無印粗品    (「青葉譜」第8号・掲載)
◇ 登場人物
X氏「青葉譜を憂慮する会(仮称)」主宰。近年の青葉譜に見られる、軽薄な印象を与える表現に対して
  激しい敵意を抱いている。この種の文章の撲滅を目指し、各地で草の根運動を展開中、らしい。
t  本稿の作品提供者。「詰将棋作家」の肩書で対戦相手にプレッシャーをかける、というもくろみは
  未だ果たせずにいる。本人がその肩書きにプレッシャーを感じているようでは無理もない・・・か。
T  本稿の著者、かつX氏のターゲット。詰将棋を解くのは大の苦手で、わからないと詰めろをかけて
  ごまかす。そんな日頃の努力が実を結び(?)、いまやその勝負弱さにおいて右に出る者はいない。

 某日、某所にて・・・。
X氏「ちょっと気になる話を小耳にはさんだのだが・・」
T 「どうしたんです? そんな深刻そうな顔して・・」
X氏「君がまた原稿の依頼を承知したとか聞いたが・・」
T 「ああ、その話ですか。そうなんですよ。1OBになって、やっと読者の側にまわれると思ってたのに」
X氏「だったら黙ってそうすればいいのに・・・。ところで、今回こそ少しは硬めの文を書くんだろうね?」
T 「当然ですよ! まあ、現役諸氏のユーモアに富んだ原稿の中にあって『逆オアシス』的役割は果たせ
  ようから、緊張の一瞬をお過ごしいただければ・・」
X氏「えーい、みなまで言うな! よくもまあそんなことをぬけぬけと・・・。だいたい君の去年の講座は
  なんなの? あれで終盤が弱くなってしまった、という声が後を絶たないのだよ。知ってるだろうね?」
T 「それは私のせいじゃなくて本人の問題なのでは?」
X氏「いいや、君のせいだ。我々の行ったアンケートの結果でも明らかなのだ。そこで君にお願いがあるの
  だ。去年の講座で終盤が弱くなった人のために・・」
T 「わかりました! 早速『「爽やか?」な終盤・パート2」の執筆にとりかからせていただきますよ!」
X氏「ちがーう! 一体どういう思考回路をしてるの?」
T 「話の流れからすれば必然だと思ったんですがね!」
X氏「どこが・・・・。そうじゃなくて君にやってもらいたいのはtが作った詰将棋の解説なんだよ・・・」
T 「ダメですよ! 私にだって予定があるんですから」
X氏「ほー、で、今度は一体何を書くつもりなんだい?」
T 「感動のあまり卒倒しないでくださいよ! 今回は飛車を捌くのがド下手な人に愛と勇気と希望を与え
  る講座なんです。題して『サバケン飛車の正体』!!」
X氏「なにそれ!? 君は読者を廃人にするつもりかい?」
T 「そんなつもりはありませんよ! しかしなんでまた私がtの詰将棋を紹介しなきゃいけないのです?」
X氏「だから・・・・・、読者の終盤力回復のためだよ」
T 「そんなの個人の努力次第でしょう。それに詰将棋のようなマニアックなものでは誰も読みませんよ!」
X氏「そうは思わないよ。君のあのマニアックな講座でも読む人がいるんだからね(苦情の手紙の存在より
  明らかという)。まあ内容がマニアックなら文章をノーマルにすればいいだろう。とにかく頼んだよ!」

