メシ使い
「サンジサンジサンジ!」
「わかった。次に言うセリフはわかってっから、大人しくしてろ。」
キッチン兼会議室に飛び込むように入って来て叫ぶルフィを手で制し、サンジはよくもまあこう定時にエサをもらいにやってくるもんだとあきれつつ日もまだ高いのに既に4食目だか5食目だかになる特別メニューをいつものように作り始めた。
あんまり騒ぎ立てるとご飯をくれないのをわかっているルフィは、いつも通り大人しく座って待つ。
いつからか、いや、もう始めからか。
サンジがコックとしてルフィの仲間になってから、大食漢の彼にこうして日に何度も飯を作り続けている。
まるで専属だ。
最初はナミさんの、最近ではビビちゃんもだが、とにかく彼女達への気配りを一番にしたいのに一歩歩いてはこの万年腹減らしのクソガキに捕まって、それがウザくてウザくて仕方なかった。
とにかくコイツの飯に対するご執心は大したもので、ある意味料理人冥利に尽きるがここまで度を越えているのもこっちの方が愛想が尽きる。
いや、料理人だなんてんじゃなくて、コイツにとっちゃエサくれるメシ係みたいなモンくらいだろ、俺って。
そう考えるとコックとしてのプライドにヒビを入れられたように思える。
しかし何故だかここまでムカつくのに嫌ではなかった。
それが証拠に、今やルフィのご訪問は普通に日課になっていた。
どうしてこれでイイんだろうな?
わかるような、わかっちゃいけないような。
ジャアジャアとにぎやかな音をたてる鍋を見つめながら、迷路に飛び込んでしまったような錯覚を覚え、サンジは少し荒々しく火からそれを降ろし、味見をして確認してから皿に移した。
「ほらよ」
片手でコトンと飯を待つ少年の前に置いてやる。
彼は目を輝かせてカパカパと貪り始めた。
やっぱりエサだなこりゃ。
よくわからない単語を発しながら必死に飯を食らう。どうやら ウマイ を連発しているらしいのだが、どうしてもその一言を言うのに食うのを止めることは出来ないらしい。
いつも同じこの単語を発している。 これもいつもの習慣のようになってることだ。
この際味はどうでもいいんじゃねぇか?オマエわかってねぇだろ。
そう思っても、口元は微かに緩む。
たとえオマケのような賛美の言葉でも嬉しくないわけはない。
カチャカチャとご飯を口に運ぶ音と、時たま発される妙な単語(ウマイ、らしい)以外は静かな沈黙が流れている。
飯を作るのは終わったのだから、自分はこれから好きなことをしに行けばいいといつも思うのだが、何故だかこの空間が居心地良くて、サンジは大概ルフィが食べ終わるまでその一部始終を見つめていた。
コイツと俺だけの空間。
コイツの為に俺が飯を作り
それをコイツが食らって
俺の為にうまい と言う
たったそれだけのこと。
たったこれだけのこと。
食い終わったルフィとようやく目が合った。彼はしししと例の笑い顔を見せる。
・・・参ったな。
それは至上の瞬間。
自分はこの為にここにいるのだ。
理由なんて考えるのもアホらしかったぜ。
「あー美味かった!美味かったあ!なあ、サンジー」
「なんだよ」
「ししし、俺、もう腹減っちった。」
「バカ野郎もうちょっと待っとけ。次は夕食だからな。支度すっからさっさと出てきな。」
小腹くらいは満たされているらしくすんなりとルフィは出ていった。
・・・これでいい、んだよな俺。
いまいちやっぱ飯係、つうか召し使いならぬ飯使いっぽい気がする。
でもその先には彼の笑顔が待っているのだ。
「あーあ、しょうがねェな。」
俺って奴はよ。
そうひとりごちてサンジは程無く夕食の準備に取りかかる。
あの笑顔を思い浮かべながら。
終