自閉症の子どもたちと“恐怖の世界”
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1.自閉症の原因自閉症は生まれつきの障害で遺伝子が原因だと考えられています。それで、世界中で多くの研究機関が自閉症遺伝子の研究をしています。しかし、自閉症の遺伝子といった単独の遺伝子は見つかりませんでした。 現在、自閉症は1000個ほどの遺伝子が関与している多遺伝子障害だと考えられています。自閉症に関連している遺伝子が1000個もあるので、研究機関によって研究している遺伝子が異なります。そして、それぞれの研究機関が「自閉症遺伝子発見」といったプレスリリースを出しています。 このような記事を読んだことがある方は、自閉症の遺伝子研究が進んでいると思うはずです。しかし単純に考えても、このような発表が1000個ほど出て来ることになります。自閉症遺伝子が1000個も発見されたら、自閉症の遺伝子研究が進んでいるとは言えなくなります。自閉症の遺伝子研究は混迷しています。 2.遺伝子説自閉症の原因が遺伝子であれば、今も昔も発症率はほとんど変わらないはずです。 近江学園は第二次世界大戦後まもなくの1946年に、戦災孤児60名と知的障害児50名の定員で糸賀一雄によって創設されました。その近江学園にはじめて自閉症の子どもが来たのは1955年です。それまでの約10年間、近江学園にいた知的障害児の中に自閉症の子どもは1人もいませんでした。 日本自閉症協会元会長の石井哲夫は、1950年に大学を卒業し、児童相談室に勤めました。そのとき、15名ほどの知的障害児の教育に携わったそうですが、その中に自閉症の子どもは1人もいなかったそうです。自閉症の子どもは、その後ぼちぼち来るようになったそうです。(石井哲夫著、『自閉症児がふえている』) 現在、特別支援学校小学部にいる知的障害児の約半数が自閉症です。1950年ごろ、知的障害児のなかに自閉症の子どもがほとんどいなかったということは、自閉症の原因は遺伝子ではないということを示しています。 3.自閉症の動物モデル動物行動学者のローレンツから引用します。 ハイイロガンのヒナを隔離飼育することによって、すべての刷り込み過程を可能なかぎり妨げると、臆病で、一緒に行動をしようとはしないハイイロガンになる。そのような障害をもった二羽のハイイロガンを飼育用の囲い地に一緒にしておくと、しばしば向かい合った二つの隅にできるだけお互いに遠く離れて座るようになる。同種の仲間に対する彼らの反応は奇妙にメチャクチャである。この障害の現われ方は、人間において「自閉児」と記載されているものに似ている。(『ハイイロガンの動物行動学』) ハイイロガンのヒナを隔離飼育して刷り込みを妨げたときに現われた障害は、自閉症児と似ていました。 4.赤ちゃんの刷り込み1.母親への選好赤ちゃんは、生後数時間で、母親の匂いと他の女性の匂いを識別し、母親の匂いがする方を向きます。 赤ちゃんは、生後48時間前に、母親の顔を他の女性の顔よりも長く見ます。 赤ちゃんは、生後2日目に、ベッドの両側から母親と他の女性が名前を呼ぶと母親の声がする方を向きます。 これは母親への選好と呼ばれています。新生児が母親の匂いや顔や声を選好するということは、もしも歩ければ、母親の後を追うということを示しています。そして、赤ちゃんが母親を刷り込んでいることを示しています。 2.新生児人見知り小児科医の小西行郎は、マスクをつけた看護師に育てられたNICUの未熟児が面会に来た母親の顔を見て泣いたという現象を報告しています。そこで、お母さんにマスクをつけてもらうと泣かなくなりました。 これは、未熟児がマスクをつけた看護師を刷り込んでいたことを示しています。マスクをつけた看護師を刷り込んだ赤ちゃんが、マスクをつけていない母親を拒否するという現象を「新生児人見知り」と名付けました。 3.新生児分離不安日本でただ1人自宅出産をおこなっていた産婦人科医の大野明子から引用します。 (出産直後から母親に抱かれていた赤ちゃんは)体重を測り、洋服を着せるだけの間の、ごくわずかな時間、お母さんからほんの少し、30センチほど離れただけなのに、さっきまで静かだった赤ちゃんが泣いたりします。お母さんにもう一度抱っこされると、すぐ泣きやみます。生まれたときから赤ちゃんは、お母さんがこんなに好きです。(『分娩台よ、さようなら』、261ページ) 出産直後から母親に抱かれていた赤ちゃんは母親から離されると泣きます。これは、もしも赤ちゃんが歩ければ、母親の後を追うということを示しています。そして、母親を刷り込んでいることを示しています。 母親への選好や、新生児人見知りや、新生児分離不安は、いずれも赤ちゃんが刷り込みを行っていることを示しています。 5.自閉症と刷り込み自閉症は脳の機能障害なので、生まれつきの障害だと考えられています。しかし、脳の機能の一部は刷り込みによって生まれます。 1.母親を特定する(親刷り込み)刷り込みには頼るべき対象(母親)を特定するという機能があります。カモのヒナが母ガモの後を追うのは、母ガモを刷り込んでいるからです。カモのヒナといえども、母ガモを刷り込まないと母ガモの後を追いません。 2.