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 缶蹴り大会も人数が少なくなると同時にヒートアップ
してくる。
 遂に、門下生チームは5人にまで減らされた。
「さて、ここから更に気を引き締めねば…。まだ、ジョン
さんも残っている事ですし」
 そう、キムもジョンがいる限り、安心はできない。
 ここまで減らしたとはいえ、大会史上、これだけキムが
疲れたことはない。
 これもひとえに、ジョンの作戦の賜物である。
「チャンとチョイ、ドンファンにジェイフンか。メイ君と
リム君の事を考えると、彼らもまたチームを組んでる可能
性が高いな…。それに、ジョンさんの方にも注意を払わな
くては…」
 やはり、キムにとっても、ジョンの存在は脅威であった。
 韓国チーム一の切れ者である彼は、どういう作戦を取っ
て来るかわからないからだ。
 このキムの心の面の疲労も、ジョンが狙っていた通りで
あった。
 体力はもちろんの事、ジョンがまだ健在である事を頭に
掠めたら最後、それが気になり、動きが固くなる。
(ジョンの旦那を気にしている。まさに予想通りでヤンス!)
 どこかにいるチョイがサインをこっそり送る。
 送った相手はもちろん、チャンである。
「フンガー!!」
 キムが探している途中、急にドタドタと真ん前からチャ
ンが突進してきた。
「見つけたぞ、チャン!」
 戻ろうとするキムに、今度は別の人物が襲い掛かる。
「キキキキキィッ!!」
「チョイ!?」
 間一髪で避けたが、髪がハラリと数本落ちる。
「今度はあなたがたが相手ですか?」
「キムの旦那に勝つ為だ! 行くぜ、チョイ!!」
「一人では勝てなくても、二人なら勝てる! これが勝負
の妙でヤンスゥ!!」
 チャンが腹でキムに体当たりをする。
 ガードをするが、簡単に吹き飛ばされる。
「クッ…」
 そこに襲い掛かるチョイの空襲。
「切り刻むでヤンスッッ!!」
「止めろ、チョイ! そこまではジョンの旦那に言われて
はいねぇ!!」
「あ…」
 チョイは作戦の事をすっかり忘れて、今までしごいてき
た恨みをキムにぶつけようとした。
「ほう。そこまでやるのでしたら、私も容赦しませんよ…」
 キムの顔が、この時だけ教育者としての顔になる。
「飛燕斬!!」
「グゲェッ!!」
 キムのバク宙蹴りが、チョイに炸裂する。
 チョイはあえなくノックアウト。
「さて…」
 キムの目が、チャンに向けられる。
「ヒッ!!」
 ここで戦う姿勢を見せれば、ボロボロになるのは確実。
 前例であるチョイの姿を見て、チャンは降伏するしか手
がなかった。

 残りは3人。
 探すにしても、ここからは更なる勇気が求められる。
 間違った方向を探せば、もちろんアウトだし、仮に見つ
けたとしても、時間は割けない。
 しかし、残っているメンバーはジョン、ドンファン、ジェ
イフン。
 短時間で済むようなメンバーには思えない。
 キムは、自分の運に賭けた。
「来たぜ!」
 ドンファンが、キムがこっちに向かってくるのを確認した。
「よし、行こう!!」
 意を決して行くドンファンとジェイフン。
「行きます、父さん!!」
 言うや否や、ジェイフンが鳳凰脚を仕掛けてきた。
「ドンファンとジェイフンか。見つけたぞ…」
 しかし、戦う時間などない。
 だが、今のジェイフンが迫るスピードでは、踵を返す事も
できないだろう。
(これをガードすれば、2人一斉の攻撃を受ける事になる。
無駄な時間はここでは割けん!)
 キムが空中に逃げる。だが、それをドンファンは逃さない。
「行くぜぇっ! 親父ィィィッッ!!」
 空中から、ドンファンが、スーパードンファン脚で襲って
きた。
「逃げ場をなくすつもりか…」
「イヤ?」
「!?」
 ジェイフンは駆けていた。
「しまっ…」
 ジェイフンの姿を確認した時には、キムは既にスーパード
ンファン脚を喰らっていた。
「ウラァッ!!」
「グゥッ!!」
 地に叩きつけられるキム。戦いの事ばかりに頭が行き過ぎ
ていたようだ。
 初めて追いかける態勢になったキム。
「まずいですね。このままでは…。それに、もしかしたら、
ジョンさんも…」
 キムの予想は的中した。
 ジェイフンが携帯で、キムが自分を追っている事を連絡し
ていた。
 それと同時に、ジョンは陣地へ動き出した。
「早く追わなければ!!」
 立ち上がるキム。
「待てよ…」
 その前に立ち塞がるドンファン。
「そういや、親父とはガチで戦った事がなかったな。いい機
会だ。ここらでどっちが強ぇか、はっきりさせようぜ?」
 もう前にいるのは、息子のドンファンではない。
 一格闘家のキム・ドンファンだ。

「成長したな、ドンファン…。だが、それでも今のお前は、
まだ甘い!!」
 その瞬間、キムの蹴りが飛んできた。

「ハァ、ハァ…」
 ジェイフンは力の限り、走り続けた。
 もうすぐだ。もうすぐで自分達の勝利が手に入る。
 そう思うと、自然に力が湧き出てきた。
 しかし、次の瞬間、何かが自分の前を横切った。

 車? いや違う。

 背中に描かれている韓国の国旗のマーク。
 そして、あの体つき。それは、自分の父親である事に間違
いなかった。
(馬鹿な! あの距離を追いつくなんてあり得ない! 第一、
兄貴はどうしたんだ!?)
 ジェイフンが冷や汗をかきつつ、ジョンの携帯に突撃中止
の連絡を入れようとする。
「ほう、キム君が…。しかし、もう私は止められませんよ。
陣地まで、あと少しまで来てるのですから!!」
 もはや、勝利一歩手前で、ジョンですら正常でなかった。
 何せ、麻宮アテナの写真が、すぐそこにまで来ているのだ
から…。

 空き缶が目の前にあった。

 だが、それと同時に、ジョンはキムと目が合うのだった。
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