吐く輪っかがハートマークになってたり
呼びかける声が一段高くなってたり
目の下鼻の下が伸びまくりで。
ああ、俺 虜になってる…
愛しているという現象
「んナミさ〜ん!ロビンちゃんvv本日の和みおやつですよーーーvvv」
ガラスの器に入った涼しげな菓子の載った盆をくるくると巧みに動かしながら船の料理人は麗しの女性クルー達に踊り寄って行く。
それが日常茶飯事な二人にとっては優しく微笑みそれを受け取る以外何もない。
もちろん作った本人も本能から来る奉仕精神の一環なので、気にもしていないが。
穏やかな時間。
青い青い空。真っ青に深くたゆとう海。
今は「偉大なる航路」ものどかな昼の海を演出している。
他のクルー達に同じ物を手渡して行き、サンジは残るひとつを見つめひとつ溜め息をついた。
(頑張れ
頑張れオレ!)
幾分量が多めなその菓子にキョロキョロと辺りを気にしつつさらに他には無いトッピングをちゃちゃっと加えていく。
…基本的には差別っつーもんは女性以外にしないんだがなぁ…
レベルが一つあがった豪華おやつを持って船首へと向かう。
大概そこに居る最後の一人にこの力作を渡しに。
一足一足そこへ近づく度に体の芯から熱くなってくる。一足一足、一呼吸一呼吸するにつれ心臓の鼓動が強くなり、耳に大きく響く程。
大脱走したってこんなに息があがったみたいにならない。
外観は平静を装っているつもりだが、自分の心臓の音で頭がガンガンしてぼうっとして、実は立ってるのがやっと。
くらくらしながら辿り着いた先にはお気に入りの場所でまっすぐ前を見据える船長。
(落ち着け
落ち着けオレ!)
ハァハァとおかしな息まで出しかねない自分を叱咤し、いざ話掛けようと息を吸い込む。
「ル…っルフ…
『おーっっ!待ってました!』
どもっている間に菓子の匂いに気づいたのか、当の本人がいきなり振り向く。
ぴょこんと素早く先頭から降りて来、瞬く間に盆の目の前にやってくる。
突然現れた彼に思わずぐらりと体が揺らめく。
「アッ!」
ついでに菓子を載せた盆も揺らめいて、ルフィが顔色を変えるがそこは長年鍛えた足腰、ひらりとバランスを戻して落下を防いだ。
「おおー!」
目をキラリと輝かせる船長。
またもやドキリと早鐘が鳴る。
「サンジかっこいー!!」
頬を紅潮させて器用な料理人を褒め称える少年海賊。
しかし途端に肩眉を上げて微妙な表情へと変化させる。
「…なんか、サンジの顔、へん…?」
(…!!し、しまった油断した!!!)
そそくさと無事美しく盛り付けが保たれている菓子を押し付け、足早に、と言うことすら失礼なくらいのもの凄いスピードでサンジはその場を後にした。
誰もいない厨房へと戻り、ひとつでっかい溜め息をつく。
ああ困った
ああどうしよう
可愛すぎる
可愛すぎる!!!!
自分とそう年の変わらない(外見はかなり離れて見える気がしないでもないが)クソガキの周りに見えてしまうキラキラ効果。
最近では最早女性と同等、いやそれ以上に彼を目にする度サンジのハートはキュンキュンしてしまっているのである。
有り得ない有り得ないと誤魔化し誤魔化し過ごして来たのだが、一人冷静に分析してみるとどうやら恋してしまったっぽいのだ。
フェミニストサンジ、人生最大の危機。
今や毎夜のおかずに登場するのは必ずと言って良いほど例のガキ。
…大体がいつも跨ってるんだぜ?はしたないったらありゃしねェ…目の保養、いや、目の毒だ。
もう頭のてっぺんからつま先まで、舐めるように見入ってしまう自分。
今日のあの顔がどうだったとかあの態度はやべえとかもう考えるだけで目尻が垂れに垂れて興奮のあまり鼻血までツツーと出た日には俺もまだ若いんだなあとしみじみしてみたり。
先ほど浮かべたあのキラキラした瞳、付け加えて自分を賛美しながら頬を染めつつ見つめてくるその上目使いにあの場で海に突き落として風呂場まで直行の後即押し倒しという即興の陥落(ていうか強姦だろう)作戦まで想像は肥大してしまった。
もう想像だけが膨らむ毎日で姿を見ると顔が自然と綻んでしまう…いや、だらしなくなってしまうので哀しいかな、大好きな彼に会うときこそ最大に気を引き締めねばならなくなってしまったのである。
(しかしどうにかならねーかな、この癖…)
見た目さえ。
見た目さえ普段通り装うことができればどんなオイシイ場面に遭遇したってメモリアルしておけるというのに。
先ほども危なかったが今また思い出に耽って鏡を見れば普段のクールでカッコいい自分とは似ても似つかぬエロ目のぶさいく男が覗いているのである。
ナルチシズムなサンジ君、ぶさいくな顔を見られてはカッコイイ俺の事を気に入ってくれているルフィに嫌われるに決まっていると思い込んでいるらしい。
鼻の穴が広がるのも口の端が引き攣るのももちろん目尻が垂れに垂れるのもどうやったら抑えていられるだろうか…
腕を組みいっぱしにうーんと悩むのも束の間、それにしても今日のルフィはひときわ可愛かったと煩悩が迸る有り様。
ぽやぽやした頭のまま跳ねる様にキッチンへと向かう。
頭の中はルフィに捧げる手料理のことで一杯であった。
先日入手したどでかい肉の塊をこれまた何食分になるんだよというくらい切り取って、丁寧に下味をつけ調理する。
このうちのこれくらいがレディー達、これくらいがウソップ、チョッパー、俺、そして後はルフィの分だなvv
約一名を忘れている気がするが、まあ構うことも無く。
じゅうじゅうとおいしそうな音をたてるフライパンを見つめながら、サンジはもちろんというか性懲りも無くというか、コレを食べるルフィに想いを馳せていた。
あいつ、肉好きだからなァ…
目ェいつも以上に輝かせっかもなァ…
しかもしかも、最近手に入らなくて魚ばっかだったから喜びすぎて
『サンジ大好き!』
とか言ってくれちゃうかもしんねェ!
