自閉症の新しい理論

白石 勧

現在、自閉症はカナータイプで1000人に3人、軽度も含めると100人に1人と言われています。
もっとも発症率が高い障害です。
それにもかかわらず、原因がまったく解っていません。

療育論も確立していません。
原因を解明し、療育論を確立し、予防法を見いだすことが現代の急務です。

自閉症の新しい理論を提出しました。
ぜひ検討してください。

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新自閉症論

1章 自閉症の原因(1)
   先天的な障害?
   反対する根拠
   母子分離
   母親への愛
   刷り込みと自閉症

2章 刷り込み
   鳥類の刷り込み
   哺乳類の刷り込み
   ヒトの刷り込み

3章 刷り込みの機能
   刷り込みの機能
   刷り込みと共鳴
   恐怖感
   自閉症のタイプ

4章 自閉症の症状
   診断基準
   テリトリー意識
   感覚障害
   集中
   認知障害
   その他

5章 言葉の障害とこだわり
   言葉の障害
   同一性のこだわり

6章 恐怖症の治療
   恐怖症の治療の原則
   単一恐怖症
   同一性のこだわり
   行動療法の誤解
   自傷の治療
   多動の治療

7章 自閉症の原因(2)
   新生児室と育児論
   抱いてあやす
   新生児の眠り
   不快感
   恐怖感
   蛍光灯
   感覚遮断
   怒りとあきらめ
   誤刷り込み
   男女の違い
   匂いの刷り込み
   臨界期

8章 自閉症予防の4ヶ条
   1.母子同床
   2.照明を落とす
   3.蛍光灯の問題
   4.ヒトの顔


学会発表

自閉症の原因(2)(new)
(2009年自閉症スペクトラム学会)
刷り込みと自閉症(new)
(2009年発達心理学会)
自閉症の原因
(2008年発達心理学会)
自閉症と刷り込み
(2007年発達心理学会)
愛の起源
(2006年教育哲学会)


自閉症関連

お勧めのホームページと本

療育相談
療育の相談をはじめました。


その他

愛の構造(精神構造論仮説)
Structures of Trust
自己紹介

『精神構造論仮説と育児論』
自閉症の研究を始める前に出版した私の本です。


更新履歴

・2010.01.29
刷り込みと自閉症(2009年発達心理学会)を追加

・2010.01.28
自閉症の原因(2)(2009年自閉症スペクトラム学会)を追加

・2010.01.25
6章 恐怖症の治療
を書き直しました。

・2009.05.05
お勧めのホームページと本にエルベテークを追加


意見や感想など、こちらまで メール ください。

リンクフリーです。


1.自閉症の原因

早期発症タイプの赤ちゃんは、母親と目を合わせなかったり、母親に抱かれたがらなかったり、母親の後を追わなかったりします。
なぜ、定型の赤ちゃんのような母子関係がうまれていないのでしょうか?

はじめは、母親の冷蔵庫のような冷たい性格が、母子関係がうまれていない原因で、自閉症の原因だと解釈されました。

しかしその後
同じように育てられた他の兄弟が健常に育っていることや
二卵生双生児よりも一卵性双生児の一致率がはるかに高いといったことなどから
遺伝子が原因だと考えられるようになりました。

それから40年以上、世界中で脳と遺伝子の研究が行われてきました。

しかし、いまだに原因が解明されていません。
本当に遺伝子が原因なのでしょうか?

(インフルエンザでも、一卵性双生児と二卵生双生児の統計をとれば、一卵性双生児のほうが一致率が高いという数字がでるはずです。しかし、インフルエンザの原因は、遺伝ではなくウイルスです。)


2.自閉症の発症率

自閉症の原因が遺伝子なら、今も昔も発症率はほとんど変わらないはずです。

しかし、1950年ごろの日本には自閉症の子どもはほとんどいませんでした。
そのことを裏付ける資料があります。

日本自閉症協会会長の石井哲夫は、1950年に大学を卒業して児童相談室に勤めました。そのとき、15名ほどの知的障害児の教育に携わったそうですが、その中に自閉症の子どもは1人もいなかったそうです。自閉症の子どもは、その後ぼちぼち来るようになったということです。(石井哲夫著、『自閉症児がふえている』)

15名ほどの知的障害児の中に、自閉症の子どもは1人もいませんでした。
自閉症協会の会長が書いていることなので、疑う余地はありません。

近江学園は、1946年に戦災孤児60名と知的障害児50名の定員の施設として開設されました。
自閉症の子どもがはじめて来たのは1955年だったそうです。(糸賀一雄著、『この子らを世の光に』)

糸賀一雄氏も障害児の専門家です。
自閉症の子どもがはじめて来たのは1955年だった、という記述は信頼に足るものです。
それまでの10年間、知的障害児のなかに自閉症の子どもは1人もいませんでした。

1950年ごろの日本では、65名の知的障害児のなかに(児童相談室15名+近江学園50名)、自閉症の子どもは1人もいませんでした。

現在は、知的障害養護学校の30〜40%が自閉症です。
(『自閉症スペクトラム児・者の理解と支援』)

これは、自閉症の原因は遺伝子ではないということを示しています。

自閉症の原因は、母親の育て方でもなく、遺伝子でもありません。
では、自閉症の原因は何なのでしょうか?


