その1

         
          前立腺がんの超音波治療
        2003.7.29
 
 ◆病巣加熱、焼き殺す

 埼玉県所沢市の男性Aさん(70)は下腹部の痛みを感じた3年前から、近くの防衛医大病院泌尿器
  科で定期検査を受けてきた。血液検査で前立腺がんの指標となるPSA値が8(正常値は4以下)に
  上昇、針で組織を取って調べると、がんと分かった。脳こうそくを起こした8年前から、血液を固まりに
くくする薬を飲んでいるため、出血を伴う手術は受けたくない。そこで昨年7月、手術ではなく、超音
波を使った治療を受けた。がんは消失し、2週間後に退院、今もPSA値はほぼゼロで推移している。

前立腺がんの超音波治療の図

 前立腺は尿道を取り囲むように位置し、クリの実のような形をしている。精子とともに出る
前立腺液を作る。前立腺がんは高齢化とともに増え、毎年約7000人が亡くなっている。


がんが前立腺内にとどまる早期がんの場合、主に〈1〉前立腺を取り除く手術〈2〉体外からの
放射線照射〈3〉ホルモン療法の三つの治療法がある。しかし、それぞれ様々な副作用がある。

 手術は出血量が比較的多く、2、3週間以上の入院が必要となり、失禁などの排尿障害が2割ほ
ど、性機能障害が6〜9割出る。放射線治療は排尿障害は少ないが、膀胱(ぼうこう)炎や直腸
出血を生じることがある。ホルモン療法は、ほとんどが性機能障害になる。

 そこで体への負担が少ないと期待されるのが超音波治療だ。検査用の数千倍
の強力な超音波を使って、病巣を80〜98度に加熱し、がん細胞を焼き殺す。

 治療はまず、腰椎(ようつい)麻酔か全身麻酔を行い、先端から超音波が出る棒状の器具(直径
3・2センチ)を肛門(こうもん)に挿入する。モニター画面を見ながら、前立腺全体に強力な超音
波をかける。超音波の照射範囲や強さなどは、あらかじめコンピューターで設定されている。

 防衛医大泌尿器科医師の住友誠さんによると、治療時間は前立腺の大きさで異なり、3、4時間
ほど。治療後2週間は、尿道が狭くならないよう細い管を入れておく必要があるが、手術の翌日に
は歩行と食事が可能となり、通常、3、4日間で退院できる。

 ◆性機能障害少なく

 国内で最も治療経験が豊富な東海大八王子病院泌尿器科助教授の内田豊昭さんが、患者86
人に対する治療成績をまとめたところ、がん細胞が消失する割合は、平均1年半後で76%だっ
た。一方、副作用の性機能障害は31%で、排尿障害が23%だった。

 治療成績では、5年後のがん消失率が約80%の手術にやや劣るが、
出血が避けられ、性機能障害の副作用も比較的少ない。

 前立腺がんには小型の放射線カプセルを患部に埋め込む治療も認可され、選択の幅が
広がった。この治療や超音波治療は心臓病など持病で手術できない高齢者や、なるべく
性機能を温存したい人には一考の価値がありそうだ。

 超音波治療は、手術や放射線の治療後、がんの取り残しや再発が分かった場合に行う選
択もある。ただ、前立腺内に結石があると温度が上がりすぎる危険があり、実施できない。
保険がきかず、費用は80万〜100万円ほどかかる。

 治療法が確立している手術や放射線に比べて、超音波治療は国内での実績が少なく、有効性
や安全性は十分明らかになっていない。自分の病状も考慮して慎重に治療法を選ぶ必要がある。
(坂上 博)


 前立腺がんの超音波治療を行っている主な医療機関
(泌尿器科が担当)
坂泌尿器科病院(札幌市) (電)011・709・1212
東海大八王子病院(東京都八王子市) (電)0426・39・1111
帝京大病院(東京都板橋区) (電)03・3964・1211
西窪病院(東京都武蔵野市) (電)0422・52・3212
防衛医大病院(埼玉県所沢市) (電)042・995・1211
長谷川病院(富山市) (電)076・422・3040
丸山病院(静岡県浜松市) (電)053・473・6721
岡山市立市民病院(岡山市) (電)086・225・3171
たかの橋中央病院(広島市) (電)082・242・1515
広島厚生病院(同) (電)082・286・6111
原三信病院(福岡市) (電)092・291・3434
薬院ひ尿器科病院(同) (電)092・761・3001
高山病院(福岡県筑紫野市) (電)092・921・4511
とまり泌尿器科(鹿児島市) (電)099・261・1212

