木枯らし1号

 木枯らし―――「晩秋から初冬にかけて木の葉を吹き散らす冷たい北よりの強風」のことで、初めての木枯らし
を「木枯らし1号」という。2005年、東京地方では11月12日の昼過ぎに発表された。
 しかし、ちょっと違和感が・・・・。確かに北風は強いけれども、そんなに寒くない。それもそのはず、気温は
20度近くまで上がり、前の日より4度ほど高いのだ。
 気温が高くても「木枯らし1号」と呼ぶのに差し支えはない。意外なことに気象庁の木枯らし1号の条件に気温
は入っていないのだ。
 気温を条件に入れていないのは賢明なのかもしれない。というのは関東地方は冬型の気圧配置の初日は
前日よりも気温が高くなることがしばしばあるからだ。鍵は日本付近を通る低気圧のコースにある。

 木枯らし1号が吹く前日、及び当日の典型的な天気図は下の2枚で、強風をもたらす一方の主役である低気圧は
日本海や沿海州付近からオホーツク海へ進むことが多い。
 2003年の木枯らし1号の前日である11月16日はサハリン付近で発達中の低気圧からのびる寒冷前線が本州を南下、
北日本や日本海側には寒気が入り始めたが、関東地方は前線に向かって南よりの風が吹き込み(東京の最大風速:
南西の風7.8m/s、最大瞬間風速:南西の風17.0m/s)、東京の気温は夏日一歩手前の24.8度まで上がった。
 翌17日、低気圧はオホーツク海で猛烈に発達する一方、西からは高気圧が張り出し、日本付近は冬型の気圧配置
になった。全国的に北西の季節風が吹き、東京では最大風速8.1m/s(北北西)、最大瞬間風速16.4m/s(北)を観
測、木枯らし1号が発表された。最高気温は前日を約7度下回る17.9度までしか上がらなかった。
 2003年11月16日12時 2003年11月17日12時
  
   では、2005年の木枯らし1号はどうだったか。  左下は木枯らしが吹く24時間前、11日12時の地上天気図で、北海道の東と九州の西に前線を伴った低気圧がある。 この図だけ見ると前者の低気圧からのびる寒冷前線に向かって南風が吹きそうだが、この前線は衰弱傾向で、天気 図の主役は九州の西から南岸を発達しながら進むことになる低気圧に変わっていた。この日の東京はほぼ一日、弱 い北風で経過し、最高気温は15.3度にとどまった。  翌12日、低気圧が東へ遠ざかるとともに天気は急速に回復、昼頃から北よりの風が強まったものの、最高気温は 前日よりも4度高い19.5度まで上がった。(最大瞬間風速は16:03、16:04の22.0m/s。いずれも北北西)
 2005年11月11日12時 2005年11月12日12時
  
  左の図は11日から12日にかけての気温・露点温度・平均  風速・最大瞬間風速を表したものである。   上で「昼頃から北よりの風が強まった」と書いたが、こ  れより前にも午前6時頃をピークとして、北よりの風が強  まっていた。原因は低気圧の接近によるもので、露点温度  の上昇を伴っている(東京で降水が観測されたのは11日23  時頃〜12日9時頃)。   これに対し、昼頃からの強い北風は露点温度の急激な下  降を伴っている。低気圧は遠ざかる一方なので、強い風は  朝のうちまでとは異なる要因で吹き出したのは明らかだ。   下の図は11日21時と12日09時の850hPaの天気図で、館野  の気温は12時間で約7度も下がった(11.0→ 3.8)。21時  には850hPaと地上でほとんど気温差がなく、最下層に安定  層があったことが示唆される。   また、寒気が入った09時の850hPa気温を乾燥断熱減率で  地上まで下ろすと約19度になる。12日日中の強風と気温上  昇は上空の強い北風がフェーン気味に吹き降り、地上付近  に達したことによるものと推測される。
 2003年11月16日21時・850hPa天気図 2003年11月17日09時・850hPa天気図
  
 上空に寒気が入っても、その寒気が強い風とともに地上付近まで達すると、たまっていた冷気層を打ち破ることに なる。関東地方で冬型の気圧配置の初日に前日よりも気温が高くなるのはこのパターンがほとんどである。前日から の気温変化は低気圧のコースに関連し、大まかには
前日当日
冬型初日の気温変化低気圧の位置天気低気圧の位置天気
前日よりも気温下降日本海強い南風晴れオホーツク海方面強い北風晴れ
前日よりも気温上昇南岸弱い北風曇りや雨関東の東強い北風晴れ
といった感じになるだろうか。  冬型初日が木枯らし1号発表のタイミングに重なる場合、前者なら違和感がないが、今年のように後者のパターン だと、相当違和感のあるものになる。繰り返しになるが、気温を条件に入れていないのは賢明な判断なのだろう。