交差並行法(カイアズマス)

「そしてユダヤ人はニーファイ人の言葉を得て、ニーファイ人はユダヤ人
の言葉を得る。また、ニーファイ人とユダヤ人は、イスラエルの行方の知
れない部族の言葉を得て、イスラエルの行方の知れない部族は、ニーファ
イ人とユダヤ人の言葉を得る。」(2ニーファイ29:13)


交差並行法とは、旧約聖書やモルモン書の中で使用されている文学的な技 法です。文の言葉の並びがA−>B−>C... ...C−>B−>Aと進ん でいく形式です。これはカイアズマスと呼ばれています。chiasmus の最 初の chi は X という文字に対応するものです。この表現形式において並 行する行がちょうどXの形に交差して配列されています。 例) 2ニーファイ29:13 A) the Jews ユダヤ人は B) shall have the words 言葉を得る C) of the Nephites, ニーファイ人の C) and the Nephites ニーファイ人は B) shall have the words of 言葉を得る A) the Jews; ユダヤ人の A) and the Nephites and the Jews ニーファイ人とユダヤ人は B) shall have the words 言葉を得る C) of the lost tribes of Israel; イスラエルの行方の知れない部族の C) and the lost tribes of Israel イスラエルの行方の知れない部族は B) shall have the words of 言葉を得る A) the Nephites and the Jews. ニーファイ人とユダヤ人の 創世記7:21−23 A) There died on the earth 地の上のものは死んだ B) all birds, 全ての鳥 C) cattle, 家畜 D) beasts and creeping things 獣と這うもの E) man ; 人 F) all life 全ての生き物 G) died 死んだ G) and was destroyed. そして滅ぼされた F) Every living thing 全ての生き物 E) both man, 人の D) creeping things, 這うもの C) cattle, 家畜 B) birds, 鳥 A) were destroyed from the earth. みな地の上から拭い去られた 『モルモン書』では多くの箇所で交差並行法が用いられています。とくに アルマ書の36章では、章全体に交差並行法が用いられています。 (a)My son, give ear to my WORDS (1) わが子よ、わたしの言葉に耳を傾けなさい。 (b)KEEP THE COMMANDMENTS of God and ye shall PROSPER IN THE LAND (1) あなたは神の戒めを守るかぎり地に栄えるであろう。 (c)DO AS I HAVE DONE (2) あなたはわたしと同じように、 (d) in REMEMBERING THE CAPTIVITY of our fathers (2); わたしたちの先祖が囚われの身にあったことを思い起こしてもらいたい。 (e) for they were in BONDAGE (2) わたしたちの先祖は奴隷の状態にあり、 (f) he surely did DELIVER them (2) 神は、確かに苦難の中にいる彼らを救い出された。 (g) TRUST in God (3) 神に頼る者はだれであろうと、 (h) supported in their TRIALS, and TROUBLES, and AFFLICTIONS (3) 試練や災難や苦難の中にあって支えられ、 (i) shall be lifted up at the LAST DAY (3) 終わりの日に高く上げられる (j) I KNOW this not of myself but of GOD (4) わたしがそれを自分独りで知ったと思ってもらいたくない。 神から知らされたのである。 (k) BORN OF GOD (5) わたしは神から生まれていなかったならば、 (l) I sought to destroy the church of God (6-9) わたしはかつて神の教会を滅ぼそうとしていた。 (m) MY LIMBS were paralyzed (10) 手足を動かすこともできなかった。 (n) Fear of being in the PRESENCE OF GOD (14-15) 神の御前に行くことを考えるだけで、わたしは言いようのない恐怖に責めさいなまれた。 (o) PAINS of a damned soul (16) わたしはまさに罰の定めを受けた者の苦痛に責めさいなまれた。 (p) HARROWED UP BY THE MEMORY OF SINS (17) わたしは自分の多くの罪を思い出してひどく苦しみ (q) I remembered JESUS CHRIST, SON OF GOD (17) かつて父がイエス・キリストという御方の来臨について民に預言するのを聞いたこと を思い出した。イエス・キリストは神の御子であり、世の罪を贖うために来られると いうのである。 (q) I cried, JESUS, SON OF GOD (18) わたしは心の中で、『おお、神の御子イエスよ、苦汁の中におり、永遠の死の鎖に縛 られているわたしを憐れんでください』と叫んだ。 (p) HARROWED UP BY THE MEMORY OF SINS no more (19) わたしは二度と罪を思い出して苦しむことがなくなった。 (o) Joy as exceeding as was the PAIN (20) わたしは前に感じた苦痛に勝るほどの喜びに満たされたのである。 (n) Long to be in the PRESENCE OF GOD (22) わたしも神が御座に着き、・・・わたしはそこに行きたいと切に望んだ。 (m) My LIMBS received their strength again (23) わたしの手足は再び力を取り戻した。 (l) I labored to bring souls to repentance (24) わたしは絶えず働き続け、人々を悔い改めに導き、 (k) BORN OF GOD (26) 多くの人が神から生まれ、 (j) Therefore MY KNOWLEDGE IS OF GOD (26) わたしが今知っていることは、神から出たものである。 (h) Supported under TRIALS, TROUBLES, and AFFLICTIONS (27) わたしは、あらゆる試練と災難の下で、またあらゆる苦難の中で支えられてきた。 (g) TRUST in him (27) わたしは神を信頼している。 (f) He will deliver me (27) 神はこれからもわたしを救い出してくださるであろう。 (i) and RAISE ME UP AT THE LAST DAY (28) 神が終わりの日にわたしをよみがえらせ、 (e) As God brought our fathers out of BONDAGE and captivity (28-29) 神は、何度も奴隷と束縛の状態から先祖を救い出してくださった。 (d) Retain in REMEMBRANCE THEIR CAPTIVITY (28-29) わたしは先祖が囚われの身にあったことをいつも思い起こすようにしてきた。 (c) KNOW AS I DO KNOW (30) わたしが知っているように、あなたも知らなければならない。 (b) KEEP THE COMMANDMENTS and ye shall PROSPER IN THE LAND (30) 神の戒めを守るかぎり地に栄える (a) This is according to his WORD (30). これは神の御言葉による。 聖書の記述形式に交差並行法が用いられているのが発見されたのは20世 紀に入ってからでした。(注参照) この交差並行法は19世紀に翻訳されたモルモン書にも多く用いられてい ます。このことは、モルモン書がジョセフ・スミスの創作ではなく、聖書 と同じ時代の人物が書いたということを証明しています。 注)1942年、ニールス・ルンド(Nils W. Lund)によって、 「新約聖書の交差並行法」(Chiasmus in the New Testament)が出版された。 参考 Chiasmus in the Book of Mormon

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