      
      その2

            超音波療法 −HIFU-
             
              
超音波療法  (某医療機関の超音波療法資料より)

  @この治験の目的
  高密度焦点式超音波療法は、直腸に挿入した治療用の探触子(プローブ)から前立腺に超音
  波を照射し、早期の前立腺癌を治療する新しい治療法です。これまでは、主にお腹を切って前
  立腺を摘出する手術や放射線療法が行われてきましたが、いずれも患者様の身体に対する負
  担、治療による合併症、治療に長期間を要するなどの問題がありました。本治療より簡単で、
  患者様に負担をかけず、より安全な治療を目指して開発されたもので、この治療法の安全性と
  有効性を患者様の協力を得て、確認することを目的とします。

  A本法の原理
  本法は超音波を利用することにより、離れた部位の癌病巣を治療するものです。一般的に超
  音波はいろいろな医学の分野、特に検査の目的で使用されています。例えば、妊娠中の赤ち
  ゃんの状態を観察するためなどに使用されています。。この超音波を一点に集めますと、集ま
  った部位は 60〜90度 の高温になります。このことを利用して、治療法として開発されたのが
  本法です。

  B治療方法
  肛門から治療用のプローブを挿入し、 前立腺を照射します。 プローブから照射された超音波
  は離れた部位に超音波が集まることにより、この部分が60〜90度の高温になります。高温にさ
  らされた癌の病巣は破壊され死滅します。この小さな焦点をコンピューターコントロール下で少
  しずつ移動させでいくことによって、前立腺を照射、治療します。治療中に出血することはほと
  んどありません。治療は中央手術部で行い、 治療時間は約3時間下半身麻酔にて施行します。
  入院期問は3〜5日間必要です。

  Cこの治験へ参加いただく期間
  患者様がこの治験への参加に同意していただいた後、約1年がこの治験の参加期間となりま
  す。なお、場合によっては2年目に検診を受けていただくこともあり得ます。

  再治療
  1回目のHIFU治療後6ケ月目の前立腺生検にて前立腺に癌が残存しかつPSAが4.O以上に
  上昇してきた場合は、患者さんの希望により2あるいは3回目のHlFUを施行しています。ちな
  みに、これまでに2回施行した症例は10例、3回施行したのは2例です。

  なお、HIFU後に、根治的前立腺全的術あるいは放射線療法など他の治療法への変更は可能
  です。この場合はご遠慮なく主治医にお伝えください。だたし、前立腺に癌細胞が認められな
  いにもかかわらず(術後の生検にて前立腺に癌なし)、PSAが4.O以上に上昇してきた場合は、
  リンパ節あるいは骨への転移がある可能性があるため、これらの有無を検査後、転移が認め
  られた場合はホルモン療法への変更が必要です。この場合は、根治的前立腺全的術あるい
  は放射線療法などの適応はありません。

  術後経過
  バルーン留置
  現在、手術当日の午前に入院、午後HIFU、翌日退院の1泊2日から手術前日入院、翌日HIF
  U、術後2日目の3泊4日入院にて治療しております。これまで、HIFU翌日にパルーンを抜去し
  ておりましたが、約80%の症例において尿閉(尿が自カで出せない状態)となったことから、現
  在は術後翌日からバルーンキャップ栓にして夕方に入浴していただき2日目に膀胱内にバル
  ーン(ゴムの管)を留置したまま退院することを基本にしています。
  
  以下に、バルーン抜去について述べます。
  このバルーンは、術後14日目に抜去するようにしていますが、抜去後に再度尿閉となった場合
  は再度留置し、1〜2週間毎に外来受診としバルーン抜去を試みる。(これまでの最長は55日間
  バルーンを留置した)
 
  なおこのパルーンを留置したままでもシャワーや入浴可能です。また、バルーンを留置している
  間、 どうしてもパルーン留置による膀胱刺激症状(痛みや不快感、頻尿)のため,バルーン周囲
  から尿がでてきたり、血液がにじみ出てきたりすることがあります。これらのことは心配要りませ
  ん。 これらの予防として、ボルタレン座薬を退院処方していますので、1日3個まで使用してくだ
  さい。 なお患者さんができるなら、バルーンは手術翌日に抜去しその後は自己導尿という方法
  もあリます。希望の方はお知らせ下さい。

