「GREEN HORNETS」で育まれるもの

 
 監督 田淵 浩司(1980年卒)

創部50周年を迎え、これまでこのクラブを支えて下さった、顧問の先生、保護者のみささま、OBの皆さまにお礼申し上げます。この節目にあたり、「GREEN HORNETS」のありかたを改めて考えてみたいと思います。

戸山高校の教育方針として、次の3項目が学校案内に掲載されています。
「わかりやすく、しかも高度な学習活動を通して知的水準の高い、現代社会の要請に応じる教養豊かな人間になってもらうことをめざしています」
「HR活動を大切にし、学校行事、生徒会活動を通して、人間性豊かな、心の広い人間になってもらうことをめざしています」
「生徒の自主性・自律性を重んじ、自ら善悪の判断をして自己を律し、主体的に行動できる人間になってもらうことをめざしています」

クラブ活動は学校教育の一環

当然のことながら、「GREEN HORNETS」は、学校教育の一環である「クラブ活動」として存在しています。創部以来続いているクラブの基本方針「選手の自主性に基づく運営」が、上記の学校方針に合致していることは言うまでもありません。生徒から遊離した勝利至上主義は、わがクラブとは無縁のものです。クラブの指導に当たっている私たち監督、コーチは戸山高校の教職員ではありませんが、フットボールを通じて後輩たちの人間的成長を願っていることに変わりはありません。

クラブ活動、特に体力、時間を激しく消費する運動部に対して、「受験勉強に差し支える」と消極的な声があります。しかし、教室の勉強だけでは決して得られない大切なものがクラブ活動で育まれると確信しています。「GREEN HORNETS」に関して具体的に述べるなら、次の通りです。

「生徒の自主性」

野球やサッカーと異なり、中学校からの経験者はいません。部員たちは新しい競技にチャレンジしてみようと自分で決断して入部します。普段の練習は自分たちで計画を立て、それを実践します。チームの目標をミーティングで話し合い、それを達成するために各部員が自分の役割を考えます。他校には顧問教員が監督となり授業の延長のようなクラブ活動をしているところもありますが、私たちのクラブでは生徒が運営することで、主体的に行動できる人間が育っていきます。

「豊かな人間性」

「勝利」という目標を達成するためには、練習を重ねて体力や技術を上達させなければなりません。「一生懸命に取り組む」ことが、私たちのクラブの最も大切な事柄です。しかし簡単に上達できるものではなく、時にはいくつもの難関を越えなければなりません。「やると決めたことを最後までやり抜く」ことも養われます。また、チームスポーツですので、自分だけではチームの目標は達成できません。練習や試合でチームの仲間と喜怒哀楽を共感し、互いに深くかかわり合い、信頼できる友ができることで、心の広い人間なっていきます。そして、さまざまな過程を乗り越えた上で、目的を達成したときの感動は、何事にも代えられない経験として、その後の人生の助けになるとことでしょう。

「現代社会の要請に応える人間」

アメリカンフットボールという競技は、サッカー等と比べて、はるかに近代になって発達してきたスポーツです。そのルールや戦術は、分業化・専業化が極めて進んでいます。各選手が自分のアサイメント(役割分担)を遂行し、その積み重ねでプレーが成功する仕組みは、企業における各社員の営みとよく似ています。しかし、アサイメントの遂行は、単に組織の歯車になることではありません。スポーツでは、相手がどういう行動を取るのか、前もって分かっていません。予期せぬ事態が起きた場合、即座にベストの対応が取れるよう、日常的に十分な訓練しておく必要があります。それが、試合と練習の関係です。最近はグローバルスタンダードが唱えられ、行政も企業も日本固有な慣行から脱却し、世界に通じる新しいスタイルへの対応が急務とされています。前例のない問題にぶつかった時、「マニュアルにない」と立ち往生するのではなく、解決に向け全力でぶつかっていくチャレンジ精神を涵養しているのがスポーツなのです。クラブ活動は、現代社会に合致した人間を育成する「場」にもなっています。600余名の「GREEN HORNETS」OB・OGが現代社会の第一線で大活躍していることは、その確かな証明でしょう。

憂慮すべきクラブ活動離れ

残念なことに、ここ数年、この素晴らしいクラブ活動の存続が不安視されてきています。その最大の理由は、高校生のクラブ活動離れです。娯楽の多様化や少子化、家庭生活の変化等、原因はいろいろありますが、全校生徒の2〜3割しかクラブに所属していない事態を迎えています。この現象は戸山だけではなく、憂慮すべき全国的な傾向です。こんな世の中だからこそ、青春期のクラブ活動によって得られる心豊かな経験が必要ではないでしょうか。

さらに、戸山高校の校舎改築工事(5年間)が始まって校庭が使えなくなると、クラブ活動はさらに厳しい状態に追いやられるでしょう。何とか皆さまのお力添えを得て、この危機を乗り切り、新校舎完成後も、戸山の伝統に支えられたこの素晴らしいクラブで、生徒たちが伸び伸びと活動し、更にこのクラブが60周年、70周年と続いていくことを、強く望んでいます。