未来の共同体


ピーター・F・ドラッカー財団「未来社会への変革」より
内容の紹介と私の意見。

標記の本の原題は"The Community of The Future" で直訳すると「未来の共
同体」です。ここでいう共同体は非営利組織(NPO)を指しています。
ピーター・F・ドラッカー財団は非営利組織を支援する団体です。

20世紀は政府と企業が爆発的に成長した時代でした。21世紀は非営利的な
社会組織が爆発的に成長する時代です。今、世界が陥っている混沌から抜け出
すには新たな共同体を必要としています。政府も民間企業もこの新たな共同体
をもたらすことはできません。新たな共同体作りは、非政府、非民間企業の非
営利組織に課せられています。

共同体と自由貨幣制度

世界が陥っている混沌から抜け出すために、今後、利子のある貨幣制度から自
由貨幣制度へ移行せざるおう得なくなってきます。ここで、利子のある貨幣制
度と自由貨幣制度とでは社会がどう違っていくのか比較しましょう。

  利子のある貨幣制度      | 自由貨幣制度
                 |
  お金を持つことに価値がある。 | 減価するのでお金を持つことに価値がな
                 | い。事業そのものに価値が出る。
                 |
  目的=お金 −> 企業    | 目的=事業 −>  非営利組織
  手段=事業          | 手段=お金
                 |
  短期的な投資いわゆる投機。  | 長期的な投資が可能。
  長い目で見て事業を行えない。 | 長い目で見て事業を行える。
  事業はギャンブル的になり勝ち。| 社会的に価値のある事業が行われる。

歴史的に見ても、自由貨幣制度をとっていたときには多くの価値ある事業が行
われてきました。古代エジプトでも減価するお金を使っていました。これは収
穫した穀物を担保にするお金だったので穀物の腐食等の老化分もこのお金は反
映しなければなりませんでした。お金で持っていても損をするので、農民たち
は灌漑施設の整備や土地の改良を行い、長期的な利益をもたらすものに投資し
ました。そして、豊かな穀倉地帯になったのです。しかし、ローマが支配し、
利子のある貨幣制度を持ち込むと、この繁栄も終わりました。

なぜ非政府・非営利組織が求められるのか

営利組織の目的はあくまでお金であり、市民のニーズを満たすことではありま
せん。市民のニーズはあっても、採算が取れないことには営利組織は手を出し
ません。営利組織が満たせない市民のニーズは政府が満たすべきであり、それ
が可能であると人々は信じてきました。しかし、それは不成功に終わりました。
これらのニーズは非政府・非営利組織つまり共同体が満たすことが求められて
いるのです。

社会がうまく運営されるためには、「自由」「平等」「友愛」の3つがバラン
スよく機能しなくてはなりません。どれかが欠けていたり、どれかに偏っては
いけません。

工業化社会では企業と政府の2つが2項対立しています。企業は「自由」を行
い、富を求めますが、その結果不平等が起こります。そこで、政府は「平等」
を行うために法により規制をしたり、社会政策をおこなったりします。政府の
役割は「平等」であり、もともと市民のニーズを完全に満たすことはできない
のです。欠けている「友愛」がその役割を果たしますが、政府は「友愛」の精
神で動くわけではありません。「平等」で動きます。工業化社会では社会のニ
ーズを政府、つまり「平等」に負わせました。政府の役人には必ず「友愛」の
精神があるとは限らず、政府に役割を負わせ過ぎるほど、官僚の腐敗という悪
い側面がでてきます。特に、社会主義社会では、「平等」に偏りすぎたため、
これが顕著に出ました。

「友愛」の役割を果たすのが、非政府・非営利組織つまり共同体です。非政府
組織(NGO : Non Government Organization) とか非営利組織 (NPO : Non
Profit Organization) と呼ばれている組織です。この組織こそが人々にボラン
ティアとして「友愛」を実践する機会を提供するのです。

21世紀の情報化社会では、政府、企業のほかに第三の組織として、共同体が
大きな役割を果たすことになります。そして、企業(自由)、政府(平等)、
共同体(友愛)がバランスよく社会の中で機能するようにしなくてはなりませ
ん。

政府と企業が共同出資した第3セクターと呼ばれているものは、この第三の組
織とは別のものです。この共同出資組織は第1.5セクターというほうがよい
でしょう。

共同体の時代ごとの特色

  農業社会  −>     工業社会     −>  情報社会

  ・固定的共同体      ・共同体の喪失      ・柔軟な共同体
  ・自分が属する共同体は               ・自分にあった共同体を
   決まっていて選択できない              選択できる
  ・村                        ・グローバル

農業社会では共同体を持っていましたが、これは地域に固定的で、強制的に属
さなければなりませんでした。この共同体はおせっかいでした。つまり、いら
ないものまで押し付けました。

工業化社会では、共同体は喪失し、人々は余計なおせっかいから解放されまし
たが、本来、共同体が持っていた機能は、政府に押し付けてしまいました。

情報化社会では、多様化したニーズを多種多様な共同体が満たすことになるで
しょう。人々は多くの共同体の中から自分にあったものを選択することができ
ます。

共同体の力

・NPOは政府よりも柔軟に行動できます。
  阪神大震災時に機動的な活動ができました。行政が柔軟な対応ができない
  のは、その平等性からきます。行政の収入源は税金であり、それぞれに画
  一的に対応しなければ、納税者の支持は受けられないからです。個別的な
  ニーズには対応できないのです。多くの人に提供するためにそれぞれが最
  低限度になるようになります。生活保護の支給も最低賃金を超えないよう
  になっていて、生活環境も規制されます。かつて、生活保護を受けていた
  一人暮らしのお年寄りが、夏の暑さで熱中症にかかり、有志の人がエアコ
  ンをプレゼントしたところ、エアコンを持っているのなら、生活保護は打
  ち切るといわれた事件がマスコミで話題になりました。
・NPOのしていることは多彩。(企業がしていることが多彩ように)
  非営利活動は、むかしは慈善事業を指していました。(慈善型、奉仕型)
  今は「自分たちのニーズは自分たちで解決」という双方向性、互酬性を
  持っています。
・NPOによるボランティアは、新しい民主主義の形です。
  現在の間接民主主義では、政治に自分たちのニーズを反映させるには、数
  年に1回の選挙しかありません。しかし、選挙によって選ばれた人が、自
  分たちのニーズを満たしてくれるとは限りません。今までの方法では、
  「お役所だのみで、結局ニーズが満たされなくて不平をいう」ということ
  でした。それが「自分たちのニーズは自分たちで解決する」へという変化
  がでてきました。これが、現在のNPOの特徴です。選挙で間接的に社会
  を変えることに加え、ボランティアで直接的に社会を変えるという直接民
  主主義的なものを社会に持ち込みはじめたのです。また、1997年にノ
  ーベル平和賞を受賞した「地雷禁止国際キャンペーン」のように、NPO
  は政府を動かす力を持ち始めています。

共同体の評価

共同体は企業と違ってその成果を金銭的なもので判断できません。しかし、共
同体が今後、社会の中で、責任のある役割を担っていくには、何らかの評価を
しなければなりません。そのために次のことを行います。

1.その共同体の使命つまり目標を明確に定義する。
2.成果をあげているかを判断する。
  (ここでいう成果とは採算とは違って、社会がその組織を必要としている
   かということ)
3.成果をあげられないものについては、手を引くことも考える。
  (非営利組織のなかには意味もないのにだらだらと存続しているものも結
   構ある。)

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