 数日後、某所にて・・・。         
「どういう理由だか知らないけど、君の詰将棋の解説
 を書かされるはめになってしまったよ」
「理由は火を見るより明らかなんじゃないの? 『詰
 将棋の解説まかせとけば、あの有害な文章は載らない
 から』とかなんとかX氏は言ってたけど・・・」
「やはりそういうことだったのか!」
「文章が有害だけならまだしも、内容まできわめて
 有害ときてるからどうにも救いようがない・・・・・」
「うーぬ、そこまで言うか・・・」
「あ、そこまでは言ってませんでしたよ。今のは私の
 意見です。根が正直なもので、ついつい本音が・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・ところで詰将棋は?」
「7手詰を2問と17手詰と23手詰を持ってきましたよ」 
「どうしてそんなややこしいのを選んでくるの? ど
 うせなら1手詰・3手詰特集にしてくれればいいのに」
「そういうわけにはいきませんよ。君のレベルにあわ
 せて作っているんじゃないですからね!」
「(色をなして)な、なんてこと言うんです!・・・ほんとは単に短編を作れないだけなのと違いますか?」
「(動揺して)そ、そっちこそなんてこと言うんですか! 失敬な!! ・・・まるで図星じゃないですか!」
「やはりそうでしたか。ま、そんなことはどうでもいいんですがね・・・・。では問題を見せてくださいよ」
「・・・それじゃ、とりあえず七手詰2問からどうぞ」
「・・・・・・・・とけましたー!(NHK将棋講座の元アシスタントOさんのように)」
「君にこんなに速く解かれるなんて・・・。これじゃ『詰む将棋』だな。恥ずかしくて載せられやしないよ」
「うっ、ひ、ひどい・・、ひどすぎるぅっ・・・・・」
「まさか七手詰を七分で解かれるとは思わなかったんですよ。7級は十分にありますね。私が保証します!」
「ありがとうございますっ!(再びOさんのように)・・・・・って全然嬉しくありませんよっ!!」

第1問の解答

「しかしひどい形ですねー。それに七手詰で持駒4枚だし・・・・。もう少し駒数を減らせないんですか?」
「減らそうと思えば減らせますよ。でも一度でいいからあぶり出しを作ってみたかったんで無理やり駒を足
 したんですよ(そこまでするかねー)。4七桂は苦心の配置で香だと3八歩が不要になってしまうんですよ」
「へー、そういうもんですか。でも私は▲4六金以下△同玉▲5七角打△5六玉▲6六金まで、と解いたん
 で、あぶり出しというのには全然気づきませんでしたよ」
「少しは作者の意を汲んでくださいよー」
「(作意手順を並べて)なるほど、これは『七』のようですね。ところでどうして『七』にしたんですか?」
「ほんとニブイですねー。今年で青葉譜は第・・・・」
「えーっと、(自信を持って)確か六号でしたよね?」
「何を言ってるんですか! 七号ですよ! 七号!」
「ハハ、冗談ですよ。まさか私が知らないと思ってるんじゃないでしょうね。ヤだなー、まったく・・・。
 でも六号じゃなくて良かったですよね! いくらなんでも『6』や『六』のあぶり出しはできないでしょう」
「・・・・・さぁ、次に進みましょうか」
「これもあぶり出しじゃないでしょうね」
「いいえ、これはフツーです。安心して(?)ください」
「しかし、こういうふうに不自然に駒があたっているのはイヤですね。ついつい▲4四馬としちゃいますよ」
「これは詰将棋ですよ! 王手をかけてくださいよ!」
「でも▲4四馬とすれば大駒4枚になるじゃないですか! 相入玉になれば絶対勝つと思うんですけどね!」
「誰が入玉しろと言いました? 詰ましなさいよっ!」
「イヤです!!」
「×××××××××××××××××××××××」
「×××××××××××××××××××××××」
「まあまあ、お互い冷静になりましょうよ。・・・そ
 れじゃ攻方に1九玉を置くことにしましょう。▲4四
 馬なら△2八香成ですから詰ますしかないですよね?」
「うーん、こうなったら意地でも竜を取ってやるっ!!
 ・・・・とりあえず▲2五銀打とでもしましょうか!」
「めちゃめちゃダサイですねー! 詰ます気あるの?」
「ありませんよ! 目の前に竜が落ちているのに詰ます
 なんて!・・・そんな理不尽なこと出来ませんよ!!」
 あきれはてていたtだったが、以下△4七玉▲5七飛
△3八玉▲3七飛△同玉▲2八金△4七玉▲4四馬と進
み竜がはずれてしまった(ついでに詰めろもはずれた)。
「どうです!(得意満面である)詰まさなくても勝て
るんですよ!! 君も私の講座で勉強したらどうです?」
「誰があんな邪道なものを読みますか! それより今
度はこうしましょう(と言いつつ、攻方9九玉、玉方9七と・8七
とを置く)。さあ、これなら詰ますしかないでしょう」
「なんてひどいことを!・・・・・うーむ、降参です」
「そうですか! やっぱり詰みませんか!」
「いえいえ、どうしてもと金がぬけないんですよー!」

