【新訳】ピノッキオの冒険 カルロ・コッローディ(角川文庫)

「ぼくだって、いつか人間になりたいよ……」イタリアで生まれ、世界中の子供達から愛され読み継がれて来た、操り人形の物語。
何もかもが木で出来ているから、考える事もとんちんかん。自分を作ってくれた、可哀想なおじいさんを想いながらも、いたずらを繰り返し、あれこれ事件を巻き起こす。あと一歩で幸せになれるというところで、いつも失敗してしまい――。
芥川賞作家・大岡玲の新鮮な訳により、現代に甦ったピノッキオ。生きることへの深く、鋭い洞察に満ちていることに、改めて驚かされる、永遠の名作。(カバーより)



あの有名なピノキオの本。正直、これを読むまで、ピノキオを作ったゼペットじいさんって優しく温和な性格ってイメージがあった。
ところがどっこい、この本を読むと、頑固な職人で、怒りっぽく、いったん怒らせると誰にも止められない恐怖のじいさんとして描かれてるじゃありませんか。
今まで抱いていたゼペット像の崩壊に軽くカルチャーショックを覚えつつ、それでも読み続けた。
この童話内に書かれている伝えたい事は、今を生きる我々にとって、とても必要な事がちりばめられている。
童話だと思って敬遠するなかれ。今の私達に必要な事は、童心に帰る事なのかもしれない。






2分間強盗、奔る スティーヴン・リード(扶桑社ミステリー)

ボビイ・アンダースンは旅回り強盗団のリーダー。その職種ゆえに現在カナダとアメリカでお尋ね者。十代の頃からこの<職業>をやっているせいで手順は洗練されている。目的は「金を手に入れる」ことなので無用な殺傷などはやらずに、短時間で仕事を片付けるのがモットーだ。
今回は他のメンバー3人とアメリカ西海岸を<営業中>。サンディエゴではかるく大金をせしめたが、サンフランシスコでは小金のわりにはやばい目に遭った。そろそろ足の洗い時か? 彼は南米を舞台にした新商売を画策するのだが、その矢先に……。(カバーより)



2分間で仕事をやり遂げる凄腕銀行強盗団の話。この作者も、昔は凄腕の銀行強盗だったようだ。それ故、強盗の知識、描写は超リアル。しかし、そんな天才的な才能を持ちながら、こういう所でしか発揮されないのは、同時に哀しい事だとも思ってしまう。
やはり、悪の道を突き進む人間は、ろくな結末が待っていないのだろう…。






これを食べなきゃ〜わたしの食物史〜 渡辺淳一(集英社文庫)

今はなき母の作るイクラ漬け。艶めいた絶世の美女の如く、品のよい松葉ガニ。少し失意の時に似合う焼きツブ。少年時代を思い出すトウキビの香り――。
北海道に生まれ、豊饒なる大地と海の、旬の味を噛みしめて育った著者が、食べ物へのこだわりと、深い愛着を込めて語る食の自分史、美味なるエッセイ。”食べる”という事は、素材を、季節を、人生を味わう事。



著者の今までの印象に残った食べ物などを紹介している。もちろん、食べ物批評なので、主観的なのが多分に含まれてはいるが、人間の舌は、それこそその人数分だけ味覚が違う。人間を今の今まで支えている、食べ物の奥深さをこれを通して再認識できる一冊だと思う。また、食べ物に関する雑学も載っているので、それを深めたい方にもオススメ。






夏の朝の成層圏 池澤夏樹(中公文庫)

漂着した南の島での生活。自然の試練にさらされ、自然と一体化する至福の感情。それは、まるで地上を離れて高い空の上の成層圏で暮らすようなものだった。暑い、さわやかな成層圏。やがて、夢の向こうへの新しい出発が訪れる。
――青年の脱文明、孤絶の生活への無意識の願望を美しい小説に描きあげた長篇デビュー作(カバーより)



あの春菜さんのお父上、池澤夏樹氏の小説。事故で海に投げ出され、無人島に辿り着いた男が、都会とは正反対の、自然に生かされた生活を送る。
この生活ぶり、どうも一ヶ月一万円生活の濱口の海での生活を連想いたします。いや、真面目な話で…。
自然の厳しさ、食べ物、道具の有難さが、この本を通して滲み出てくる。表現も個人的にツボを押さえたものがあり、靴に水が入り、歩くたびにブコッ、ブコッという音が響く、というのは思わずそうそう!と頷いてしまいます(笑)。
サバイバルな小説が好きな方には、是非、読んでもらいたい。春菜さんファンにも(何)。






ショートショートで日本語を遊ぼう 高井信(ちくま文庫)

その日本語間違っていませんか?
聞き違い・誤用・変換ミスなど、私達の身近なところで毎日のように起こる失敗の数々。笑って済まされる事もあれば、思い出すだに忌まわしい赤っ恥となる事も。
言葉の非常識が引き起こす奇想天外なストーリーを楽しみながら、あなたの日本語力もアップする、前代未聞のショートショート集。
文庫オリジナル。(カバーより)



とにかく、日本語の難しさ、奥深さを認識させられる一冊。TVでアナウンサーが間違った日本語を使うと、「そんな事も知らないのか?」と思った事が一度はあるはず。
だけど、私達も知らず知らずのうちに間違った日本語に毒されているかもしれません。
とりあえず、「役不足」「閑話休題」「確信犯」、この3つの正しい意味、あなたはわかりますか?






笑う山崎 花村萬月(祥伝社)

冷酷無比の極道(ヤクザ)、山崎。優男ではあるが、特異なカリスマ性を持つ彼が見せる、極限の暴力と、常軌を逸した愛とは! フィリピン女性マリーを妻にしたとき、恐るべき運命が幕を開けた……。
当代一の鬼才が描いた各誌紙絶賛の問題作!(カバーより)



ヤクザ、山崎、マリー、この3つの単語でヤクザ小説でありながら、手にとってしまった、SNK好きキラーな本(何)。
本編の山崎は、上に書いてあるとおり、優男だが、暴力に関してはSNKの山崎と本当にいい勝負。
カリスマ性もあり、下の人間もそれに惚れている。SNKの山崎のモデルは一説によると松田優作との事だが、暴力性、ヤクザエピソードに関しては、これが一枚噛んでいる可能性もあるかも!?
餓狼の山崎ファンは一回読んでみてください。ちなみに彼が発狂するシーンはありません(何)。





電話男 小林恭二(ハルキ文庫)

電話こそ知恵の根源であり、電話コードこそ人間の連帯の具現である――「電話」を通し、現在の閉塞感を打破し、絶対的なコミュニケーションを実現しようと企てる<電話男>たち。
到来したインターネット時代を早々と予見し、その果てにある光と暗黒を斬新な文体と秀れた想像力で描き出した不朽の名作。(カバーより)



くれぐれも、電車男ではありません。電話男です。
タイトルをパクってるとか言っちゃいけません。これが書かれたのは、もう20年以上も前なんですから。
どこの誰ともわからぬ人と電話でコミュニケーションをとる――これを早々に予見した、作者の眼力には脱帽する限り。
一度、手にとって読んでみてください。これが20年以上前に描かれた小説ですから。

20年後の出来事、あなたならどの程度、想像できるでしょう?