単語家族 説明

「単語家族」は藤堂明保氏の漢字の語源に関する説である。

藤堂明保氏は、漢字の語源の探求において、これまでの字形の違いから共通する意味を導きだそうとする伝統的な手法ではなく、字音を重視して、字形が異なっていても字音が同じであれば意味の関連性があると考える「単語家族説」を提唱した。

この説では、漢字の発生において、同じ意味を表す別々の字が生まれたとする。

たとえば、「服」という字と「伏」という字は、全く同じことば「フク」(ピタリとひっつく)ということばをあらわすために生まれた。このことばをあらわすために、ある人は「服」という字をつくり、他の人は「伏」という字をつくった。

他の例をあげると「フ」(平らにしきのべる)ということばをあらわすために、ある人は「布」という字をつくり、もう一人は「普」という字をつくり、またある人は「敷」という字をつくった。字形が違っても、これらの漢字があらわす基本的な意味は同じである。

(藤堂氏は、「単語家族説」の発想に基づいて、日本の漢字改革についても発言し、発音と意味の一部を同じくする漢字を統合することにより、字数を削減できると主張した。例えば、「公布」「普通」「敷設」という熟語は、その中でいちばんやさしい「布」という字に統一し、「公布」「布通」「布設」と書く。)

一方、一つの音を持つ字から意味が派生して、多くの字が作られた。この場合は、元の音を表す字と意味の区別を表す字をくっつけて新しい字を作る。例えば、「青(セイ)」は「すみきった、きよらか」という意味をあらわす文字である。この「青(セイ)」をもとに、すみきった水は「青」と「水」をあわせて「清」、きれいな米は「青」と「米」をあわせて「精」、すみきった空は「青」と「日」をあわせて「晴」が作られた。どの漢字も音はセイであり、意味の関連がある。

このようにしてできた、音と意味の関連性がある漢字のグループを「単語家族」と言う。

しかし、「工(コウ)」と「紅(コウ)」のように、字の形と音が共通のものでも、単語家族ではないものもある。「工」は「穴、突き通る」の意味があるが、「紅」にはその意味は無い。べに色の糸を「コウ」と言っていたが、それに当たる字がなかったので、同じ音の「工」を借りてきて、「工」と区別するために、「糸」を付けて字を造ったわけである。

具体的な内容は、単語家族の漢字編のページにまとめた。各グループの頭に付けた数字は「漢字語源辞典」でのグループ番号である。その横のローマ字は古代音を表している。

対象とした常用漢字の中には、漢字語源辞典に記載されていないものがある。その字は、「漢字源」を参照した。「漢字源」に記載されている単語家族を元に作ったグループには頭にAを付けている。

古代音については、サイト作成当時のパソコン環境では、文字コードにシフトJISしか使えなかったので、使える文字で代用表記をしている。1グループに複数の古代音の表記があるものについては、記載スペースの都合上、代表的なものを一つのみ記載した。



実は、単語家族は、漢字だけに見られるものではない。古来からある日本語=和語にも見られるのである。

たとえば、人間の顔の部分である「目」「鼻」「歯」「耳」「頬」と、植物の部分である「芽」「花」「葉」「実」「穂」とは、「め」「はな」「は」「み」「ほ」という音が共通している。これらは語源が共通で、関連した意味を持っている。「目」と「芽」は、「開いて現れる物」、「鼻」と「花」は、「突き出ている物」、「歯」と「葉」は「生え出た物」、「耳」と「実」は「中身のある物」、「頬」と「穂」は「ふくらんだ物」である。「みみ」と「ほほ」が音が2回重なるのは、2つ付いているからである。

