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「ジョンさん! あなたで最後だ! 見つけましたよ!」
「アテナさんの写真はいただかせてもらう!!」
 それぞれが空き缶の立っている場所に近づく。
「ホァッ!!」
「テイッ!!」
 足と足がかちあった。
「ジョンさん…」
「…キム君」
 いったん、足を引く。そしてもう一度足を出す。
 またも同じタイミングで足がかちあった。
「やりますね、ジョンさん…」
「あなたもそろそろ無敵の『鬼』はお疲れでしょう。
怪我もしているようですし、楽になった方がいいので
はないですか?」
「この大会も立派な勝負。勝負事には手は抜けません…」
「そうですか。ならば、もう一度、怪我をしてもらう他、
ありませんね!」
 ジョンが足刀を放つ。
 それをジャンプして避けつつ、キムがカウンターを入
れる。
「クゥッ!!」
 ジョンが怯む。
「もらった!!」
 隙に、キムが足で缶を踏む。
 門下生のアァーッ!! という声が響き渡る。
 しかし、3回目を踏もうとした時に、足がかち合う。
「……」
 ジョンが必死に痛みにこらえ、態勢を立て直しつつ、
蹴りを入れた結果だった。
「これではキリがありませんね、キム君」
「ええ。あなたは想像以上に手強い…」
「そこで一つ、提案があるのですが…」
「提案?」
 尋ねるキム。
「せっかく、同門の私が日本からわざわざやってきたの
に、ただ缶蹴りをするだけではつまらない。やはり、私
とあなたは、戦ってこそ決着をつけるべきだが、いかが
かな?」
「なるほど。勝った方が、この缶蹴り大会の勝者だと…」
「強い者が勝つ。我々の住む世界のルールで、わかりや
すいとは思うが?」
 キムは身震いした。こんなところで、久々にジョンと
戦えるとは思ってなかったからだ。
「いいですね、やりましょう…」

 キムとジョンの戦いは一進一退の攻防だった。
 どちらかが打たれては打ち返し、その連続だ。
 それぞれ、体中、傷だらけになっている。
 陣地に帰ってきたジェイフンは、この様子を見て驚い
た。
「な、何をしてるんですか、ジョンさん。早く缶を蹴っ
て下さいよ!」
「悪いね、ジェイフン君。我々の戦いは、こんな子供遊
びでは決着はつかないのだよ…」
「でも…」
「師匠とジョンさんの戦い、滅多に見れないよ!!」
 そう言ったのはリムだった。
 もはや、門下生全員が、キムとジョンの戦いに釘付け
だ。そして、ジェイフンもその戦いに見惚れるのに、
時間はかからなかった。
「ハァ、ハァ、あなたの切れ味、変わってませんね、
いや、もしかしたら、昔より増しているかもしれません」
「当然です。でも、キム君も、さらにテコンドーの腕を
上げている。更に他の者との差をつける気ですね?」
「このままではお互い、持ちますかね?」
「フフ、安心なさい。次で終わらせますよ…」
 ジョンが片足を上げる。
「なるほど。ならば、私もこれに全てを賭けます!!」
 キムもまた、片足を上げる。

「鳳凰脚!!」
「鳳凰裂爪脚!!」

 気がつくと、2人は大の字で寝ていた。
「参りましたよ。もう、私は技を放てない…」
「私もです。これで勝負はお預けですかね?」
「…ですね」
 その時だった。
「ちょぉっと待ったー!! その缶、このドンファン様
が蹴らせてもらうぜぇっ!!」
 キムとの戦いに敗れたドンファンが戻ってきて、缶を
蹴ろうとした。
「鳳翼…」
「え?」
「天昇ーーーー脚ッッ!!」
「な、こんなんアリかよぉぉぉっっ!!」
 ジェイフンの大技、鳳翼天昇脚が、ドンファンを打ち
上げた。
「せっかくのいいシーンを、台無しにしてもらいたくな
いですね…」
 そう、ジェイフンが言うと、そのままグシャッとドン
ファンが背中から落ちた。
 ドンファンは、何故、自分が今、ここで味方に蹴られ
たのか、全く意味がわからなかった。

 引き分けで終わった缶蹴り大会の決着は翌年に持ち越
された。
「ジョンさん、やはりあなたを呼んで正解だった。来年
も是非、参加していただきたい…」
「いいでしょう。今度は絶対に負けませんから。キム君、
覚悟しておく事です!」
「わかりました。私も期待しておりますよ。今度は写真
だけでなく、もっと貴重な品を得られるよう、アテナさ
んに掛け合っておきます」
 その言葉にカチンと来たジョン。
「本当に! 本当に覚悟してきなさいよ!! 約束です!!」
 大声でそう叫びながら、ジョンは日本へと帰っていった。

 そして、キム道場は、いつもの厳しい日常に戻る。
 しかし、門下生の表情は、缶蹴り大会の負け続けの日々
から抜け出したのを喜んでか、非常に晴れやかなものに
なっていった。一部を除いて…
「旦那ー、勘弁!!」
「もうキツいでヤンスゥーー!!」
「甘い! あと2セット追加だ!!」

 数日後、KOFの招待状が届いた。
 今年もまた3人1チームでのシステムだ。
 キムはジョンに再び電話を入れたが、断られてしまった。

 果たして、これが理由かどうかは知らないが、キムに
こう話していたそうだ。
「悪いが、今回は辞退させていただく。KOFよりも大事
な『大会』が私には控えているのでね…」
END