3.母親への愛

定型の赤ちゃんの場合、母親への愛は、いつごろ、どのようにしてうまれるのでしょうか?

定型の赤ちゃんは、生後6ヶ月から9ヶ月ごろ、人見知りをするようになり、母子分離の抵抗が激しくなります。
この頃に、母親と見知らぬ人と識別できるようになり、母親への愛がうまれると解釈されています。
しかし、これは誤解です。

生後6ヶ月から9ヶ月ごろ、人見知りがはじまるのも、母子分離の抵抗が激しくなるのも、この頃に、恐怖感がうまれるからです。
恐怖感がうまれる前は、見知らぬ人も恐くないし、母子分離にもそれほど抵抗しません。

赤ちゃんは、生後2日目には、自分の母親とほかの母親と、識別ができます。

生後2日目の赤ちゃんが (母子同床であれば)、匂いでも声でも顔でも、自分の母親とほかの母親と識別し、自分の母親の方を向くということが実験で解っています。

母親と見知らぬ人と識別できるようになるのに、6ヶ月以上もかかるという解釈が間違っているのはあきらかです。

生後2日目には、匂いでも声でも顔でも自分の母親の方を向くということは、母親を識別しているだけではなく、母親を好きになっているということを示しています。

日本でただ一人自宅出産をおこなっている産婦人科医の大野明子先生が、新生児に現われる分離不安(新生児分離不安)を報告しています。

(出産直後から母親に1時間ほど抱かれていた赤ちゃんは)体重を測り、洋服を着せるだけの間の、ごくわずかな時間、お母さんからほんの少し、30センチほど離れただけなのに、さっきまで静かだった赤ちゃんが泣いたりします。お母さんにもう一度抱っこされると、すぐ泣きやみます。生まれたときから赤ちゃんは、お母さんがこんなに好きです。(『分娩台よ、さようなら』、261ページ)

赤ちゃんは生まれてすぐからお母さんのことが好きです。

これほど早く母親への愛がうまれるというのは、鳥類の刷り込みと同じです。
ヒトの赤ちゃんも、母親への愛は刷り込みによってうまれるのではないでしょうか?
(詳しくは、愛の起源を参照ください。)


4.動物モデル

刷り込みで有名な動物行動学者のローレンツの本を読みました。
すると、次のような記述が出てきました。

ハイイロガンのヒナを隔離飼育することによって、すべての刷り込み過程を可能なかぎり妨げると、臆病で、一緒に行動をしようとはしないハイイロガンになる。そのような障害をもった二羽のハイイロガンを飼育用の囲い地に一緒にしておくと、しばしば向かい合った二つの隅にできるだけお互いに遠く離れて座るようになる。同種の仲間に対する彼らの反応は奇妙にメチャクチャである。この障害の現われ方は、人間において「自閉児」と記載されているものに似ている。(『ハイイロガンの動物行動学』、145ページ)

ハイイロガンのヒナが、刷り込みを妨げられたときに現われる障害は自閉症と似ていました。

ハイイロガンは、夫婦で子育てをし、家族や仲間と群れを作って行動をともにします。
夫婦や家族や仲間との関係といった社会性はヒトと良く似ているそうです。

ところが、刷り込みを妨げられた2羽のハイイロガンを一緒に囲いに入れると、行動をともにするどころか、できるだけ遠く離れて坐りました。
行動をともにするはずの、同種の仲間でさえ怖がって避けました。

また、仲間に対しての反応は奇妙にメチャクチャで、激しい攻撃行動で突進してきているオスを、求愛と勘違いしたメスがいたそうです。

通常なら、動物は同種の感情を間違いなく読みとるそうです。
しかし、刷り込みを妨げられたハイイロガンは同種の感情を読み間違えました。


5.ヒトの刷り込み

ローレンツが刷り込みという現象を発表すると、多くの学者がヒトも刷り込みをおこなっているかどうか、新生児を観察しました。

しかし、刷り込みのような現象は観察できませんでした。
それ以来、ヒトは刷り込みをおこなっていないと考えられてきました。

ところが最近になって、分娩室をうす暗くすると、生まれたばかりの赤ちゃんが1時間ほど母親の顔を一心に見つめるという、新生児覚醒状態という現象が知られるようになりました。

