『ゴシック』



 物資補給の為に寄った、小さな島。
「ゴシックね…。豪華絢爛って感じ?それも、悪くないわね…」
 ナミはそう言うと、夜までに帰ると伝言を残して船から下りてしまった。
「なぁ、ナミは何処に行っちまったんだ?」
 サンジの用意した昼食を頬張りながら仲間へと聞くが、誰もその行き先を知っている者は居なかった。

 そもそもナミが残したゴシックとは一体、何なのか…。
 一言にゴシックと言って、建築様式・書体・ファッション…思い浮かぶのはそんなところだろう。
 てっきりナミは一人で美味しい物を一人で食べに行ってしまったのではないだろうか?と思っていたルフィは、ゴシックが食べ物では無いと分かると一気に興味が無くなったようだ。反面、他の者達はナミの残した言葉の意味を、よけいに知りたくなってしまうのであった。










 その頃のナミといえば…。


 その部屋の中は、甘い香りに包まれていた。
 シルクの素肌に触れる柔らかさが、気持良い。
 外の部屋で演奏しているのだろうか?静かなしらべが遠くから聞こえてくる。
 それだけで、全身から力が自然に抜けていき、リラックスした状態になる。

 …気持ち、いい…。

 ナミが目をゆっくりと閉じると、その背に触れてくる指があった。
 今ナミはその体には何も身に纏ってはいなかった。
 生まれたままの姿のまま、うつぶせにシルクのシーツがかかったベッドにその体を預けていた。


 触れてきた指は、ナミの首筋から背骨をなぞっていく。
 ただ、触れてきているだけなのに…。
 背筋に小さな快感が、流れ通る。
「…ん…っ…」
 少しくすぐったいような、気持ち良いような感触に、思わず声が漏れてしまうのだ。
 そんなナミの様子をどう思っているのだろうか?指の主は、温かいオイルをたっぷりとナミの体へとたんぷりかけていくではないか。
「ふっ…ん…」
 オイルが今度は掌全体を使って、体に塗りこめられていく。
 その気持ちの良い感覚に、ナミは身をゆだねていった。

 もっと、気持ちよくなりたい。
 オイルと触れてくる手が、どんどん熱を持っていくようだ。
 その熱で、自分の体温も上がっていくのが分かる。
 それまで背部をただ撫でるように触れていた手は、ナミの内腿へと移動してきた。撫でながら、触れてくるだけの手にじれったさを感じる。

 もっと、激しくていいのに…。
 しかし、それを口にすることは無かった。
 そのじれったさ自体が、また気持ち良いのだ。

 そして、いつの間にか額には、汗がにじんでいた。


 しかし、その手の主はナミの考えていることが分かったのだろうか?
 突然に、痛いまでに、ナミの内腿をこすり始めてきたのだ。
「あっ…っ」
 ナミの細い体は跳ね、思わず声を出てしまった。
 その声が、まるで自分のものではないような甘さがあり、ナミは恥ずかしかった。


 そこ…、もっと…


 それ以上に、他ところももっと触れて欲しかった。

 お互いの肌と肌とで触れ合い、もっとこの体の熱を…。



 更なる極みへと、上っていきたいとナミは願った…。












 額ににじむ汗に、長めの前髪が張り付いて気持ちが悪いと思った。
 だが払いのけようという気にはならない。
 少しけだるく、しかしすっきりした体を、今はそのままに動かしたくなかったのだ。
 その火照った体を隠すように、シルクのガウンがかけられる。
「ありがとう」
 今ガウンを掛けてくれた相手に、ナミはお礼を言った。
 部屋を見渡すと、まるで宮殿のような重厚な柱が見える。壁には、絵画が描かれている。
 先程までの部屋を満たしていた甘い香りは、いつの間にか少しさわやかな香りへと変わっていた。









 建物は元々は古い教会を改装したのだおろうか?
 本来、このエステにゴシックと付いているのは、ゴシック建築とその時代の貴族の贅沢をイメージして付いた名なのだが、ナミにはそんな意味などどうでもいいことらしい。
「こんなゴシックエステだったら、いつでも歓迎だわ♪最高〜!」
 ゴシックという言葉に、とにかく豪華だけを想像したナミは、もう満足の一言だった。
 エステの最後の仕上げであるスパ。バラの花びらが一面に浮かべられたバスタブにのんびりつかりながら、ナミは差し出された最高級のシャンパンに口をつけた。
「あぁ〜、美味しい♪」
 ナミは幸せそうに、シャンパンを飲んだ。
 しっかりと体をほぐし、引き締めて…そして、この贅を尽くしたバスでリラックスをする。この後、最後の仕上げとして贅沢な食事が待っていると言う。
 普段サンジの最高級の食事を摂っているが、それはそれ、これはこれである。
 またサンジとは一味違った食事が楽しみだとナミは思った。
「やっぱりロビンも誘えばよかったな…」
 本当は声をかけようとも思ったのだが、いかにも怪しく自分の好奇心だけに彼女を付き合わせるのは悪いと思ったのだ。


 この後食事の為に用意されたドレスは、黒をベースとした中世ヨーロッパを思わせるドレスだった。
 爪はドレスに合わせたネイルアートが施され、そして髪もナミの細く美しい首筋をよりきわだせるようにアップされた。
 沢山のキャンドルと、ナミの為だけに演奏するカルテット。
 その中で、運ばれる豪華な食事。

 ナミの中でゴシックの定義なんて、どうでもよいのだ。
 とにかく、幸せであれば…。
「ゴシック、最高〜♪」
 



 普段はとてもケチであるが、自分のための贅沢にケチることは無いナミであった。



木村育美