第2問の解答

「▲2六飛に△4七玉なら▲6五馬までです。▲4五
 銀に△4七玉も▲6五馬までです。わかりましたか?」
「▲2六飛に△同玉だったらどうするんですか?」
「これは驚きましたねえ! 作意手順はわからなくて
 もこの変化だけは逃さないと思ってたんだけど・・・。
 大好きな竜を取れば(▲4四馬)いいじゃないですか」
「なるほど!!!!!!すばらしい変化手順ですね!!」

「では後半の2問に移ります。と言っても七手詰の解
 けない人にいきなり解説してもチンプンカンプンでしょ
 うからね。まず、A図を解いてみてください」
「やけに簡単じゃないですか。▲3三銀打でしょ?」
「これは驚きましたね。少しは解くのが速くなったみ
 たいですね。で、△2三玉に?」
「えーっ、逃げるんですか? △同桂だと思ったのに」
「あのねー・・、五手詰くらい読み切ってくださいよ」
「・・・(数十秒後)そうか! ▲1三銀成ですね?」
「ようやくわかりましたか。以下△同玉でも△同桂で
 も▲2二馬までです。これをふまえて第3問と第4問
 を解いてみてください」
「うーん、▲2二銀△3二玉▲3三銀打△2三玉▲1
 三銀成△同玉▲2二馬△1四玉、あれ???????」
「そのまんまの手順で詰むわけないでしょうが!」
「・・・▲5二とで金得するってのはどうでしょう?」
「全然ダメみたいですね。とっとと解答にいきましょうか」

第3問の解答

「▲1四角に△同香なら▲3三銀打以下の手順で詰むのはさっきやったからわかりますよね?」
「それはわかるけど飛合いなら詰まないんじゃない?」
「飛合いには▲3三銀打ではなく▲3三銀成として、以下△同桂▲2三角成△同玉▲2二飛△1四玉▲2六
 桂△1五玉▲1六銀までで詰むんですよ」
「そうか! それで1七歩が必要なんですね!・・・しかしこんな広がった配置では解く気がしませんよ!」
「(広がってなくても解く気なんかないくせして!)配置を6×6でおさめたければ(あまりおさまってな
 いが)1七歩の代わりに1六歩・3六歩と二枚使う手もあるけど、駒数が少ない方がいいかなと思って・・」
「1六歩一枚じゃダメなの?(ダメにきまっている)」
「1七歩を1六歩に代えただけでは初手から▲2二銀△3二玉▲3三銀打△2三玉▲1三銀成△同玉▲2二
 馬△1四玉▲3六角△2五合▲2六桂までの詰みです」
「なるほど、けっこう面倒なんですね」
「そうなんですよ。詰将棋は作意手順がすばらしくても、余詰があったら不完全作品となりますからね。悪
 手を連発してても運良く勝っちゃえばそれで良し、という誰かさんの将棋と一緒にされちゃ困るんですよ!」
「どうも誤解してるようですね。私の将棋は妥協を一切許さないことで知られているはずなんですが・・・」
「誰も『君の将棋』とは言ってませんけどねー!・・それとも何か思い当たるふしでもおありなんですか?」
「あ、ありませんよ!・・ところで今度は舟囲いじゃなくて穴熊の形をした詰将棋を作ってくれませんか?」
「なるほど、実戦では穴熊を崩せないもんだから詰将棋で憂さ晴らし、というわけですか?」
「いやー、べつにそーゆーわけじゃないんだけど・・」
「知ってますよ。特にイビアナにはからっきしダメだっていうのは。勝率二割だとか聞きましたけど・・・」
「二割? 失礼な!! 少なくとも三割は勝ってますよ!(『失礼な!!』と言うわりには冴えない・・・・)
 二割というのは自分がイビアナやった時の・・って何言わせんですか!」
「自分で勝手にしゃべってんでしょうが!」
「しっつれーしましたー」
「・・・・(まったくキミにはつきあっとれんわ!)」
「紙面の都合もありますし、第4問にいきましょうか」
「君の相手をしてるのがバカバカしくなってきたよ!」
「まあまあ、そう言わずに・・・、ヒント下さいよ!」
「・・・・、少しは考えようとしたらどうですか? 
 第3問の解答がわかれば超簡単なはずなんですがねー」
「考えたんですけど・・・、見当もつきませんよ・・」
「じゃあ大きなヒントをあげましょう! この問題も
 第3問と同じく金の合駒が出てくるんですよ!」
「持駒も同じ、合駒も同じか・・・。これで手順まで
 同じだったら笑っちゃいますよねー」
「実は手順も似てるんですよ。どちらもモトネタはA
 図ですからね、この2問は姉妹作というわけなんです」
「創作を再開したばかりなのに、ひょっとしてもうネ
 タが切れちゃったんですか? 才能ないんですねー!」
「解く才能ゼロの人にだけは言われたくないセリフで
 すね! そういうことは解いてから言って下さいよ!」
「解いてから・・・ですか? それって私にずーっと
 何も言うな!ってことですか?(大きくうなずくt)」

