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2009年8月31日、福井県立大学で口頭発表をした原稿です。
朝一番の発表だったので、どれぐらいの人が来てくれるのか心配でしたが、100人ほど来てくれていて、教室はほぼ満員でした。
なんとか無事に発表が終わって、といっても原稿を読んだだけでしたが、質疑応答になりました。
「一卵性双生児の一致率が高いといった遺伝が原因だという統計があるが、それをどう思うか?」という質問がありました。
想定していた質問だったので、「インフルエンザでも同じような統計をとれば同じような結果がでると思います。
しかし、インフルエンザは遺伝が原因ではありません。」、と答えました。
次の質問は、「自閉症には多くの理論があるが知っているか?どんな理論があるか?」、という質問でした。
少し頭にきて、いちいち話をする気にならなかったので、「遺伝子説があります。」、とだけ答えました。
遺伝子説のなかに中核障害はなにかという、さまざまな議論がありますが、どれも遺伝子説であることには変わりありません。
次の質問は、「テレビ説をどう思うか?」という質問でした。
これにはびっくりしました。
学会という場で、こういった俗説が出てくるとは予想もしていませんでした。
でも、冷静に、「カナー博士が最初に報告した11人の自閉症の子どもはみな1930年代の生まれでした。当時はテレビはありませんでした。ですから、テレビと自閉症は関係ありません。」、と答えました。
すると、「その後の自閉症の増加はテレビを刷り込んでいると考えられないか?」、と質問が続きました。
考えられないか?と問われれば、考えられないことはないです。
その可能性は限りなく0にちかいとしても。
説明をするには長くなるので、答えに窮しました。
すると、司会の先生から、「刷り込みの時期はもっと前でしょう。」といったフォローがありました。
最後に、学会の重鎮から、「理論にはエビデンスが必要で、実証する必要がある。」、という意見がありました。
なにも反論できません。
実証できないから苦労しています。
実証するには、「赤ちゃんに優しい病院」として認定されている病院で生まれた子どもと、それ以外の病院で生まれた子どもとの自閉症の発症率の違い、といった数千人ほどの子どもを対象としたかなり大がかりな追跡調査をする必要があります。
個人でできる調査ではありません。
国家プロジェクトです。
大学の駐車場に車をとめて、大学の前のコンビニでお弁当を買って、車のなかで寝泊りをした学会でした。
役員の先生や親切な学生スタッフに支えられ、多くの方に私の刷り込み説を聞いてもらえて、とても意義のある学会でした。
帰りの高速道路も、明るく元気に帰ってきました。
自閉症の原因
白石 勧
1.自閉症の発症率
もしも自閉症が先天的な障害であれば、今も昔も発症率はほとんど変わらないはずです。
ところが、1950年頃の日本では、自閉症の子どもはほとんどいなかったということを裏付ける資料があります。
日本自閉症協会会長の石井哲夫は、1950年に大学を卒業して児童相談室に勤めたそうです。そのとき、15名ほどの知的障害児の教育に携わったそうですが、その中に自閉症の子どもは1人もいなかったそうです。自閉症の子どもは、その後ぼちぼち来るようになったということです。(石井哲夫著『自閉症児はふえている』)
近江学園は、1946年に戦災孤児60名と知的障害児50名の定員の施設として開設されました。しかし、自閉症の子どもがはじめて来たのは1955年だったそうです。はじめの10年間、50名の定員の知的障害児の中に自閉症の子どもは1人もいませんでした。(糸賀一雄著『この子らを世の光に』)
1950年ごろの日本では、15名と50名の合わせて65名の知的障害児のなかに自閉症の子どもはひとりもいませんでした。
現在は、知的障害養護学校の30〜40%が自閉症だといわれています。(『自閉症スペクトラム児・者の理解と支援』)
アメリカでも1950年ごろは自閉症の子どもは非常に少なかったという資料があります。
カナー博士が11人の子どもの症例をまとめて幼児自閉症として発表したのは1943年ですが
カナー博士が勤務していた病院に最初の患者が来たのが1935年でした。
論文を発表した1943年までの8年間に、自閉症の子どもは11名しか来ていません。
カナー博士はジョン・ホプキンス大学病院の小児科部門に新たに設けられた児童精神科の医師でした。
数年前、アメリカの病院ランキングbPはジョン・ホプキンス大学病院でした。
自閉症以外の本を読んでいても、この病院名は良く出てきます。
日本での東大付属病院かそれ以上の権威ある有名な病院です。
その児童精神科には、裕福な家の子どもも来ていますが、粗末な小屋のような家の子どもも来ています。