顔を一心に見つめるというのは、ハイイロガンのヒナがローレンツを刷り込んだときと同じです。

現在は、小児科の重鎮である小林登先生
赤ちゃん学会の理事長の小西行郎先生
カンガルー抱っこを日本に最初に導入した周産期医療の堀内勁(たけし)先生など
赤ちゃんに詳しい先生方が、ヒトの刷り込みを認めています。

小西先生は、マスクをかけた看護師さんに育てられた未熟児が母親の顔を見て泣いた、という現象を報告しています。
お母さんにもマスクをしてもらったら、泣かなくなったそうです。
新生児人見知り

マスクをかけた看護師さんの顔を刷り込んでいたので、マスクをしていない母親の顔に拒否反応を示した、と小西先生は解釈しています。(『赤ちゃんと脳科学』)

新生児人見知りや新生児分離不安は、赤ちゃんが刷り込みをおこなっていることを示しています。
(詳しくは、2章刷り込みを参照ください。)

ただし、3人の先生は、ヒトの刷り込みは大きな意味を持っていない、と解釈しています。
刷り込みによって脳の機能がうまれるということを考慮していません。


6.脳の機能

自閉症は、先天的な脳の機能障害だと考えられています。
しかし、脳の機能はいつどうやってうまれるのでしょうか?
先天的に脳に組み込まれているのでしょうか?

ほとんどの鳥類は刷り込みによって親や自分が属する種(仲間)が決まります。
親や仲間の図式が先天的に脳に組み込まれているのは、一部の原始的な種に限られます。

刷り込みは恋愛にもかかわっています。
ローレンツが育てたコクマルガラス嬢は、となりの少女に恋をしました。
人に育てられた丹頂鶴も、人にディスプレイをして繁殖ができませんでした。
しかし、ローレンツを刷り込んだハイイロガンは、ハイイロガンに恋をして繁殖することができました。

恋愛の対象となる種が、刷り込みによって決まるか、先天的に脳に組み込まれているかは、種によって異なります。

脳の機能は、高等な種ほど刷り込みによってうまれる比率が高く、原始的な種ほど先天的に組み込まれている比率が高くなります。

ヒトは最も高等な種です。
脳の機能は刷り込みによってうまれる比率が最も高いはずです。

鳥類の場合の刷り込みによってうまれる脳の機能をまとめました。

○親への後追い行動がうまれる。(親への信頼がうまれ、そばにいるだけで安心がうまれます)
○自分が属する種(仲間)が決まる。(刷り込みは親を特定するだけではなく種を特定します)
○刷り込んだ種への共感能力がうまれる。
○鳴き声の習得にかかわる。
○恋愛(繁殖)にかかわる。

自閉症の原因を刷り込みの障害だと解釈すると、症状を理論的に説明できるようになります。
(詳しくは、 4章自閉症の症状を参照ください。)


7.恐怖

刷り込みによって様々な脳の機能がうまれます。

なかでも代表的なのが、「母親のそばにいると安心がうまれる」、という脳の機能です。
母親のそばにいると安心がうまれるので、定型の赤ちゃんは、母親の後を追うようになります。

早期発症タイプの自閉症の赤ちゃんが母親の後を追わないのは、この機能がうまれていないからです。
お母さんは、赤ちゃんがなつかないので、寂しい思いをし、悲しい思いをします。

ところが、自閉症の赤ちゃんの方はそれどころではありません。
お母さんのそばにいても安心がうまれないので、いつも恐怖でいっぱいです。

母のいる地球という星に生まれてきたのではなく、未知の生物に取り囲まれた未知の星に生まれてきたようなものです。

まわりは恐いものだらけです。
自閉症の赤ちゃんは、恐怖の世界をたったひとりで生きています。

母親のそばにいても安心がうまれないので、物事の規則性で安心をえようとしたり、物事が同じであること(同一性)によって安心をえようとします。

規則性へのこだわりは、有用な物事にむかえば、学業や将来の職業にも役立つので、治療すべき症状とはいえません。
(ただし、全般的な学習の妨げになることがあります。)

同じ道しか歩かないとか、同じ物しか食べないといった同一性へのこだわりは、日常の生活のさまげになるだけではなく、新しいことを学ぶといった学習のさまたげになります。

同一性へのこだわりは、その根底に、変化への恐れや新しいことへの恐れをともなっているので、一種の恐怖症です。
自閉症の子どもは、同一性へのこだわり以外にも、掃除機や三輪車を恐がるなど、多くの恐怖症を抱えています。

恐怖症の治療の原則は、早期発見、早期治療です。
恐怖症の治療は難しくはありません。
子どもが大きくなると大変ですが、子どもが小さいうちは簡単です。

自閉症の子どもには恐怖症の治療が必要不可欠です。
恐怖症が発達のブレーキになっているので、ブレーキを外す必要があります。
また、恐怖症を治療すると、さまざまなトラブルが減ります。

