冠詞

エスペラントには不定冠詞(英語のa)はありません。
定冠詞 la(英語のthe)のみがあります。

エスペラントでは、冠詞の使用は強制ではありません。

  定冠詞の使い方は日本人にとっては難しいものです。
  ですから、エスペラントでは、定冠詞の使い方に自信のない人は使わなく
  ても良いことになっています。

  定冠詞の使い方の難しさを理解してもらうために、日本語の助詞の「が」
  「は」の使い分けのの難しさで説明しましょう。

  たとえば、次の文を見てください。

  「昔、昔、ある所におじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは
  柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おばあさんが、洗濯をし
  ていると、大きな桃が流れてきました。おばあさんはその桃を家にもって
  かえりました。」

  この文の「が」と「は」を入れ替えてみましょう。

  「昔、昔、ある所におじいさんとおばあさんはおりました。おじいさんが
  柴刈りに、おばあさんが川へ洗濯に行きました。おばあさんは、洗濯をし
  ていると、大きな桃は流れてきました。おばあさんがその桃を家にもって
  かえりました。」

  何か不自然な感じがします。しかし、なぜ不自然かを説明するのは、難し
  いです。日本人にとっては、この使い分けは、自然に身に付いているもの
  なので、理屈では説明しにくいのです。

  冠詞の使い方も、ヨーロッパ人にとっては、自然に身に付いていて、定冠
  詞を使うべき所に使っていなかったり、使ってはいけない所に使うと、不
  自然な感じがするのです。

  間違った使い方をするよりは、使わない方がよいのです。冠詞が無くても
  読む側が補ってくれるからです。たとえば、上の例文を助詞なしで書いて
  みましょう。

  「昔、昔、ある所におじいさんとおばあさんおりました。おじいさん柴刈
  りに、おばあさん川へ洗濯に行きました。おばあさん洗濯をしていると、
  大きな桃流れてきました。おばあさん、その桃を家にもってかえりました。」

  間違った使い方をした文例よりは、不自然さはありません。

定冠詞は、話し手と聞き手の間で、話題にしている物について、既に共通認識
がある場合、普通名詞に付けて、固有のものを表すとき使います。

  1.はなしの中で前に出てきたものだったり(「その」という意味)、
    会話している同士の間で、何のことなのか分かっていたり(「例の」
    という意味)目の前にあるもの(「この」という意味)に使われます。

    例)la hundo (その犬)

  2.1以外で突然、定冠詞が出て来ると、それが唯一のものであることを
    さします。

    例)la suno  太陽(太陽は世の中で一つ。)
      Li estas la lernejestro en mia lernejo. 彼は私の学校の校長です。
      (校長は私の学校に一人。もし、la がないと校長が何人かいて、
      そのうちの一人という意味になる。)

  定冠詞の他にも、似たようなことが、人称代名詞の所有形にもみられます。
  たとえば、「My friend came to see me yesterday.」という英語の文は
  「昨日、私の友人が会いに来ました。」という意味ですが、英語を母国語
  とする人には、その人には友達が1人しかいないという不自然な感じがす
  るそうです。日本人には分からないニュアンスです。何人かの友達のうち
  の一人が来たといいたいときは、「A friend of mine came to see me 
  yesterday.」と言います。my friend は 定冠詞の用法に似ていて、はな
  しの中で前に出てきたり、会話している同士の間で、誰のことなのか分か
  っている場合に使われます。ですから、それ以外で突然 my friend と出
  てくると、the sun などと同じように1人しかいないように感じるのです。
  次の場合には、1人しかいないようには感じないようです。
  「John came to see me yesterday. He is my friend.」

定冠詞の使い方は上記に挙げた原則の通りなのですが、実際の文の中で、どの
場合に当てはまるかは、いくつかの文例を通して慣れるしかありません。

  ・自分のからだ
    Mi levis la manon.  私は手を挙げた。
    laを使わないと、他の人の手を挙げたのかもしれない。

  ・固有名詞と同格の普通名詞につけます。ただし、敬称にはつけません。
    la monto Asama  浅間山
    la hotelo Okabe 岡部ホテル
    s-ro Sato       佐藤さん

  ・普通名詞を固有名詞化します。
    la Rug^a Maro  紅海

  ・固有名詞に形容詞を付けたとき
    la tuta Azio   全アジア

  ・形容詞を具体名詞化する。
    la mia   私のもの
    la morta 死者

  ・最上級の形容詞。最上級の副詞には付きません。
    la plej alta 最も高い
    plej alte    最も高く

  ・序数詞
    en la tria tago de majo  5月3日に

  ・最後の
    la lasta dimanc^o en majo  5月の最後の日曜日

  ・同じ
    en la sama tago  同じ日に

  ・全員
    la studentoj en la lernejo  その学校の全生徒
    la japanoj  日本民族

  ・総称
    La kato estas egoisma.  猫はみなわがままだ。

  ・2者のうち後者
    Mi havas du infanoj.        私には2人の子供がいる。
    unu estas lernanto.         一人は学生。
    la alia estas laboristo.    もう一人は労働者。

    alia に定冠詞があるのは、2者だけなので、他の一人は限定される
    から。

    3者以上の場合は、下の例のように alia に定冠詞が付く場合と付か
    ない場合があります。

    Mi havas multaj infanoj.    私には多くの子供がいる。
    unuj estas lernantoj.       あるものは学生。
    aliaj estas laboristoj.     他のあるものは労働者。

    この aliaj に定冠詞がないのは、学生でも、労働者でもない子供が
    いるから。

    Mi havas multaj infanoj.    私には多くの子供がいる。
    unuj estas lernantoj.       あるものは学生。
    la aliaj estas laboristoj.  他の全ては労働者。

    この aliaj に定冠詞があるのは、子供は学生か労働者のどちらかで、
    他の全てが労働者だから。

    次のような慣用句があります。

      unu la alia  お互いに

定冠詞が使えない場合

  人称代名詞の所有形(mia 等)、指示詞(tiu 等)、ambau^ と共に冠詞
  を使うことはできません。
    × la mia libro

  これらの単語と定冠詞は合わせて限定詞と呼ばれていて、固有のものを表
  すときに用います。my friend が限定的な意味を持つのは、my が限定詞で
  あり、定冠詞の機能をあわせもつからです。限定的な意味を持たせたくな
  いときは、英語ではa friend of mine 、エスペラントでは、amiko el 
  la miaj または unu el miaj amikoj と言います。

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