2010,9月取材
私の30年来の友人である松根さんがライフワークで取り組んでいる“文字と印刷のコレクション展”が現在お住まいの佐賀県みやき町の美術館で7月20日―9月10日まで開催された。 氏は千葉大学工学部を卒業、大日本印刷をはじめ著名な印刷会社で生産技術を担当多くの実績をあげ退社後、全国の印刷会社の技術コンサルタントとして品質の標準化、技術者の育成で印刷業界の発展に貢献されている方である。 「漢字文化の旅人」、「生きている象形文字に会いたくて」、「印刷はむずかしい」など6冊の著書、中国28回、ヨーロッパ25回など計90回の渡航暦をもつ文字の実践研究者である。今回の展示はこの間ライフワークとして取り組んだコレクションの刷り物、巻物、書籍、版、掛け軸など約80点が発表された。 大きな会場に入る。三度の飯より活字の飯が好きな本の虫の松根さんが眼鏡越しに微笑む。中国政府寧夏自治区から西夏文字の研究で贈呈された大きな「龍」が出迎える。氏にとってのコレクションは自分の子供を紹介するようなものだろうか、人生の生き様を語っているようなものであろうか。 敦煌から出土した長さ5Mの世界最古の木版刷り(金剛経のレプリカ)、印刷術を急速に普及させたグーテンベルグの「42行聖書」、朝鮮で金属活字を用い世界最初に印刷、製本された「直字」、生きている象形文字トンパ文字の辞書、ようやく最近解読がなされた西夏文字、そして亀甲文字の実物など貴重なコレクションが競うように展示されている。文字、情報に関心のある方には興奮冷めやらないものばかりである。 中国の四大発明(紙、印刷、火薬、羅針盤)とルネッサンス三大発明(印刷、火薬、羅針盤)と言われたように印刷の果たした役割は実に大きい。松根コレクションは分かりやすく展示され、説明も情熱的である。これだけのものを良く収集されたと驚き、感激、往時に思いを馳せる。 蔵書一つ一つに氏の文字印刷に寄せる熱き想いが貫かれている。 今回展示の狙いを「印刷文字が電子文字に移行している今こそ印刷文字の歴史に果たした役割を検証したい」「人がアナログ文字から受ける創造性は計り知れない」と強調する四国生まれの“いごっそう”。その言葉に印刷の道一筋で52年、文字と歩いた印刷人の人生のロマンそのものが伝わってくる。 |