  術後合併症
  術後合併症として尿道直腸瘻(600人に1例)、尿道狭窄(25%)、精巣上体炎(1%)、インポテ
  ンス(37.5%)などがあります。たとえぱ、治療後1〜2ヶ月後に尿道から尿が出なくなり肛門の
  ほうから下痢がでた場合ばすぐに病院にいらしてください。あるいは、手術後3〜9ヶ月に尿の
  出が細くなりチョロチョロとしか排尿できない場合は主治医にその旨お伝えください。
  また、稀ですが、睾丸がはれることがあります。このときもなるべく早く当院を受診してください。
  インポテンスはこれまでのところ、手術前に性機能のあった患看さんの37.5%に認められて
  います。ご希望の場合は、現在色々な治療法があリますのでおしらせください。
  ただし、術後6ヶ月以降に治療を開始するのを原則にしています。

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PSAの範囲は20以内で投薬されていない方に限ります。
  
保険対象外のため、再治療の場合は約60万円との事。


                  ●前立腺がん関連 (Medical Tribuneなどより)

  HIFUも現在注目の低侵襲治療ほかにも注目されている低侵襲治療としては,高密度焦点式超
  音波(HIFU)療法が挙げられる。

  HIFUでは脊椎麻酔下に経直腸超音波法により前立腺を描出し,治療すべき組織を正確に特定
  したうえで,治療用エネルギー変換器により前立腺内の個個の病巣を凝固させる。臓器内に限
  局している前立腺癌患者に対してHIFUを行うと,外科的内分泌療法の実施を先延ばしにすること
  ができ,ホルモン非感受性腫瘍の進行速度が低下する。また,1 回の外来で実施可能であり,治
  癒のチャンスが与えられるという利点も備えている。
 
  ミュンヘン・ハーラヒンク市立病院のStefan Thuroff博士とChristian Chaussy教授は,根治的前
  立腺摘除術の実施が不可能な184例のおもに高齢のリスク患者に対してHIFUを実施したところ,
  術後の排尿機能は全例で正常となり,術式にもよるが 3 分の 1 から3 分の 2 の症例で性的能
  力が維持された。しかし,再発率,瘢痕形成による副作用,PSAの上昇などについて結論を下す
  には、長期的な追跡調査の実施が必要である。

   ●医療法人社団北腎会坂泌尿器科病院 より

  HIFU ・日本で最初に導入した前立腺肥大症及び前立
  腺癌の最新鋭治療器。
 
  高エネルギー焦点式超音波前立腺治療システム「HI
  FU(ハイフ)」。 ・直腸からプローブを挿入し、超音波の
  焦点を患部に絞り照射、組織を蒸散させる装置。

  ・開腹手術のような出血などの副作用はありません。

  ・この治療は保健がききませんので、ご希望の方は医
   師にご相談下さい。

                 ●第38回日本癌治療学会総会より
    
       前立腺・精巣-手術
      限局性前立腺癌に対する高密度焦点式超音波(HIFU)療法

     内田 豊昭、黄 英茂、佐藤 威文、宋 茂、入江 啓、本田 直康、小俣 二也、遠藤 忠雄
     馬場 志郎 北里大学 医学部 泌尿器科

  「目的」高密度焦点式超音波療法は,介在する組織の損傷なしに身体内部の目的部位を凝固壊
  死に導く治療法である.われわれは,第二世代のHIFU機器であるソナブレート 200を用いて8例
  の限局性前立腺癌に本法を施行したので報告する.「症例」年齢は平均72.3歳、stage T1b-2bN0
  M0の限局性前立腺癌で、術前の血清PSAは5.44-40.5 ng/ml, 前立腺体積は14.6-37.9ml, Gleas
  on grade 4-8 であった.
 
  前立腺全体を照射したのが7例、片葉が1例で、術後観察期間は1-17ヶ月である.「結果」これ
  までに術後3ヶ月以上経過した5例中3例は血清PSAは1.0 ng/ml以下でかつ、術後の前立腺生
  検にても癌細胞は認めらない.全体照射した他1例は血清PSAは術前19.8から1.83 ng/mlし、現
  在経過観察中である.

  片葉のみ照射した1例は血清PSAは術前の15.5から2.86と低下したが、その後6.95 ng/mlと上昇
  傾向のため、2回目の治療を予定している.術後合併症として前立腺部尿道狭窄が1例に認めら
  れた.局所性前立腺癌に対する
 
  HIFU療法の長所として,非観血的,短期間の入院,合併症が少ない,繰り返し治療が可能、な
  どがあげられる.「結論」HIFU療法は,限局性前立腺癌に対する低侵襲性治療法として有と思わ
  れる.