寝小便や学業不振の子どもも来ています。
ありとあらゆる階層から、ありとあらゆる疾患の子どもが来ている大きなクリニックでした。
それなのに、自閉症の子どもは、1年間に1.4人しか来ていません。
論文を発表すると、カナー博士はアメリカだけではなく、世界的に有名になりました。
北米大陸の全土から自閉症の子どもが来ただけではなく
南米大陸からもアフリカ大陸からも自閉症の子どもが来ました。
しかし、カナー博士の所で自閉症と診断された子どもは、1953年までに96人しかいません。
世界的に有名になった後でも、10年間で85人(96人−11人=85人)しか自閉症の子どもは来ていません。
1年に8.5人です。
これは現代と比べると非常に少ないです。(カナー著、『幼児自閉症の研究』)
1950年頃は、日本でもアメリカでも自閉症の子どもは非常に少なかったのです。
これは、自閉症が先天的な障害ではないということを示しています。
2.脳の機能
自閉症には動物モデルがあります。
コンラート・ローレンツの『ハイイロガンの動物行動学』より引用します。
ハイイロガンのヒナを隔離飼育することによって、すべての刷り込み過程を可能なかぎり妨げると、臆病で、一緒に行動をしようとはしないハイイロガンになる。そのような障害をもった二羽のハイイロガンを飼育用の囲い地に一緒にしておくと、しばしば向かい合った二つの隅にできるだけお互いに遠く離れて座るようになる。同種の仲間に対する彼らの反応は奇妙にメチャクチャである。この障害の現われ方は、人間において「自閉児」と記載されているものに似ている。
ハイイロガンのヒナが刷り込みを妨げられたときに現われた障害は自閉症と似ていました。
ハイイロガンは、夫婦で子育てをし、家族や仲間と群れを作って行動をともにする社会性の強い種です。
夫婦や家族や仲間との関係はヒトと良く似ているそうです。
ところが、刷り込みを妨げられた2羽のハイイロガンを一緒に囲いに入れると、行動をともにするどころか、お互いにできるだけ遠く離れて坐ったそうです。
通常なら行動をともにするはずの同種の仲間でさえ怖がって避けました。
また、仲間に対しての反応は奇妙にメチャクチャで、激しい攻撃行動で突進してきているオスを、求愛と勘違いしたメスがいたそうです。
通常なら、動物は同種の感情を間違いなく読みとるそうですが、同種の感情を読み間違えました。
自閉症は脳の機能障害だと考えられています。
しかし、脳の機能はどのようにして生まれるのでしょうか。
鳥類の場合は、原始的な種ほど生得的に組み込まれている脳の機能が多く、高等な種ほど刷り込みによってうまれる脳の機能が多くなります。
以下は、鳥類の場合の刷り込みによって生まれる脳の機能です。
○ 親への後追い行動がうまれる。(親のそばにいるだけで安心がうまれる。)
○ 自分が属する種(仲間)が決まる。(刷り込みは親だけでなく種に係わります。)
○ 刷り込んだ種への共感能力がうまれる。
○ 鳴き声の習得にもかかわる。(幼い頃に聞いた方言で鳴き始める鳥がいます。)
○ 恋にもかかわる。(ローレンツが飼っていたコクマルガラス嬢は隣の少女に恋をしました。)
3.ヒトの刷り込み
鳥類の刷り込みは有名ですが、哺乳類はどうなのでしょうか?
神戸の王子動物園でのことです。カバのお母さんは、オスと同居のまま、同じプールに子を産み落としました。その子が出生直後、はじめて触れたのが、オス親の腹だったのです。オス親をすぐに分離しましたが、子カバはメス親から離れるばかり、生後2日で死亡してしまいました。野生では、メスは出産が近づくと群れから離れるといいます。以来、妊娠末期には、必ずメス親1頭にしてやったのです。(亀井一成著『動物の赤ちゃんを育てる』)
生まれたばかりのカバの子が、はじめにオス親の腹に触れたばかりに、母親を避けて死んでしまいました。
水中で父親の匂いを刷り込んでしまったので、母親の匂いを拒否したと解釈できます。
カバの嗅覚による匂いの刷り込みは個を特定しています。
刷り込みによって個への後追い行動がうまれるだけではなく、異なる者への拒否反応がうまれます。
しかし、ハイイロガンなどの視覚による刷り込みはこれほど厳密ではありません。
はじめは種を刷り込みます。
個を特定するには数日かかります。
ローレンツを刷り込んだヒナがローレンツの後を追いかけたという逸話は有名ですが、実際は人であれば誰の後でも追いかけたのです。
髭の生えた大男のローレンツと、金髪の中背の女性と区別するのに3週間以上もかかったそうです。
カバや牛や馬などの生まれてすぐに歩けるようになる早成種では、後追い行動や拒否行動によって刷り込みを確認することができます。
では、犬やネコやヒトといった歩けるようになるまでに日数のかかる晩成種はどうでしょうか?
