『巨人・スウェーデンボルグ伝』

サイン・トクスヴィグ著

今村光一訳

徳間書店

 

巨人・スウェデンボルグ伝/サイン・トクスヴィグ/

P4

 

 1910年にロンドンで開かれた国際スウェデンボルグ会議には、総合大学の教授団全員に匹敵する学者たちが集まった。スウェーデンボルグが通じていた知識の分野をとりあげるには、それだけの“教授団”が必要だった。そして集まった人々は、彼の科学上の業績を高く評価したのだった。1938年の彼の生誕250年記念祭でも、さまざまな分野の科学者たちが彼の業績をたたえた。

 出席した科学者たちの多くは、彼が後年宗教のほうに打ち込んだことを残念がり「スウェデンボルグは科学の発展のコースを予見していたのに」といった。ノーベル化学賞を受賞したスウェーデンの物理・化学者スヴァンテ・アレニウスは、彼は宇宙論で、星雲説や銀河系宇宙の存在をすでに説いていたと証言した。また、解剖学者たちは、脳の心理学的機能が大脳皮質の中で営まれているのを最初につきとめたのは彼だったといった。そして、その発見も単なる理論的推論からではなく、自身の臨床、あるいは病理学的な観察や、他の学者たちが発見したことについての天才的な洞察によってなされたといった。

 

 

巨人・スウェデンボルグ伝/サイン・トクスヴィグ/

P147

現代アメリカのH・W・ハガード博士

 

<今日では、脳の表面の灰白質、大脳皮質が精神活動の場だと知られている。しかしそれを初めていったのは彼だった。意識、知覚、感覚、思考などの座はここだと彼はいった。また、体の中のいろいろな筋肉の動きをコントロールしているのは脳のどれどれの部分かを示し、両者の関連も明らかにした。さらに彼は議論を進め、脳の中心にある灰白質は複雑で、かつ人間が意識しない体の多くの動きをコントロールしていると指摘した。・・・脳の表層が、神経線維を通じて体のすべての部分とつながっていることを明らかにしたのも、彼であった。足のようにもっとも離れた器官だってそうなのだといった。さらにもっと驚くべきことに、脳の灰白質中の小さな卵形のものが、神経によるコントロールの最初の根深いものになっていると指摘したことである。スウェデンボルグが推論から下した結論が正確だったことは、100年も経って科学者たちが実験的に証明するものとなった。彼がいった卵形の小さなものとは、神経細胞と後に呼ばれるようになった細胞であった。たった一人の人間がそうに違いないといった推論を後に証明しただけで、多くの科学者が科学史に名をとどめることになったのであった。>