手に入れたのは


恋をした男。





恋をした男   8







「…ッテぇ…」
慌てて顔を上げたサンジはテーブルで頭を打って呻いてる。
あんまりおどけた態度に思わず涙もひっこんだ。

「ルフィ、お前…いや、悪ィごめん、その、なんだ…」

後頭部を擦りながら俺に向かって掛ける言葉はしどろもどろ。
うんうん言葉を探して唸ってる。
なんか…こんなサンジ初めて見るなあ。
ちょっと、ていうかかなり面白い。それになんかかわいいなあ。
未だにおぼつかない様子のサンジに俺はつい笑ってしまった。

ずっとずっとあの日から笑う事なんて忘れてたのに。
目の前の奴を見てたら自然に出てたんだ。

サンジはそれがよっぽど意外だったらしくて今度はこれでもかってくらい目を見開いて俺を見つめた。
あんまり見てくるからどうして?って意味で首を傾げたんだけど、今度は真っ赤になってしまった。
それがまた可笑しくてかわいくて、俺はもっと笑った。声をたてて笑った。

あんまり笑ってたからサンジが恨めしそうにしてる。それがまた笑いを誘う。
やがてサンジも笑い出して、二人で笑った。
なんだかとってもとっても長い間笑ってた気がする。

ひとしきり笑って、俺はふと浮かんだセリフを口にした。

「あー腹減ったなあ」

再びサンジと目が合う。
サンジは真顔になって俺を見つめる。
そしてくしゃりと笑顔を見せて、答えてくれた。

「しょうがねえなあ、ちょっと待ってろ。」
同じ高さの目線からフっと体を上げる。そのままキッチンへ向かうと思ってた足はそこに立ったままだった。
不思議に思って見上げると、俺を見下ろすサンジの瞳から涙の粒が零れ落ちた。


「ありがとう」

サンジはそう言った。
顔は笑ってるのに、涙はぽろぽろぽろぽろ落ちてくる。
その涙があんまり綺麗で、みとれてしまった。
それをずっと見ていたかったけど、ほっとくといつまでも止まらなそうだったので拭おうと立ち上がった瞬間。

俺はサンジに抱き締められた。

「好きだ。」

濡れた頬っぺたが押し付けられて、その感触に今抱きつかれてるってリアルを感じて。
でもそのセリフに頭がついていけなくて。

「今まで整理つかなくてお前を傷つけたかもしれない。
ワケわかんなくてもう俺のコト嫌ンなっちまってるかもしれないし、それはしょうがねえと思う。勝手言ってるかもしんねえけど、知ってて欲しい。
俺はお前が好きだ。」

いっぺんに言われて良くわかんないけど都合いいとこだけ俺の耳も理解が早いみたいだ。
さっき急にキスされた時も感じた、胸のつかえが溶かされるようなあったかい気持ち。
今まで自分を固めてたものを剥ぎ取ってくれるみたいに

嫌われてると思うと苦しかった。
もう二人きりでいられないかと思うと寂しくて切なくて。

これ以上嫌われたくなくて立ち止まっていた。

「俺も、すき。」

都合のいい夢を見てるのかもしれない。
サンジの背中に手をまわして。
こんなに近い距離でその瞳を見てる。

サンジの涙は止まらなくて。
俺の目からも涙が溢れてきて。
頬を寄せてずっとずっと抱き合った。
どっちの涙かわからなくなるくらい、そしてそれが乾いてもずっとずっと。





俺はやっといつもの俺に戻れたと思う。
みんなと騒ぐの楽しいし、笑って怒ってまた笑って、走り回って怒られて。
腹が減ればキッチンへ向かえばいい。
優しいコックがいつでもウマイもん作ってくれる。

ただ前と違うのは、キス付きでメシが出てくるトコ。
俺はまだ慣れなくて固まってるぞって笑われるけど、別に嫌じゃないしむしろ嬉しいかもしれない。
ちょっと前にギクシャクしてたのが嘘みたいにサンジはご機嫌で俺にくっついてくる。

「そのうち夜もよろしくな。」

謎のセリフを吐いてサンジは俺を抱き寄せる。
わかんないけど笑顔で返して、窓から見える空を仰いだ。

空は真っ青でどこまでも晴れ渡り、穏やかだった。














長い事ほったらかし…イヤイヤ、長い話になってしまいましたがここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました!
途中ちょっとサンジの妄想があやしかったですがその辺はまた別の機会に(書くのかよ!)