川澄 舞
「何だ」
横からの非難がましい視線に俺は口を開いた。無言で俺を見つめる舞。暫く
して、ようやく一言。
「…祐一、けち」
「は?」
無口なのは毎度のことだが、こうも要点だけを突かれるとさっぱり分から
ない。俺は牛丼を頬ばりながら言う。
「もう少し具体的に言ってくれ。訳がわからん」
「……」
しばしの間。
「私の牛丼、もうない」
俺…ではなく、俺の牛丼を目で追う。
「食うのが早いんだ、お前は」
「…違う。最初から少なかった」
「同じだ!」
「違う」
「違わない!」
「違った」
「……」
「けち」
非難の視線。だいぶ冷えてしまった牛丼。俺は、大きめの肉と汁のたっぷ
り浸みたご飯を箸ですくい、舞の口許へと運ぶ。
「一口だけだからな」
「……?」
「食わないのか?ほら、口開けろ、あ〜んだ、あ〜ん」
「……」
舞が無口で口を開く。箸を押しやると、素直に咀嚼へと移る。
「うまいか」
コクリ。またもや無口で頷く。
…やれやれ。何て色気ない奴だ。仮にも間接キスだぞ。しかも初めての。
俺が意識しすぎかも知れないが。もっと…こう…。
まあいいか、俺はこんな舞に惚れたんだ。今後もこの無愛想は変わらない
だろう。その冷たい視線の奥、俺にしか見えない光を、ずっと見守っていた
い。
…また視線を感じる。やれやれ、手の掛かるお姫様だ。
もう一度、色気なしの間接キス。
…今は、これでいいじゃないか。
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