。よく見ると、ネマスが頭から血を流して倒れていた。彼は素早く2本指をネマスの首もとに当てがった。

「まだ脈がある!・・・救護班こっちだ!!早く来い!!」

 しばらくしてカイザーは、そばにモルとコガも倒れているのを発見し、その生存を確認した。

「どうやら間に合ったようだ・・・気をつけろ、頭を打っている」

 カイザーら作戦部救出班は結局、フィラデルフィアからネマスら3名を救出し、同時にフィラデルフィアにドッキングしていた、デトロイトからは15名の負傷者と約22名の死者を収容したのだった。
結末
 そして一か月後。

 結局、アルビド機動要塞は時代の流れに翻弄され、地球に落下する事なく、その生涯を終えた。

 しかし驚くべき事は、月面地下都市にいたアルベルトを名乗っていたベラショウ女史は、その昔実にブレストの元妻であったという事だ。しかしその後、彼女は出世したブレストに捨てられ、その復讐の機会を戦後、炎の塔のメインコアとなって、あの地下都市で待ち続けていたらしい。

 ところで巡航艦フィラデルフィアの修理も完全に終わり、任務に復帰したアギライ司令以下、緊急第23課のメンバーはというと・・・。

「もう、何度言ったらわかるのよ!!」
 とネマスはコガに反論した。
「わかんねーヤローだな、だからそれじぁエンジンによくねーんだよ!!」
 コガはコンソールに右手のこぶしを叩きながら、怒鳴った。

 ・・・と、相変わらずの光景が戻っていた。

 そのフィラデルフィア前部にある、乗務兼指令室デッキにある司令席で、仮眠をとっているアギライ司令の机の上には、地球(エルドラ)からの手紙が置かれていた。

<感謝状。今回、あなた方の勇気ある行動に感謝いたします。地上に来られる際には、ぜひエルドラへおいで下さい。国をあげて歓迎いたします。>
作者あとがき
 今回、この「アルビド機動要塞」を読んでいただき、どうもありがとうございました。後は参考ですが、この作品は前回の「フィラデルフィア・ファイナル・エキスプレス」の約1.5倍の原稿量となっています。初ページ執筆の日付が1996年(平成8年)12月18日で、執筆終了日が1998年(平成10年)6月24日となっていますから、約1年半がかりの作品となりました。ところで、これからの課題ですが、次回の作品をまた「小説」という形で発表するか、とりあえず今までの作品を漫画化して「オンライン・コミック」とするかは、現在考案中です。とはいえ、計2作品をホームページで発表できた事は、自分にとって喜びであり、かつ幸せな事でした。自分としては、今後も新しい作品を生む挑戦は続けるつもりです。これからも皆さまの期待にそえるよう努力してまいりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

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