第4問の解答

「ほんとだ。第3問の手順とよく似てますねー」
「▲4四角・▲2三銀・▲3二馬が第3問の▲1四角・▲3三銀打・▲2二角成に対応しています。ところ
 で合駒の変化は大丈夫でしょうね?」
「他の合駒が早詰めなのはわかったんだけど、△同との変化が・・・、▲2三銀△2一玉▲3三桂△同竜▲
 2二歩△同竜▲同銀成△同玉▲3二飛△2三玉▲3一飛成△1二玉で詰まないのでは?」
「君はよっぽど詰ますのが嫌いなんだねー。3二じゃなくて4二から打てばおしまいじゃないの。ついでに
 言うと5二でも6二でも、・・9二でもいいんですよ」
「・・あと一つわからないところがあるんですよ。▲2二銀と▲2四竜は手順前後が可能なんじゃないの?」
「単に▲2四竜では△2二歩で詰みません。他にわからない変化などないですか?」
「そうですね。後半の方はまったく紛れがなくて一本道ですからね、全然問題ありませんよ!」
「解けないくせによくそんなこと言えますよね!・・ともかく解説は終わりましたので、あとは上手くまと
 めといてください。くれぐれも格調高い詰将棋の品位をおとしめるようなまねだけはしないでくださいよ!」
「よくもまあ『格調高い』なんて言えますね! どうせ投稿しても採用されないのだけ選んだのでしょう?」
「(うっ、鋭いっ!)な、なんてこと言うんですか! 知らない人が聞いたら本気にしちゃうじゃないの!」
「知ってる人が聞いたら納得しちゃうと思いますけどね!」
「・・・・・ここだけの話、じつは『×庫×掃×分×ー×』なんです。でも、これは書かないでくださいよ」
「安心してくださいよ!『在×一×処×セ×ル』なんて書きませんから。ちなみに今日の二人の会話は録音
 してますから、後はそれをもとに書くだけなんですよ」
「それじゃ安心できませんよ。だいたい詰将棋の話よりそれ以外のくだらない話の方が多かったじゃないの」
「大丈夫ですよ! あくまでもメインは詰将棋の解説ですからね。くだらない話は半分に削っときますよ!」
「その言葉、絶対、絶対、絶対忘れないで下さいよ!」
 これだけ念を押されては、いくら健忘症の気があるTといえども、忘れることなど出来ない。仕方がないので、
Tはくだらない話を半分にした。バランスをとるため、心ならずもメインのはずの詰将棋の解説も半分にしてし
まったのはあえて記すまでもない・・・けど記しておく。

 「青葉譜を憂慮する会(仮称)」の存在にも関わらず、こんな文章が何故掲載されているのだ!? これは矛盾
ではないか! と不審に思われる向きも多いことでしょう。
 うーむ、詰将棋の解説に全神経を傾けていたので(どこがじゃ?)、そこまで考えが及びませんでしたよ!
 まあ前回の私の講座を何回もチェックした結果、途方もなく終盤が弱くなってしまった哀れなX氏らは、詰将
棋の検討に膨大な時間を必要としたため、文章までチェックする余裕がなかった、ということにでもしておきま
しょうか・・・・。(これ以上突っ込まないでください)

◇ 文中の会話はフィクションであり、登場する一部の人物・団体は、実在するものと一切関係ありません。


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