2009年7月下旬取材
チベット仏教のシンボル 法輪と鹿
チベット自治区は中国の南西国境地帯、青海とチベット高原の南西部にある。 面積は約120万平方キロ、日本の約3,3倍、人口は230万人のチベット民族の自治区である。 チベット高原の平均標高は4000mと世界で最も高く広く、7000mを越える山が50余、8000m以上が11とまさに世界の屋根である。ラサは自治区の都でチベットの政治、経済、文化の中心であり、チベット仏教の聖地である。昨今の急激な観光地化、農業の近代化にともない人口は30万人と急増している。 中国のチベット開放、封建社会の開放以来中国政府の経済復興、農業の近代化、教育制度の充実等の活性化に変化がるものの長年の転生思想に反するチベット仏教への否定、民族による自主統治への政治問題、民族問題が報道されているのは周知の通りである。 険しい青蔵公路を五体投地でラサに向かう巡礼者達の強靭な精神力に感服しながら、車にあふれた市内に入る。目に入ったのは暴動の監視に銃を持った沢山の兵隊とその施設の多さ。スローガンが大道に掲げられている。 「西蔵明年更美好」、日本語では「チベットは来年さらに良くなる」。 いろんな意味でこのスローガンはこの旅で実感できるだろうか。 ポタラ宮早朝、中国の兵隊の目を気にしながら早速ポタラ宮の撮影に向かう。 市内の小高い丘・マリポリの丘の上にたつポタラ宮はダライラマの居城として知られている。 今は博物館となっている。 高さ117m、13層のチベット最大の建築物で、観音菩薩がチベットを見守るために選んだところとも伝えられている。現在のポタラ宮は7世紀にチベットを統一したソンツエンガンボが築いた宮殿を17世紀にダライラマ5世により50年かけて拡充建設されたものである。 ひときわ目立つ白宮は政治的なもの、赤宮は宗教的なことを行うことをはじめとするいろいろな建物で構成されており、部屋数は100以上あるといわれる。 未明の5時半頃、すでに門前には本堂に向かって五体投地の礼拝をしている人がいた。 また宮殿を一周すれば功徳が積まれるといわれ、巡礼者が祈りの言葉を唱えながら歩いている。兵隊が警備している人民広場から朝日に威容を誇るチベットの高層建築を眺める。空はどこまでも青く白宮、赤宮が迫ってくる。 日の出と共に沢山の巡礼者の礼拝が門前で行われる。チベット仏教で最高の礼拝といわれる五体投地礼は両手を頭上まで高く上げ合掌したのち、頭と両肘、両膝を大地に投げ出して祈る。チベットの人が人々の苦しみを救う観音様に呼びかける「オム・マニ・ベメ・フム」の祈りの言葉を唱えながら行う荒行である。 必死で祈る人たち、額にコブの出来た人もいる。ここでは5分から10分ぐらいを要す祈りだろうか。祈りのあとの清清しい表情にも心奪われる。輪廻転生、家族への祈りを捧げる人が多い。礼拝は延々と続く悠久の祈りがある。 予め申し込み許可を得たポタラ宮の内部見学を行う。 外国人の入場料は200元と高く見学時間も1時間以内、宮内撮影禁止と制限が厳しい。この他ラサへの入るためにも50元、事前審査が必要である。 急な石畳を登り宮内に入る。通路は狭く階段も険しく部屋と複雑に入り組んでおり文物がぎっしりと配置されている。金箔の仏像、壁画、経典そして金箔の霊塔には圧倒される。歴代のダライラマやパンチェンラマは観音の化身として崇拝されているが、その遺体はミイラ状態で仏塔内に安置され、肉身霊塔とも呼ばれ最高の格式を誇っている。霊塔に収納する遺体はチベット医学、美術工芸を駆使し世界一級とされている。 資料によるとチベット仏教史上最高の権力者ダライラマ5世の霊塔は、高さが14,85m、黄金3724キロ、宝石1万5千個余が使われているという豪華なものである。霊塔の中の遺体には顔に表情があり、皮膚に弾力性があったとも、また細胞が薬草の効用で生き残っているとまで伝われている。 あっという間の見学の制限時間が来てしまう。 ポタラ宮はただ覗くだけの見学ではとても理解できなかったが、文物やチベットの歴史が凝縮されており十分に魅了されるものだった。同時に見学した巡礼者の信仰心の強さに何者にも左右されない心の中の祈りを見た思いであった。 見学を終え市内を見下ろす。ポタラ宮の前にある中国政府がつくった独立解放広場が整然として静けさを保っていた。 |