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 我が名は如月影二。

 天上天下において、最強と謳われる如月流忍術の使い
手なり。
 だが、それを証明する為には、世が認める最も強き者
を倒さねばならぬ。

 そこで、拙者は、地上最強の拳を持つと言われている
『極限流空手』という流派に目をつけた。
 中でも、そこを取り仕切るサカザキ一家は、極限流で
も一、二を争う使い手だとか…。

 いずれ、拙者が消さねばならぬ相手。

 その為には、まず、相手の全てを知らなければならぬ。


 そこで早朝、拙者はこうして、サカザキ邸でこっそり
奴らを監視している。
 決して『ストーカー』などといった下衆な輩ではない
ぞ。

 と、誰か家から出てきたな。
 見つからぬよう隠れねば…。

 出てきたのは、金髪にオレンジの道着の男。
 間違いない、奴こそリョウ・サカザキだ。
 どうやら、早朝のマラソンに出かけていきよったか。

 それにしても呑気な奴だ。こうして、敵に見られてる
とも知らず…。

 さて、このまま奴を追うのは簡単だが、他の人間の監
視も怠れぬからな。ここは家にいるとしよう…。

 ム、家からズダンッと何回も音が聞こえる。
 どうやら、何かを叩きつけてる音だが…。お、会話が
聞こえてきたな。
「お父さん、いくら「今日のソバは、今まで作ってきた
中で一番美味かったね」って褒めたからって、またソバ
はないでしょう! これで一ヶ月連続ソバよ!!」
「バカモン! 金がかからず、美味しい食事が楽しめる
のだ。別に困る事ではなかろう。それに、そういう贅沢
こそが、我々の真なる敵なのだぞ!」
「誰かさんが無茶な道場経営をやるから、こんな目に遭
うんじゃない! ちょっとは学習してよ!」
「何を! 誰に食わせてもらってるか、わかって言って
るのか!?」
「ほとんど、ロバートさんから支給されるお金じゃない!」
 延々、こんな調子で、ユリ・サカザキとタクマ・サカ
ザキの親子喧嘩が続いているな。
 しかし、真なる敵を『贅沢』と認識している辺り、ま
だまだ甘いな、極限流よ…。

 昼になった。
 リョウ・サカザキも戻り、道場で必死に汗を流してい
る。
 フッ、ここで貴様らの技を思う存分、研究させ…ム、
煙! そして、赤のフェラーリ!

 降りてきたのは、ロバート・ガルシア。
 『無敵の龍』リョウ・サカザキの好敵手であり、自ら
も『最強の虎』の異名を持つ男か!

 奴も道場に入っていったぞ。
 顔を見せるのは稀らしいからな。貴重なシーンが手に
入ったぞ。
「押忍。久し振りやな、皆」
「よう、ロバート。会いたかったぜ」
「ロバートさん、元気してた?」
「ユリちゃ〜ん、ワイは元気も元気。大元気やで〜」
 あのロバートという男、ユリ・サカザキにかなりの
『ZOKKONラブ』らしいな。
 フッ、女にウツツを抜かすから、いざという時に拙者
に手もなく捻られる運命にあるのだ。哀れな奴め…。

 どうやら、ユリ・サカザキの方は、それほどでもない
らしいが…。


 日も落ち、夜になった。
 稽古も終わり、ロバートも泣きながら帰っていった。
 後は、一家団欒といったところか。

 どうやら、夜もソバらしいな。
 昼もソバだったから、これで三食連続ソバだな。
 ここまで来ると、一度食したいような食したく…いや、
拙者は自分で調達したものしか口にはせぬ!
 それに、よりにもよって宿敵の作った料理など言語道
断!!

 ……グ、腹が鳴った。

 そういえば、監視に夢中で、ろくに飯も食っておらぬ
な。だが、ここで監視を怠っては…
「ウオォォォォォォーーーーー!!」
 背後で気配…。
「何奴…貴様、不破刃!!」
「見つけたぞ、如月影二! こんなところで極限流の使
い手のストーキングをしていようとは夢にも思わなんだ!
貴様、それでも漢か!!?」
「馬鹿抜かせ! 誰がそんな下衆な行為など…。拙者は
打倒極限流の為、こうして偵察をだな…」
「問答無用! 貴様のその腐った性根を叩き直してやる!
喰らえ、闘神翔! ウオォォォォォォォーーー!!」
「だから、そうやって、でかい声と目立つオーラを出す
のは止めろ! 貴様、それでも忍びの端くれか!?」
「ウオォォォォォオォォォォォォォーーーーーッッ!!」

「親父、何か外が騒がしいようだが…」
「放っておけ。どうせつまらぬ喧嘩だ…」
「私、念の為に警察に連絡しておくッチ」

 数分後、サカザキ邸で騒ぐ忍者二人を警察が捕獲。
 しかし、護送中に二人揃って逃がす羽目となる。

 影二は、そのまま、不破の目もかいくぐり、闇の中を
駆けていった。


 タクマのソバレシピを盗む為…。
END