ある日、神様は天使に、一人の死にそうな女の魂を天国に連れて来るよう命じ
ます。しかし、その女は生まれたばかりの双子の女の子を抱えており、しかも
夫は死んでいました。今自分が死ぬと誰もこの子たちを育てる者がいないので、
天使に魂を取らないでと嘆願します。天使はかわいそうになって魂をとらずに
天国に帰ってしまいます。すると、神様は怒り、その天使に、次の3つの言葉
の意味が分かるまで天に帰ってくるなと言います。
「人の中には何があるか。」
「人には何が与えられていないか。」
「人は何によって生きるか。」
女の魂は神様の所に行ってしまい、天使は翼が取れて地面に落ちてしまいまし
た。天使は冬の寒い中、裸で凍え、飢え、死ぬ寸前でした。そこに、貧しい靴
屋がそばを通りかかります。通り過ぎようとしましたが、かわいそうになり、
靴屋はこの男にコートを着せて、自分の家に連れ帰りました。靴屋の妻は、食
うや食わずの生活の中、夫が見ず知らずの男を連れてきて、初めは怒っていま
したがやがて気を取り直して、男をもてなします。天使は、この夫妻に神様が
宿っているのを見て取り、最初の言葉の意味がわかります。
「人の中に愛がある」
天使はそれから靴屋の家に住み込んで働いていました。1年経ったある日、地
主の男が来て、1年たってもゆがまず、破れない長靴を依頼しに来ました。し
かし、その男の背後には仲間の天使がいて、今晩にも魂が召されることが天使
にわかりましたが、人にはそのことがわからないのです。そして、天使は2つ
めの言葉の意味がわかりました。
「人には自分には何が必要なのか知る力が与えられていない」
6年目に双子の女の子が一人の女とともにやった来ました。その女の子たちは
6年前に死んだ、あの女の子供たちだったのです。近所の女が、その女の子を
引き取り育てていたのです。そして、その女が他人の子供を見ながら胸いっぱ
いになって、涙をこぼしたとき、天使はその女の中に生きた神を見つけて、最
後の言葉の意味を理解しました。
「人はだれでも自分自身のことを思いわずらうことによってではなく、愛によ
って生きる。」
「死んだ母親は自分の子供たちにはなにが必要なのかを知る力が与えられてい
なかった。金持ちは長靴がもう必要ないことを知ることができなかった。人間
にされた自分が生き残ることができたのは自分で自分のことを考えたからでな
く、通りすがりの人とその妻に愛があったからだ。みなしごが生き残ったのは、
その子たちのことを考えたからでなく、他人の女の心に愛があって、女の子た
ちをあわれんだからだ。どんな人でも、生きているのは、自分で自分のことを
考えるからでなく、人々の中に愛があるからなのだ。神は人間がはなればなれ
で生きることを望んでおられない。だから、一人一人の人間が自分のためには
なにが必要なのかを、神は人間に教えてくださらなかった。神が望んでおられ
るのは、人間が一緒に生きることだ。人間が生きているのは、自分のことに心
を配っているからだというのは、ただ人間がそう思い込んでいるだけに過ぎな
い。人間はただ愛によってのみ生きるのだ。愛の中にいるものは、神の中にお
り、神がその中にいる。なぜなら、神は愛に他ならないからだ。」
天使はそういいながら天にのぼっていきました。
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