農夫

 

 

 

1.トマス・ア・ケンピス

2.マリア・ワルトルタ

 

 

 

 

 

1.トマス・ア・ケンピス

 

 

トマス・ア・ケンピス/キリストに倣いて/1・2・1

 

人は生まれつき、知りたいと望む。けれども多く知ったところで、神を畏れる心がなければ何の役に立とう。

まことに神に仕える謙遜な百姓は、自分という者をお留守にして、天体の運行を観測する高慢な学者より、はるかにましである。

本当に自分を知る人は、必ず自分をつまらぬ者と考えて、他人にほめられることを喜ばない。

たとい私が世の中のことをことごとく知ったところで、もし愛がなかったとしたら、神のおん目から見てなんの役に立とう。神は私の行いによって私をお裁きになるからである。

 

 

 

 

2.マリア・ワルトルタ

 

 

マリア・ヴァルトルタ/私に啓示された福音/9卷中P146/582・9

 

「ヨナ、扉を開けてください。弟子(イスカリオテのユダ)と少し歩いて来ます。あなたが、まだここにいるなら、鍵を締めないでいいです。すぐに戻りますから」。イエズスは、大きな鍵を持ってびっくりしている男に、優しく言う。

鍵が高い音を立てて回ると、重い鉄の扉が軋んで開く。

「めったに開けない扉ですから」と、男はほほ笑んで言う。「えい! 錆びてしまって! 怠けるとだめになる・・・錆び、埃・・・腕白ども・・・われわれも同じ・・・霊魂をいつも手入れしていなければ!」。

「よく言いました、ヨナ! あなたの考えは、賢者のものです。多くのラビが、あなたをうらやむでしょう」。

「いえ! 教えてくれたのは、蜂たちです・・・それと、あなたの言葉。本当は、あなたの言葉からです。そして、蜂たちを見て分りました。すべてのものに、声があります。理解できなくても。だから、こう思います、蜂たちが創造主の命令に従っている。脳や心があるかどうかも分からない小さな虫たちにできるのに、心と脳と霊魂が確かにあって、先生のお言葉を聞けるわたしに、できないはずがあるでしょうか。先生から言われたことをするように努め、わたしの霊魂を美しく輝かせなければいけません。錆、埃、泥、藁、石や、どんな罠も、悪い敵に仕込まれないように気を付けなければいけないでしょう?」。

「あなたの言うとおりです。蜂たちを見習いなさい、そうすれば、あなたの霊魂は、貴重な徳でいっぱいの豊かな蜜箱になるでしょう。そして、がそれを楽しみに訪れてくださるでしょう。さようなら、ヨナ。あなたに平安」。

 

イエズスは、目の前に身をかがめている男の灰色の頭に手を置き、赤いツメクサで深紅のカーペットのように美しい草原へと出て行く。草原では、蜂たちが歌いながら、花から花へと活発に飛び回っている。

ラザロの庭を囲む塀からじゅうぶんに離れて、誰にも声を聞かれない所まで来ると、イエズスは言う、「あの男の言葉を聞きましたか? 彼は農夫です。字もほとんど読めないはずです・・・それなのに・・・彼の言葉がわたしの口から出たとしても、愚かな話には聞こえなかったでしょう。彼は、霊魂の敵に自分の霊魂をだめにされないよう、よく見張っていなければならないと思っています・・・わたしが・・・あなたを近くに引き留めているのはそういう敵のせいです。(後略)」