リナックス

経済全体からすれば、情品経済は単なるおまけでしかなく、今後、経済の主流
になることはないと、思っている人もいるでしょう。しかし、情品経済が商品
経済に匹敵する力を持っていることを、リナックスの例によって説明します。

リナックスとはパーソナルコンピュータ用のオペレーティングシステムです。
良く知られているマイクロソフト社のウィンドウズも代表的なオペレーティン
グシステムのひとつです。リナックスはリーナス・トーバルズ氏により、作成
され、インターネット上に無料で公開されました。それが、瞬く間に広がり、
1998年現在700万人の使用者がいます。また、彼に賛同する何千人のボ
ランティアのプログラマたちが、リナックスを改善、拡張し、ウィンドウズに
匹敵するオペレーティングシステムに成長しました。専門性の高いオペレーテ
ィングシステムであるため、一般の人にはまだ普及していませんが、インター
ネットプロバイダの半数がリナックスを使用しているといわれています。一般
の人にも使いやすいように改良されていけば、ウィンドウズよりも普及してし
まう可能性もあります。

リナックスとウィンドウズを比較してみましょう。

ウィンドウズを開発しているマイクロソフト社は、世界最大のソフトウェア会
社です。数千人のプログラマを抱え、大学のキャンパスのような広い敷地に、
大きな建物がいくつも並んでいます。この中でウィンドウズが作られています。
土地、建物、人件費など巨大な資本によって、作られています。そして、作ら
れた製品は、普通の工業製品と同じように、卸会社、小売店という流通ルート
を通って、消費者の手に渡ります。その間に、流通コストが価格に上乗せされ
ます。

一方、リナックスは、それぞれ別の本職をもっているプログラマたちが、それ
ぞれの自宅で開発しています。かれらは、インターネットで互いに連絡をとり
ながら、一つの大きな仕事を行っています。つまり、土地、建物などの資本は
必要ありません。せいぜい数十万円のパソコンが設備費になります。彼らは、
無償で働くので、人件費もかかりません。作られたプログラムはインターネッ
トに公開され、誰でもインターネットを通じて手に入れることが、できるので、
流通コストもかかりません。

インターネットによって結ばれた個人の集まりが、巨大企業をしのぐ力を持ち
はじめています。情報力と人と人の心のつながりが、ものを言う時代がきます。
そのなかで、多くの大企業が淘汰され倒産していくことでしょう。失業のこと
を考えると悲しいことのようにおもえますが、むしろ企業にしばられていた個
人が解放されると考えれば、すばらしいことです。アメリカ合衆国では、19
90年代に工業の衰退から多くの失業者がでました。しかし、彼等は、個人で
の仕事を見つけています。インターネットが個人レベルで仕事の需要者と供給
者を結びつけています。企業のもつ需要者と供給者を結びつける機能が、イン
ターネットに移行したのです。

ビル・ゲイツ氏はリナックスに対して次のようにコメントしています。
「金銭的な報酬無しにプロの仕事は期待できない。」
それに対して、リーナス・トーバルズ氏はこのように述べています。
「僕を含めリナックスの開発者は企業がお金をくれるからやっているのではな
い。面白いからだ。リナックスが正常に動くことに誇りを持っている。誇りを
満たせることが報酬だ。プログラマーは仕事場から戻っても好きだからついコ
ンピュータの前に座ってしまう。創造的で賢明な彼らは意義あることをしたが
っている。経済的な理由からではない。ゲイツ氏の主張は通用しない。」
ビル・ゲイツ氏の言うように、無料のものというのは、何かのおまけに付いて
くるイメージがあるために、粗悪で、作りっぱなしで無責任という感じを持た
れがちのようです。しかし、トーバルズ氏はリナックスを有料ソフトと同じよ
うに責任を持って管理しているようです。彼は次のように言っています。
「現在核になるプログラマーは数百人に上る。僕の役割は9割が関係者間の連
絡や調整で残り1割がプログラミングだ。」

リナックスに携わっている人たちは金銭的な興味はなく、純粋にソフトの作成
だけに興味のある優秀な人たちです。彼等の報酬は「誇り」だといっています。
まさに、情品経済の形がここにあります。リナックスはインターネットが無け
れば生まれきませんでした。リナックスだけに限らず、今後、インターネット
はさまざまな所で情品経済を促進していくでしょう。

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