種にかかわるほとんどの鳥類は刷り込みによって共に過ごす仲間が決まります。 3.種への共感がうまれる刷り込みを妨げられたメスのハイイロガンは、オスの攻撃行動を求愛行動と勘違いしました。種への共感能力も刷り込みによって生まれます。 4.性刷り込みローレンツが育てたコクマルガラスはとなり家の少女に恋をしました。これは「性刷り込み」と呼ばれています。繁殖といった本能と考えられていた機能にも刷り込みがかかわっています。 6.自閉症と恐怖刷り込みによってうまれる脳の機能のなかでも重要なのが頼るべき母親を特定するという機能です。自閉症の幼児が母親の後を追わないのは、母親のそばにいても安心がうまれないからです。 お母さんは自分を頼らない我が子に寂しい思いをするかもしれません。しかし、子どもの方はそれどころではありません。 自閉症の子どもは、地球という未知の惑星に生まれてきたのに、母親にも頼ることができません。自閉症の子どもにとって、生まれてきた地球という惑星は恐怖の世界にほかなりません。自閉症の子どもは恐怖の世界をたったひとりでサバイバルしています。 恐怖の世界をサバイバルする戦略が2つあります。 1.恐怖を無視自閉症の子どもは怖い物事を無視しています。怖い物事を無視していれば怖くありません。それで、顔はポーカーフェイスです。 ○見ないようにして、聞かないようにして、怖い物事を無視します。耳ふさぎも怖い音を聞かないようにする戦略です。 ○恐くなんかないよと恐怖を無視します。恐怖だけでなく痛みも無視していることがあります。 ○規則性のある安心できることに没頭します。 ○手をぱたぱた、ひらひらなど、自己刺激に没頭します。自分で刺激を作って恐い刺激を遮断しています。 2.同一性へのこだわり地雷が埋まっている草原に前回通った小道があったとします。今日、前回と違う道を通るでしょうか?当然、前回と同じ道を通るはずです。前回と違う道を通ることは命の危険を犯すことを意味します。 自閉症の子どもも前回と同じ道を通ります。前回と同じ物を食べます。家具の配置が前回と同じであることにこだわります。自閉症の子どもは自分で安全であることを経験したことしか安心できません。放置していると、新しいことを学ぶという学習にも障害が生まれてしまいます。 7.恐怖症の治療怖れる合理的な理由がない物事を怖れ、生活に支障が生まれると、それは恐怖症と呼ばれます。ライオンを怖れるのは恐怖症ではありませんが、子犬を怖れて生活に支障があれば恐怖症です。ほとんどの恐怖症は治療できます。 同一性のこだわりは怖れる合理的な理由がないので、恐怖症として治療することができます。自閉症の子どもには多くの恐怖症があります。恐怖症の治療は、子どもが大きくなると大変ですが、子どもが小さいうちは簡単です。 恐怖症の治療をしていくと、世界は恐い世界ではなくなり、安心できる世界になります。世界が安心できる世界になれば、自閉症の子どもの情緒が安定し、問題行動が無くなり、学習が促進します。 自閉症の子どもに生まれつきの障害はありません。自閉症そのものは、定型とは少し異なるというだけで、けっして障害ではありません。大人の適切な支援があれば、信頼すべき個性豊かな社会人になります。 8.自閉症予防の5カ条刷り込みで一番重要なのは新生児覚醒状態と呼ばれている出産後の約1時間です。次に重要なのは出産後の18時間です。自閉症を予防するには出産後18時間の出産環境を整えるだけで十分です。 1.分娩台を廃止してフリースタイルの出産にする仰向けでの出産は難産の原因になり、胎児に供給される酸素も低下します。そのあげく、休息が必要だと母親はひとりで寝かされます。赤ちゃんは新生児室に隔離されます。フリースタイルの出産だと仰向けで出産するお母さんは1人もいません。 2.分娩室の照明をなるべく落とす暗い胎内から生まれてきた赤ちゃんは、まぶしい光を極端に嫌い、目を開けていられません。照明が薄暗ければ、新生児は大きな目を開けてお母さんを見ます。 3.新生児室を廃止して母子同床にする母子同床が自然の摂理です。現在、8割程の病院が赤ちゃんを新生児室に隔離しています。新生児室が子どもが自閉症になる主な原因です。 4.赤ちゃんに接する人はマスクをつけない赤ちゃんがマスクをつけた看護師さんを刷り込むと、マスクをつけていないお母さんを避けることがあります。新生児に接する人はマスクをつけないという配慮が必要です。 5.生後2日間は、眼薬と写真のフラッシュは禁止赤ちゃんは眼薬が嫌いです。眠りに逃避してしまいます。また、生まれたばかりの赤ちゃんを、フラッシュを焚いて写真を撮るのも危険です。まばゆい閃光は赤ちゃんには衝撃が強すぎます。 「自閉症予防の5カ条」に配慮すれば自閉症を予防することができます。 お願い現在の病院は母子ともに身体への安心・安全といった配慮は行き届いています。しかし、刷り込みにも配慮をするようにお願いします。また、これから子どもを産む方は、後に続く方の為にも、「自閉症予防の5カ条」を病院に要求して下さい。そして、「自閉症予防の5カ条」を受け入れてくれた病院で出産して下さい。あるいは、新生児室が無い「赤ちゃんに優しい病院」や助産院で出産して下さい。 自閉症の予防に御協力下さい! 2004.11.20〜 更新日 2019.12.04 |