『蝶よ花よ』



 蝶は、さなぎから固い自分の殻を、柔らかい体で破り出てくるの。
 あの綺麗な姿は、沢山の努力があってこその、美しさなんだよ。
 知ってる?
 蝶って、羽化するときが一番鳥に狙われやすいから、早朝に素早く羽化するんだって。

 花だって綺麗に咲くまでには、余分な葉を落としたり肥料を与えたりってすごく手間が掛かるんだよ。

 そう教えてくれたのってノジコだったっけ?それとも…?

 だから蝶や花の美しさってのは、努力の結晶なんだよ。
 強く綺麗でいるためには、努力しなきゃダメだって…。






「ねぇ、今私って甘やかされてるような気がするのよね…」
「あら、そう?」
 私と同じく並んでデッキチェアに座り、のんびりと読書をしていたロビンが私の独り言に答えてくれた。
「昔は、もっと頑張っていたような気がする…」
 別に今の自分に不満があるわけでは無い。
 海賊船とは思えないほどの、豪華客船並みな快適な船での生活を送らせてもらっていると思うし。
「いいじゃない、みんな貴女のことが好きなのよ」
 ロビンは、私の言いたいことがどこまで分かってくれてるのだろうか?
「甘やかせてくれる人には、甘えればいいのよ…」
 そう言葉を補足すると、再び本へと視線を戻していった。


「ナミさん、今日は前夜祭ですからね」
 サンジ君は、さっきそう言って夕食後には沢山のスイーツを用意していると言っていた。
「ナミ、今夜から明日まではもう大騒ぎするから、今からしっかりと休んで体力残しておけよ」
 ルフィまでそんなこと言ってたし。

 大体、普通こうゆうのは私に内緒で準備するものでしょうが!
 いつもの私だったら、そう文句を言っているところだろうけど…。



「甘やかされるのと、大切にされるってのは、違うのよ…」
 だから、ロビンは一体どこまで私の気持ちが分かってるの?

 けど、そうだね…。

 私は、いつだって甘やかされていたわけじゃなくて、みんなに大切にされてるんだよね。
 だから、私は私らしく居られたんだ…。それは、昔も今も変わらないくて…。







「それじゃ、明日はナミの誕生日だ!みんな飲むぞ〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 カンパーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!!!!」

 船長であるルフィのそんな音頭で、申し合わせてみんなからの
オメデトーーーーーーーーーーーーー!
 そんな祝福。






 そうだよね。
 私はみんなに大切にされるから、だからどんなに馬鹿で無鉄砲な仲間でも私は強く居られるし、笑っていられるってことなんだよね。

 奏でられる音楽。
 並べられた豪華な食事。
 私の好きなお酒。
 色とりどりにラッピングされたプレゼント。

 これ、全部私にだって。
 よし、それじゃぁ明日くらいは、私もみんなに優しくしてあげようと思うわけよ!





 私を生んでくれた、全く顔の何も覚えてない両親。
 私を大事に育ててくれた人たち。
 私の、すごく楽しくて大切な仲間達。

 全部全部に、沢山の感謝を込めて!
 感動して泣いてなんか無いから!



「よし、今日はどっちが先に潰れるか勝負よ!」
 酒豪のゾロに振り返って、私はいつも通りに笑った。
「ルフィ、貴方はお腹いっぱい食べるのよ!」
 むろん、私が言わなくてもルフィは食べるけどね(笑)
「さ、みんな今日は無礼講!歌って飲むわよぉ〜!」

 私のそんな掛け声を待っていたかのように、海賊船は宴会場に変貌してしまうのであった。





 私の誕生日前夜祭の会場から外に出てみると、雲ひとつ無い星空が広がっていた。
 ゾロは、多分寝ている振りをしてくれているのだろう。
 酒豪対決は、誕生日を迎える私に花を持たせてくれたらしいし。
 多分、これがゾロからの私への誕生日プレゼントって感じなのかしら?
 他のみんなも、私を楽しませるために、沢山楽しんで食べて飲んでくれていて…。

 私を大切にしてくれて、本当にありがとう!



 私はこれからも、私らしく居られるように頑張っていくし、みんなで笑っていくからね。



 恥ずかしくて面と向かって言えないけど…。

 …これからも私を大切に大切にしてね♪




 よろしく!



 仲間に大切にされて…。
 私も、仲間を大切にしていく。

 満天の星空が、沢山の暖かい想いを見守っていた。


木村育美