先ほど見た、顔を紅潮させたルフィを思い出し、「たまらん」と顔中を綻ばせていた。
バタン
突如厨房の扉が開く。
我に返ったサンジはいつもの表情を装って調理に専念してる風を装い、入ってきた人物に顔を向ける。
「!!」
そこにいたのは愛しい船長。
どうやら肉を焼く匂いに引き寄せられたらしい。
「おおぉー!!匂いがしたからもしかしてって思ったけど、今日肉?!」
想像通りの言葉を発して大きな瞳を更に見開く。
パタパタと可愛らしい音を立てて近寄ってくる。
もちろん微塵も警戒心は、無い。
反してサンジの方は気が抜けない。むしろ戦と言っても過言ではない。
迷うことなく自分に向かってくる(イエ本当は肉になんですが)少年の足音が近づく度に鼻息は荒くなり手元も痙攣してるんじゃないかと言うほど震えてきてしまう。
その辺のことはまだ目を瞑って。
彼の最大の課題は『嬉しすぎて顔を綻ばせないこと』なのであります。
本当はフライパンなど投げ捨ててこちらから走りよって抱き寄せたい。
やがて隣に来るだろうルフィを嫌でもというか容易に想像できてしまう。
しかしこの二つ、エロサンジ顔へと変貌するのに十分な代物。
それらと必死に戦うサンジ、一生懸命肉の焼き加減を見る。
緊張感の高まる中、ついに真隣に立つ船長。
「ん〜、んまそうな匂いッ!」
身を乗り出してまで、食らおうとするかのように身を寄せたかったらしく、
自身を支える為にサンジの腰辺りにしがみついた。
電 撃
それはエネルにやられた攻撃よりも酷かったかもしれない。
緊張の毎日の中、自分が意識して近寄らないようにしていたということもあったかもしれないが、こんなに直接的に触れられたのはかなり久々であった。
なっ?!俺の腰に?!
どういうことだよ何がしたいんだよっていうかナニ?!
阿呆な思考へと進んでしまう愚かなラブコック。
掴まれた腰を支点に体はあまりの嬉しい衝撃にヨタヨタと傾いていた。
ルフィはひたすらおいしく焼けていく肉をまるで恋人の様に愛しそうに見つめている。
ああ、これが今日は俺の腹の中に収まるんだなあ…などと想像を働かせていたところ。
じゅるり。
思わずよだれが出てしまった。
それが聞こえたのだろう、サンジがピクリと体を動かした。
聞こえてるのならば、とルフィは相談を持ちかける。
「なぁなぁサンジ〜この肉もう食えんじゃねェ?ちょっと、ちょっとだけさァ、味見させてくんないかなー?」
いかにも腹減らしてますと主張するかのように垂らしたよだれはそのままに料理人を見上げてみる。
そこにあった料理人の顔は…………
ギョーとするより無かった。目が飛び出る程のオドロキ。
普段女のヒトを追っかけてる時の方がまだ品がある。
おもしろ顔は大好きなのでこれも一種のそれに値するのではと笑って過ごせる物なら過ごしたい。
しかし当の本人は自覚してないらしく、纏うオーラは真剣そのものであった。
「ルフィ…」
固まってしまった少年に対して興奮した息を吐きながら囁く。
何とも言えないスゴイ顔のサンジから目を逸らせないルフィはごくりと喉を鳴らし先行きを見つめた。
「俺はお前の味見がしてェよ」
そう言いながらスゴ顔が近づいてくる。
反射的に「うわぁ…」とひいてしまいたかったがいつの間にか掴まれていた肩はがっちりと固定されていて、動けず。
顔を逸らすが色事に長けた青年から逃れる事は出来なかった。
顎を捕らえられ口接けられる。
おかし顔からは想像がつかない程のウットリするようなキス。
熱を持ったぶ厚い舌に舐られ口腔までも舐められ尽くされて力が抜けてしまう。
それを見抜いたのか腰元を男の腕が支えた。
肉の焼ける音がジュウゥ…と小さくなっていく。火は止められてしまった様だ。
やがて支えだった腕が別の意思を持って動き始めた。
簡単に装着されている上着の中へ入り込み、少し火照った体を弄っていく。
「ヤ…」
急に起こった出来事に驚いて否定の言葉を吐く。
不安になって体を弄る男の顔を伺う。
「…ッッ!!」
そこにはおかし顔からさらに変化して最早人間じゃないかもしれない程恐ろしくなったサンジの顔が…
眉は顰まり巻きも激しさを増してる感がある。
鼻の穴はおそらくMAXまで開ききり、呼吸をする度に閉開し熱い息が掛かってきそうだ。
目は血走って紅くさえなっており、口の端があり得ない程吊り上っていた。
「ヒイィィ!!」
ルフィは思わず叫んでいた。
いっそ見ない方が良かったかもしれない、いや、見てはいけなかった。
世にも恐ろしいその形相に涙目になるも、もうそれすら興奮の材料にしかならないサンジがもっとエライ表情になるので目も当てられない。
この日、船長は最大級の恐怖の中、おいしく頂かれてしまったとか、しまわなかったとか。
阿呆でスイマセン、とだけ言わせてください…
漫画描くときのサンジ像に近いような。
続きを書きたい勢いです。