自閉症の子どもの療育には、恐怖症の治療とABAなどの早期教育という両輪が必要です。
(詳しくは、6章恐怖症の治療を参照ください。)


8.自閉症スペクトラム

ガチョウの場合、刷り込みの臨界期は孵化後の36時間ほどだそうです。
しかし、18時間を過ぎて刷り込んだ場合、刷り込みが不十分になり、よそよそしさが残るそうです。

また、孵化する直前に母鳥の鳴き声を聞いていたヒナが、孵化してから人を刷り込んでも、人の刷り込みが不十分になるそうです。

刷り込みは、出来たか出来なかったかという二者択一ではありません。
刷り込みが遅れた場合、他の学習が先行した場合、刷り込みが出来ていても不十分になります。
この不十分な刷り込みという連続性が、自閉症スペクトラムという連続性に対応します。

アスペルガー症候群の子どもは、言葉の模倣に大きな問題はありません。
人の声の刷り込みという聴覚の刷り込みは出来ています。
しかし、恐怖感が強く、共感能力に障害があります。
母親の顔の刷り込みという視覚の刷り込みに障害があったと考えます。

高機能自閉症の子どもは、言葉や身辺自立にそれほど問題はありません。
言葉や動作を模倣する能力があります。
恐怖感もそれほど強くはありません。
しかし、共感能力に障害があるので友人関係に問題がうまれます。
これは、刷り込みが不十分だということを示しています。

(共感というのは、目の前で人が転んだのを見て自分が転んだかのように感じたり、梅干を食べている人を見て自分が梅干を食べているかのように身体が反応するという、脳の機能です。)

折れ線型という、途中で発達が後退するタイプがあります。
後退する原因は恐怖症の発症だと考えています。

詳しくは、 3章刷り込みの機能をご覧下さい。


9.自閉症の予防

刷り込みに一番重要なのは、出産直後の赤ちゃんが眠るまでの、新生児覚醒状態と呼ばれる約2時間です。
次に重要なのは、出産後の18時間です。

自閉症の予防には、出産後の18時間の環境を整えるだけでよいのです。


◎出産後の18時間は母子同床にする

哺乳類の出産は母子同床が自然の姿です。

戦後、出産の介助者が産婆さんから医師へと変わり、家庭での出産から、病院での出産になり、生まれたばかりの赤ちゃんが新生児室に隔離されるようになりました。

感染症の予防のために、新生児室に隔離するという理論でした。
そうやって、出産直後の母子同床という自然の摂理が無視されるようになりました。

現代では、新生児を隔離する医学的根拠はないということが解っています。
赤ちゃんを隔離するよりも、母親の健全な菌をなるべく早く赤ちゃんに移住させる方が良いと考えられています。


◎分娩室の照明を落とす

出産直後の、新生児覚醒状態と呼ばれている2時間の間に、お母さんが、赤ちゃんを抱いて、見つめ合い、話しかけるだけで、刷り込みには十分なはずです。

そして、「アーン」と口を開けるまねっこゲームをして遊べば、刷り込みが行われたことの確認になります。

現代の分娩室の照明はとても明るいです。
暗い胎内から出てきた赤ちゃんは、まぶしくて、お母さんの目を見つめていられません。

また、生まれたばかりの赤ちゃんの記念写真を、フラッシュを使って撮るのは危険です。
まばゆい閃光は、赤ちゃんには衝撃が強すぎて、しばらくは目を開けられなくなります。


◎赤ちゃんのいる部屋の照明を落とす

現代の病院は、母子が一緒にすごす部屋も赤ちゃんには明るすぎます。

薄暗い病院は大人には嫌われます。
明るい病院の方が好感を持たれます。

赤ちゃんは生まれて3日間ほどは明るさをとても嫌がります。
ほとんどの新生児の写真は不機嫌そうに眉間にしわをよせています。

しかし、薄暗い部屋で撮った写真は、新生児がまん丸の目を開けています。
大人は明るいほうがよく見えますが、新生児はうす暗いほうがよく見えます。


このような、すぐにでもできるちょっとした配慮で、自閉症を予防できると考えています。
ぜひ検討して下さい。
(詳しくは、8章自閉症予防の4ヶ条を参照ください。)


10.お願い

最後まで読んでいただきありがとうございました。
少し長いですが、新自閉症論に目を通していただければ幸いです。

自閉症の解明は現代の急務です。
この理論に賛同していただけたなら、この理論の普及にお力をお貸しください。
よろしくお願いいたします。

2004.11.20〜  更新日  2010.02.09                    次のページへ