2004年11月下旬の爆弾低気圧
 爆弾低気圧とは24時間に中心気圧が24(sinφ/sin60°)hPa以上、下降する低気圧のこと(φ:緯度)。60°を基準に
気圧降下量を規格化しているので、この定義では緯度45°では24時間以内に19.6hPa下降すれば爆弾低気圧となる。
 ここでは2004年11月下旬、最盛期に948hPaの中心気圧を記録した低気圧をとりあげる。
25日03時25日09時
25日15時25日21時
26日03時26日09時
26日15時26日21時
27日03時27日09時
27日15時27日21時
28日03時28日09時
28日15時28日21時
29日03時29日09時
29日15時29日21時
30日03時30日09時
30日15時
11月25日
   低気圧発生前日
 25日03時、今回とりあげる低
気圧発生の24時間前の天気図は
西高東低の冬型で、一見、猛発
達する低気圧の入り込む空間な
どなさそうに思える。
 典型的な冬型との違いは東シ
ナ海〜西日本で等圧線が東西に
走っていることと、黄海〜日本
海中部の等圧線の間隔が開いて
いること。21時にはこの部分、
日本海中部に高気圧が発生し、
大陸の高気圧との間、黄海〜朝
鮮半島付近が気圧の谷となった。
 それでも地上天気図での変化
はまだ小さいが、上空ではすで
に大きな変化が起こっていた。
(25日21時の天気図)
 300hPa、500hPaの天気図では
中国東北区に切り離された低気
圧が進んできていて、200hPaで
もこのエリアが深い気圧の谷に
なっている。この谷は500hPaで
は強い寒気を伴っているのに対
し、300hPa・200hPaでは逆に周
囲よりも気温が高くなっている。
 これは圏界面が降下している
ことを示していて、200hPa天気
図では暖気を示すWのそばに圏
界面高度が低いエリアを示す白
抜きのLマークがあり、図から
その高度が400hPaと読み取れる。
(圏界面が400hPaまで降下して
いるのだから、300hPa天気図で
周囲より気温が高いのは当然)
 圏界面高度の低下と成層圏下
部の暖気、いずれも爆弾低気圧
の出現を示唆するものである。

■11月26日
   低気圧発生→急発達
 26日03時、1022hPa の低気圧
が朝鮮半島北部で発生、09時に
は1008hPa 、15時には994hPaと
6時間で14hPa、12時間で28hPa
とあまり例をみないスピードで
発達を続けた。
 26日09時の天気図では500hPa
の寒気トラフ、300hPa・200hPa
の暖気トラフが明瞭で、地上の
低気圧の後面に位置し、発達を
サポートしているのが分かる。
 26日21時の天気図も同様だが、
上空のトラフの東への動きは速
く、500hPaレベルでは地上の低
気圧に追いついている。21時の
中心示度は994hPaと6時間前か
らの下降量は6hPaとそれまでに
比べると小さい。地上天気図に
は閉塞前線が描かれ、この低気
圧が発達のピークを迎えつつあ
ることを示している。
 しかし、低気圧の発達はこれ
で終わりではない。この後、ト
ラフは閉塞点に新たに発生する
低気圧に結びつき、さらに猛烈
に発達させるのである。

■11月27日
  新たな低気圧、猛発達
 27日03時の低気圧の中心示度
は988hPaで6時間前からの下降
量は4hPaにとどまった。それな
のに09時の中心示度は970hPa、
6時間で18hPa も発達した?
 そうではない。この03時の天
気図と09時の天気図は正確には
同じものではない。事情を物語
るのは06時の実況天気図である。
 この図には低気圧が2つ解析
されている。北海道日本海側の
982hPaの低気圧がこれまで追っ
てきたもので、網走沖の低気圧
は03時までの天気図では閉塞点
だった所から新たに発生したも
のである。中心示度は976hPaと
すでに北海道日本海側の低気圧
より深い。主役は交代したのだ。
 日本海を急発達しながら東北
東進した低気圧は06時実況天気
図を最後に姿を消し、これ以降
は新たに発生した低気圧がオホ
ーツク海で猛発達するのである。
(低気圧の中心気圧の変化)
 そうは言っても、低気圧の発
達に残された時間はあまり長く
はなかった。09時の地上天気図
に早くも閉塞前線が現れている
ように上空のトラフはすぐ西ま
で迫ってきていたからだ。
(27日09時の天気図)
 それでも09時の時点ではまだ
渦としての形を保っていたが、
27日21時の天気図ではトラフは
一段北の流れに取り込まれた形
で、1日まで前の切り離された
渦の面影はほとんどない。
 地上の低気圧は27日21時、28
日03時に948hPaを記録した後、
徐々に衰弱に向かうことになる。

■11日28日
   低気圧、衰弱へ
 28日09時の天気図では500hPa
の渦は地上低気圧の真上にあり、
500hPaの寒気トラフ、300hPa・
200hPaの高温域や圏界面降下域
は低気圧東よりのカムチャッカ
南東海上に進んでいる。
 200hPa天気図を見ると、次の
このレベルでの高温域と圏界面
降下域がサハリンへ進んできて
いるが、先行したものに比べる
と渦としてのまとまりは弱い。
 低気圧の勢力を維持できるも
のではなく、中心示度は21時に
は966hPaと24時間前に比べると
18hPaも浅まった。
 また、地上天気図の等圧線も
同心円状だったのが、東西に細
長い形に変わった。上空だけで
なく、地上でも渦のまとまりが
弱まってきたことを示している。

■11月29日〜30日
   さらに衰弱→消滅。
 低気圧周辺の等圧線の形状が
東西に長くなったことは、気圧
の低い部分が東西にのびた、と
いうことでもある。
 この東にのびた部分、地上天
気図(速報天気図)では29日15
時以降、低気圧が現れてきた。
画角の広いASASをカムチャッカ
半島を中心に切り取って並べて
みると分かるように、これは29
日03時に発生したものである。
 もとの低気圧は30日になると
新たに発生した低気圧を中心に
反時計回りに動き出し、15時の
地上天気図で姿を消した。
 27日朝と同様、低気圧の主役
は交代したわけだが、サポート
する上空の渦がはっきりしない
ため、交代までの動きは緩慢で、
地味である(上が××だと、下
も××というのはどこかの世界
と同じ・・・ような気もする)。
 残った低気圧もすでに発達す
る力はなく、衰弱しながら「低
気圧の墓場」と言われるベーリ
ング海を東へ進んでいった。

低気圧の中心気圧の変化 ●200hPa+300hPa+500hPa+  地上天気図(速報天気図)  ・25日21時  ・26日09時  ・26日21時  ・27日09時  ・27日21時  ・28日09時200hPa天気図  (11/25 21時〜11/28 09時) ●300hPa天気図  (11/25 21時〜11/28 09時) ●500hPa天気図  (11/25 21時〜11/28 09時) ●地上天気図(ASAS)の一部  (11/28 15時〜11/30 21時)