『天使の奇跡』

―本当にあった37の出会い―

J.W.アンダーソン

祥伝社 ノン・ブック(1996年発行)

著者J.Wアンダーソンはアメリカのライターです。1983年12月クリスマス休暇で

自分の息子がシカゴの自宅へ車で帰省する途中、摂氏マイナス50度の厳寒の中で

車が故障してしまいます。そして、息子は突然現われたレッカー車の運転手に救われます。

しかし、息子がお礼をしようとすると運転手はすでに消えていました・・・。

 

これは天使の仕業と思った彼女は同じような体験を募ったところ、

溢れんばかりの返事が寄せられます。

この本は、それらを集めた37編のドキュメンタリーです。

 

私たちはスウェーデンボルグを読んで守護の天使がいることを

知っています(彼はそういう表現を使ってはいませんが)。

しかしながら、普段その存在を意識することはありません。

また、スウェーデンボルグからではそれらの天使たちは

人間の精神面を悪魔から霊的に守っているのであって、物理的な危険から

私たちを守ってくれている訳ではないというイメージを抱いています。

 

ですから、サンダー・シングの伝記を読むと彼が天使のような者に

たびたび助けられる場面に出くわして当惑します。

しかし、この本の中にはサンダー・シングが助けられたのと

非常によく似た体験が語られています。

 

また、霊的なカリスマを与えられた人々は主や聖母以外に天使にも

会ったことが書かれている場合が多いのですが、それらを考え合わせますと、

これらの体験も本当ではないかと思われて来ます。

                            

 

<命がけの里帰り>

1983年12月24日、アメリカ中西部は記録的な寒波に見舞われました。

21歳のティムはクリスマスを両親と過ごすため、

ルームメイト二人と車でシカゴへ向かっています。

ドンを降ろしたティムとジムは、前代未聞の寒波の中

ドンの家に泊めてもらわず、そのまま出発します。

ラジオは、今晩はマイナス50度で、1分もしないうちに凍って

しまうので、屋外に出ないよう繰り返しています。しかし、

雪に包まれた人っ子一人通らないハイウェイで車は故障してしまいます。

 

ティムの足はすでに感覚を失いはじめました。

「ああ、神さま、もうあなたしかぼくたちを救える方はいません。」

ティムは自宅で待つ母親(著者)と同じように祈りました。

「ああ、眠ってしまいそうだ・・・。」

そのとき、車のヘッドライトが見えました。そして、誰かが窓をこつこつ叩きます。

「引っ張ってってやろうか。」

夢ではありません。しかも、そのトラックはレッカー車でした。

 

ドンの家まで引っ張って行ってもらった二人はドンの家に転がり込みます。

「ドン、レッカー車のドライバーに・・・彼にお金を払わないと。少し貸してもらえ・・・」

「ちょっと待てよ」ドンは眉をしかめ、二人の肩越しに窓の外を見つめます。

「レッカー車なんてどこにもいないぜ。」

ティムとジムは振り向きました。しかし、歩道のきわにぽつんと停まっているのは

ティムの車だけでした。ティムが、風に吹き上げられた雪煙の中にタイヤの跡を

探すと、カーブに沿ってまるい跡が一組だけ残されています。

しかし、それはティムの車のものでした・・・。

 

 

<イースターの復活>

イースターも目前に近づいたある日の午後、12歳のマークは

フロリダ州の自宅から150メートルほど離れた所でガラガラヘビに足を噛まれてしまいます。

家に戻ったマークはそのまま床に倒れ込みました。

毒のために体は膨れ上がり、腎臓も肺も機能を停止し、数日間病院で昏睡状態

が続いたあと、マークは奇跡的に回復します。

静脈を噛まれ、致死量を超える毒がすでに体中にまわっていたマークが

どうして気絶せずに家まで戻れたのでしょう。

マークが答えました。

「白い服の男の人が助けてくれた。その人が抱き上げて運んでくれたんだよ。

顔は一度も見なかった。肩から下だけしか。

白いローブを着ていて、すごい強い腕だった。

低い声で話しかけてきた。こう言ったんだ。これからとても具合が

悪くなるけれど、心配しなくても大丈夫だって。で、

階段を運んでくれて、それからは見ていない。」

 

 

<天の派遣した援護隊>

主はあなたのために、御使いに命じて

あなたの道のどこにおいても守らせてくださる・・・

詩篇91・11

 

1977年、ニュージャージー州。新米警官スティーブ・ロジャースはフィルと

パートナーを組みます。毎日、勤務に出る前に、二人は祈ったり、

聖書の一節を読んだりしていました。よく暗誦するのは、神のご加護を約束し、

危険にさらされたときには天使を遣わすと書かれた、詩篇91章でした。

 

町は大問題を抱えていました。ティーンエージャーがたむろし、酒を飲み、

ドラッグをやり、建物を壊したりしていたのでした。

警察は手入れをしても、彼らは秘密の隠れ家に逃げてしまい、捕まりません。

しかし二人はしらみつぶしに調べたところ、巧妙に隠された洞窟を発見します。

中には酒やマリワナが散乱していました。

「今晩この洞窟の手入れをやろう」二人はそう決めました。

しかし、応援の警官を要請しますが、だめでした。

たった二人だけで、あれだけ大勢の血気盛んな若者どもを

どうやって捕まえろというのでしょう。二人は再び詩篇91章を読み、祈ります。

 