晩成種は歩けるようになるのに時間がかかるので、刷り込みの特徴である後追い行動が観察できません。
晩成種は刷り込みをおこなっているのでしょうか?
我が家での事です。
夏に子ネコが生まれました。
出産後3時間ほどで、母ネコがダンボールで作った巣箱から出て水を飲みにいきました。
私は子ネコが何匹生まれたのか見ようと、入り口の穴から覗き込みました。
すると、手前にいた2匹の子ネコが怒ったのです。
まだ歯ははえていないのですが、口を開けて牙をむき出すしぐさをしました。
まだ目は開いていないので、私の匂いにたいして拒否反応を示したはずです。
これは、カバの赤ちゃんと同じです。
すでに母ネコの匂いを刷り込んでいるので、その匂いと異なる私の匂いにたいして、拒否反応が現われたと考えられます。
それから1年ほど経って、また出産後3時間ほどで母ネコが巣箱から出ていきました。
そこで、今度は実験をしました。
子ネコを1匹、巣箱の入り口から10センチほどのところに出しました。
すると、はじめに1回「ミャー」と小さな声で泣いて、途中でもう1回泣いて、30秒ほどで巣箱へ戻りました。
つづいて、もう1匹出しました。
この子ネコは1回も泣かないで、やはり30秒ほどで巣箱に戻りました。
さらに、もう1匹出しました。
ちょっと経ってから小さな声で泣いて、巣箱を探しているとひっくり返ってしまい、今度は「ミャー!ミャー!」と大声で泣き出しました。
すると、母ネコが急いで戻ってきて、子ネコをくわえて巣箱に連れ帰りました。
実験は7〜8分で終わりました。
まだ目が開いていない子ネコが巣箱へ戻ったのは、匂いを嗅いで戻ったはずです。
母ネコがいなくても、巣の中は母ネコの匂いで充満しています。
その巣へ、時間はかかりましたが戻りました。
巣へ戻ったというのは、母ネコの匂いへの後追い行動だと解釈できます。
また、外へ出したら小さな声で泣きましたが、これは軽い分離抵抗があったということを示しています。
子ネコは、出産後3時間で匂いによる人見知りや、母親の匂いにたいしての後追い行動や、軽い分離抵抗がうまれていました。
こういった現象は子ネコが刷り込みを行っていることを示しています。
哺乳類の晩成種は、母親への後追い行動では刷り込みを確認できません。
しかし、人見知りや、匂いへの後追い行動や、軽い分離抵抗が現われることによって刷り込みを確認することができました。
ではヒトはどうでしょうか?
マスクをかけた看護師さんに育てられていた未熟児が、面会に来たお母さんの顔を見て泣いたそうです。
そこで、お母さんにもマスクをつけてもらうと、赤ちゃんは泣きやんだそうです。(人見知り)
この例をあげて小西先生はヒトの刷り込みを認めています。(小西行郎著『赤ちゃんと脳科学』)
また、生まれてすぐからお母さんに抱かれていた新生児は、生まれて1時間も経たないのにお母さんからちょっと離されただけで泣くそうです。
(分離不安)(大野明子著『分娩台よ、さようなら』)
ヒトの赤ちゃんにも、人見知りや分離不安が報告されています。
これはヒトの赤ちゃんも刷り込みを行っていることを示唆しています。
高等な種ほど、刷り込みによってうまれる脳の機能が多いという刷り込みの原則を考慮すると
ヒトは最も高等な種なので、ヒトこそ刷り込みによって最も多くの脳の機能が生まれると推測できます。
鳥類の刷り込みは有名ですが、実際は、ヒトこそ刷り込みの影響を最も多く受けている種だと推測しています。
4.自閉症の原因
ヒトという種も刷り込みを行っているというのは間違いありません。
したがって、自閉症の原因は刷り込みの障害だと考えることができます。
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