情品経済
バブル景気の崩壊で始まった平成大不況は、いまだ出口が見えません。しかし、
その中で情報・通信の分野は確実な成長を見せています。郵政省による平成10
年度の通信白書によりますと、国内総生産の情報・通信分野の割合が10%を超
えたということです。この割合は今後、更に伸びていくと思われます。これは
商品の主流が工業製品から情報製品へ移行していることを表しています。
資本主義社会は工業製品の生産を軸に発展した社会システムです。工業製品を
造るには、大きな設備(資本)が必要です。その資本を用立てるために、株式
や銀行が存在しています。しかし、現在そのシステムが限界に来ています。そ
の経緯は次の通りです。
1、株式のシステムでは、企業は絶えず成長することが求められる。
成長のない企業には投資する意味がないからである。
2、しかし、工業製品は物理的に場所を占めるので、ある程度行き渡ると売れ
なくなる。
3、新たな市場を求めて、貿易や植民地開発に乗り出す。
4、しかし、これも限界に来て、大恐慌や大戦争が起こる。(第1・2次大戦)
5、工業製品を資産的なものから消耗品的なものにして、どんどん捨てさせる
ことにより、どんどん買わせる。
6、しかし、資源の枯渇や廃棄物による環境破壊が起こり、これも限界に来る。
(現在)
このため、次のように新たな社会システムへ移行します。
1、物理的な場所を占めない、資源をあまり必要としない、そして、捨てても
廃棄物にならない情報製品へ商品の主流が移行する。
2、情報製品は工業製品と違って巨大な設備(資本)を必要としない。せいぜ
い数十万円のパソコンがあればよい。
3、この場合、知識が資本といえる。つまり、資本は金銭から知識へ移行する。
4、従来の、金銭を持つ資本家と、金銭を持たない労働者という階級社会は崩
れ、知識を持つ人と、持たない人という階級社会になる。
そして、金銭的資本を用立ててきた、株式や銀行が役割を終える。
5、しかし、知識は土地や金銭と違って、簡単に複写し共有することが可能な
ため、上記のような階級社会は過渡的であり、すぐに消滅する。
6、このように知識という資本を社会的に共有する、共産制社会が生まれる。
企業の所有する資産は「人」「物」「金」「情報」と言われています。しかし、
従来の企業の資産を測る対象は「物」「金」だけでした。貸借対照表に載るの
もこの2つだけです。しかし、新しい社会システムでは、「人」「情報」の方
が重要な位置を占めます。
山根一真氏はその著書「デジタル産業革命」の中で、金銭のやり取りのない経
済活動が増えつつあると述べています。従来の経済は「物」である商品を提供
して、その対価として、「金銭」を得ます。しかし、新しく出てきた経済活動
では、「情報」または「サービス」を提供して、その対価として、感謝や賞賛
などの「情」を得ます。氏はこれを情品経済と呼んでいます。
Linux等の無料または格安のソフトウェア製品(フリーウェア、シェアウェア)、
無料で提供されるインターネット上の情報、ボランティア活動の活発化など、
多くの例がその著書で紹介されています。このようなものを提供をしている人
たちは、お金が欲しいのではなく、人からの感謝や賞賛、または良いことをし
たというすがすがしい気持ち、つまり「心」を求めているのです。
参考:山根一真「デジタル産業革命」(講談社現代新書)
でんし共産制社会
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