その晩二人は洞窟に踏み込みました。「動くな!」

洞窟の中の誰も微動だにしません。少なくとも少年たちは12人います。

フィルが中心人物の若者ミスター・ビッグに近づき、手に持っている包みを

渡すように言いました。若者はおとなしくドラッグの包みをよこします。

スティーブは他の証拠品を集め、被疑者の権利を読み上げます。

それから、洞窟の地面が見えなくなるほどの大勢の若者を見回しました。

たった二人の警官の前に彼らがあっけなく屈したことに彼は驚いていました。

「なぜ誰ひとり向かってこようとしないんだろう?」

 

警察のバンが来て、二人はとらえた若者たちを洞窟の外へ連行しました。そのとき

スティーブはミスター・ビッグのほうを向いて尋ねました。

「きみや他の子どもたちは、なぜぼくらが入ってきたときに、刃向かおうとしなかったんだね?」

「あんた、おれのこと頭おかしいと思ってんの?」ミスター・ビッグが聞き返します。

「制服のおまわりが20人はいただろ、刃向かったり逃げたりするほうがどうかしてるぜ。」

20人?いや、ぼくら二人しかいなかったよ。」

「へえ?」ミスター・ビッグはとらえられた他の若者の方に声をかけます。

「なあ、ベリンダ、洞窟に入ってきたおまわりは何人だった?」

ベリンダは肩をすくめました。「さあ、少なくとも20人はいたね。」

 

二人は9ヶ月の間に250人以上を逮捕し、麻薬常用者や暴徒たちの

かつてのたまり場は一掃され、町には平和が戻ります。

その業績を讃えられると、二人は必ず、イエス・キリストが守ってくださり、

犯罪を一掃するのに手を貸してくださったおかげだと答えました。

イエス・キリスト・・・、それに制服をまとった神の特別チームのおかげだと。

 

・・・・

 

 

さて、サンダー・シングにもよく似た話がありますので

それを御紹介します。

 

1.    洞窟で

 

ある時サンダー・シングはチベットを旅していましたが、村人の抵抗で

村に入ることが出来ず、洞窟で休みました。すると村人が大勢で

棒や石を持って押しかけて来ました。彼は最後が近づいたと思い、

神に霊を託して祈っていると、近づいてきた村人たちは突然立ち止まり

何か囁きあっていましたが、何もせずに帰ってしまいました。

 

翌朝、村人は来て、彼に聞きました。

「あの輝く着物を着てあなたと一緒にいた人はだれですか。

また、その人を取り巻いていたたくさんの人々はだれですか」

彼は、誰もいないと言いましたが、村人たちは怖れて、洞窟を囲んでたくさんの

輝く群が立っているのを見たと主張しました。

そして、彼に、どうか自分の家に来て欲しいと懇願し、彼らと行きつつ

キリストのことを語ると、彼らは畏れて信ずるようになったそうです。

(金井為一郎/サンダー・シングの生涯と思想/P60)

 

 

2.急流で

 

ネパールで村への道を聞き、その通り行けども村はなく、

サンダー・シングはジャングルの中で迷ってしまいました。

さらに行くと川に行き当たりましたが、流れが強くて渡れません。

夕暮れが近づき、神に祈っていると、対岸に一人の人が現れ、

「私は君を助けるために来た」と言います。

 

その人は流れを泳ぎ渡ってサンダー・シングのところへ

来ると、彼を背負ってふたたび泳いで対岸に連れて行ってくれました。

岸には火が起こしてあり、濡れた衣服を乾かすことができました。

しかし、もうその人はいないのでした。

(金井為一郎/サンダー・シングの生涯と思想/P59)

 

 

3.井戸の穴で

 

布教が禁止されているラサで布教していて彼は捕まり、

空の井戸に落とされて上から鍵をかけられます。そこには

そうして死刑を執行されたたくさんの人間の死骸がありました。

三日目に誰かが鍵を開け、縄を垂らして彼を救い上げてくれます。

彼は誰が救ってくれたのか見回してもそこには誰もいませんでした。

再び布教を始めるとまた捕まり、ラマ僧の前に連れて行かれます。

ラマ僧は誰が鍵を盗んだのか怒りますが、ふと見るとその鍵は

自分の帯についています。彼は驚き畏れて、サンダー・シングに、

町を去ってくれるように言って彼を釈放します。

(金井為一郎/サンダー・シングの生涯と思想/P52)

 

 

他にもいくつかあります。例えば縛られて木の下に放置されますが

朝になって目覚めると、縄はほどかれ、木になっていた果物が

彼の足元に置かれていた話、(同P58)

 

あるいは、日本人宣教師の家を訪ねて帰る時、外でさわいでいた暴徒たちが

サンダー・シングを見ると途端にひれ伏して拝み、その中を彼が毛布と

聖書を持った両手を高々と挙げて悠然と去って行く話、

 

あるいは、夜、皆が寝静まった頃、サンダー・シングが

起き出して宿舎の外へ出るのに気がついた同室の者が

窓から見ていると、瞑想している彼に黒豹が音もなく近づき、

猫のように身体をサンダー・シングの身体に擦り付けると、

サンダー・シングが豹の頭をなぜてやる話など、

素敵な逸話がたくさんあります。

 

(そう言えば、『フランシスコの小さな花』の中に、アッシジのフランシスコが

オオカミをおとなしくさせた話がありました・・・。)

 

 

以上