北海道の低温と「昇温」

 

20021226日午前3時、北海道上川支庁・江丹別で−30.5℃を記録し、全国を通して今シーズン初めての−30度以下となった。

そのほか内陸では所々−25℃を下回り、厳しい冷え込みとなった。26日夜から27日朝にかけては上空約5000メートル(500hPa)には

50度前後という一冬に一度あるかどうかの非常に強い寒気の流入が予想されていたため、27日も厳しい冷え込みが予想されていたが、

その後の気温変化には興味深いものがあった。

江丹別の26日の気温は夕方以降も下がらず、23時から271時にかけては

9.6度まで上昇。273時の気温は−10.8度と前日を20度前後も上回った。

江丹別だけでなく、27日は全道的に26日より冷え込みの弱まった所が多く、

20度を下回ったのは数ヵ所にとどまった。

 上空に寒気が入り続けていた(というより、むしろ強まった)にも関わらず、

なぜこれほどまでに地上気温が急に上がったのだろうか。

 

 25日夜、日本付近は等圧線が縦縞模様に混み合った冬型の気圧配置で

あったが、北海道では全般に季節風が弱く(留萌の沿岸部の風向は東より)、

アメダスの降水、積雪深のデータから雪が降っている所は少なかったと

思われる。26日3時の地上気象観測によると旭川の雲量は2で、内陸では

晴れている所もあったようだ。

 これらより、内陸部の低温は上空の強い寒気もさることながら、地表付近から

上空の寒気

25日

26日

27日

09時

21時

09時

21時

09時

21時

稚内

850hPa

-19.1

-18.7

-19.3

-19.9

-20.9

-19.5

500hPa

-40.3

-39.3

-42.1

-48.1

-47.7

-37.7

札幌

850hPa

-16.7

-15.7

-16.1

-18.7

-20.3

-18.7

500hPa

-34.7

-34.7

-39.9

-45.5

-44.1

-33.9

根室

850hPa

-14.3

-14.9

-15.5

-15.5

-17.1

-18.1

500hPa

-33.5

-33.5

-38.1

-40.7

-49.1

-38.9

熱が奪われる効果も大きかったものと推測される。2521時の高層観測によると

北海道の上空約1300メートル(850hPa)の気温は−15〜−19℃前後だったので、

最下層には強い逆転層が形成されていたことになる。

 

 この状態が27日にかけてどのように変化したのだろうか。

 グラフは25日から27日までの江丹別(上川)・旭川(上川)・和寒(上川)・

朱鞠内(空知)・幌加内(空知)・羽幌(留萌)・留萌(留萌)の気温変化であるが、

各地とも26日朝の内から昼頃にかけて気温が急上昇している。これは降雪、及び、

沿岸部での季節風の吹き出しの開始とタイミングが重なる。地表付近にたまっていた

非常に冷たい空気は対流雲によって上空の空気とかきまぜられたのだろう。

 2621時の上空約1300メートルの気温は道北〜道央では−20℃前後と前日よりも

低いのに対し、地上気温は江丹別など内陸部では−10℃前後と逆に前日を大幅に上回っているが、850hPaの気温を湿潤断熱減率で地上まで

下ろすとこのくらいの値になる(1000hPaで−10℃、−20℃の飽和した空気塊の場合、湿潤断熱減率はそれぞれ7.4/km8.5/kmである)。

逆転層が解消されている状態ならば、むしろこれが上空の気温に対応した「妥当な」地上気温と言えるのである。

上空に流れ込んだ強い寒気と混合することにより、地上では気温が上がるというのはパラドキシカルな感じもするが、最下層の成層状態が

まったく違うことを考えれば、それほど不思議なことではない。

 

 北海道に限らないが、著しい低温は上空の寒気の強さだけでは判断できない。冬型が続いている時だけでなく、緩みかけた時――上空に

寒気が残っていて、地上付近の風が弱まり、雲もとれて地上付近の熱が奪われる、などの条件がそろう――にも起こりうる。冬型の気圧配置が

続いている時でも、その中で季節風、及び対流活動の強弱によって気温変化にアクセントがつく。今回の低温は上空の寒気が強かったうえに、

季節風の強弱にメリハリがあったため、気温変化がより強調されることになったと思われる。

 

 本題からは外れるが、沿岸部の留萌・羽幌の27日の気温変化を見ると午前中は低く、午後は高くなっている。これは内陸からの冷たい風、

相対的に暖かな日本海からの北西〜西よりの風、どちらが吹いているかに大きく影響を受けているようである。(27日の実況

 冬の季節風は一般的には寒さをもたらす代名詞のようなものだが、日本海側の地方にとっては吹かない時よりも気温を上げる場合がある。

ただし、これは気温の値そのものの話で、風などを含めた体感的な寒さは当然、別に扱わなければならない。

 

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