その他の、具体的な内容は、単語家族の和語編のページを用意したので、こちらを見てほしい。



古代日本語音の甲類と乙類について

古代日本語には母音が8つあったという。i,e,oの音がそれぞれ2種類あった。これらは、甲類と乙類という言葉で区別している。

「かみ(神)」の「み」は乙類で、「かみ(上)」の「み」は甲類である。よ(世)は乙類で、よ(夜)は甲類である。ひ(火)は乙類で、ひ(日)は甲類である。

これらは音が違うので、同じ単語家族には入れられないという説もある。しかし、「め(目)」が「ま」になったり(まぶた、まなこ等)、「て(手)」が「た」になったり(たむける、たぐる等)と、容易に母音が入れ替わることが多い。だから、甲類の音と乙類の音も入れ替わることもあったに違いない。

だから、単語家族の和語編のページでは、甲類、乙類の違いがあっても、意味の関連性が見られる場合、同じ単語家族にいれている。



漢字の音読と訓読について

音読は、漢字が日本に伝わった時期の中国での発音に似せた音である。
訓読は、その漢字に当たる、日本語(和語)を、その漢字の読みとしたものである。
音読みには、漢音、呉音、唐音がある。これは、日本に伝来したルートと時代によって、違いが出たものである。
漢音は唐代、長安で用いた標準的な発音を写したもので、奈良時代・平安初期に伝来した。
呉音は中国の南方系の発音を写したもので、漢音より前に伝来した。
唐音は宋・元・明・清の時代の中国江南地方の発音を写したものである。
たとえば、「行」の漢音は「コウ」、呉音は「ギョウ」、唐音は「アン」、訓読は「いく」「おこなう」である。

訓読の中には、古来の日本語(和語)ではなく、実は音読が転じたものや、外国語が転じたものがある。
銭(ぜに)は銭(セン)の音が転じたものだし、品(しな)は品(ヒン)の音が転じたものである。
寺(てら)や尼(あま)は古代インド語の音から転じたものである。
これらは、「単語家族 和語編 未分類」のページにまとめた。

漢字の訓読があるのは日本だけである。かつて、漢字を用いていた朝鮮・韓国やベトナムでは音読しかなかった。
これらの国では、漢字語は外国語のイメージだそうである。結局、自国語に完全に取り込むことができず、今では、漢字を捨ててしまってる。
日本は漢字の訓読という珍しい仕組みを作ったことで、漢字を日本語の中に完全に取り込むことができたのである。



国字、国訓、幽霊文字は、中国で発生した音と意味の系統には入らないので、漢字編ではなく、別に国字編のページを設けて、そこに入れた。

国字とは、漢字に似せて日本で作られた字のことである。

国訓とは、中国に元からある字の意味とは別の意味を日本で与えたものである。

国訓が発生した理由には、次のものが考えられる。
・日本で作った字と同じ形の字が、じつは、中国にもあった。
 例)吋はインチを表す字で、寸の約3cmとインチの約2.5cmが近いため、寸に口を合わせて作られた字であるが、中国には「しかる声」という意味ですでにあった字。
・ある漢字の意味を勘違いして、訓を当てた。
 例)鮪の原義はチョウザメだが、日本にはいないため、大きな魚という情報からマグロに当てた。
・元々の意味が、発展して別の意味になった。
 例)蛸の元の意味は、アシタカクモ。クモのような8本足のたこを「海蛸子」と書いたが、蛸だけでも「たこ」の意に使われるようになった。
・すでにある漢字を利用して音に当てた。
 例)「米」を「メートル」や「アメリカ」に当てた。

幽霊文字とは、JIS規格の漢字の内、漢字辞典に載っていない字のことである。それは、人名・地名にしか使われない字や、JISに収録の時、誤って写された字である。



参考文献

  漢字編
    「漢字源」 藤堂明保編 学習研究社
    「漢字語源辞典」 藤堂明保著 學燈社

  和語編
    「ひらがなでよめばわかる日本語」 中西進著 新潮文庫
    「岩波 古語辞典」 大野晋編 岩波書店
    「日本語の語源辞典」 西垣幸夫著 文芸社
    「大言海」 大槻文彦著 冨山房


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