ロンジーノ(ロンギヌス)
マリア・ヴァルトルタ/私に啓示された福音/10卷上P95/604・42
ピラトは偽りの善人です。ロンギヌスは善人です。彼は総督よりも力は劣り、通りの真ん中で少数の兵士にしか守られずに、敵意を持つ大群衆に囲まれましたが、勇気を出してわたしを守り、助け、休ませました。敬虔な女性たちからの慰めを受けさせ、キレネ人からの助けを受けさせ、最後には、わたしの母を十字架の下に来させました。彼は正義の人でしたから、キリストの英雄になりました。
気を付けなさい、おお、物質的な幸福だけを心配する人たち。神は、あなた方が神から発散された正義に忠実に向かっているのを見れば、好意的に介入してくださいます。わたしは常に、正しい行いをする人たちに報います。わたしを庇う人たちを庇います。彼らを愛し、助けます。わたしはかつて、このように言った者です、『わたしの名において、一杯の水を与える者は、その報いを得るでしょう』。わたしに愛を、聖なる殉教者であるわたしの唇を潤す水を与えてくれる人に、わたしはわたし自身、つまり、保護と祝福を与えます。
マリア・ワルトルタ/イエズスの受難/P303
執行を指揮する任務のロンジーノが合図をする。しかし、同情のこもるまなざしでイエズスを眺めていたロンジーノは、イエズスが十字架を担って道に連れ出される前に、このようなことに経験がある者として、一人の兵士と一緒にイエズスに近づき、何かの飲み物をささげる。ぶどう酒らしい。というのは、軍隊用の水筒から、明るいあめ色の液体をコップに注ぐのが見える。
「これで少し元気が出るでしょう。あなたはのどが渇いていると思います。外は太陽が照りつけているし、道も長い」
これにイエズスは、「神は、あなたのあわれみに報いてくださるように。でも、どうぞ自分でお飲みなさい」と答える。
(中略)
「どうぞ、もっとお飲みください。これは水と蜂蜜です。力を与え、渇きもとります・・・あなたが気の毒で仕方ない・・・ヘブライ人の中で殺すべき人は、あなたではなかった・・・まあ!・・・私はあなたを憎まない・・・そして・・・できるだけ、あなたの苦しみを減らすよう努めたい」
しかし、イエズスは二度とは飲まない。本当に渇いている。血が少なくなって熱に苦しむ人特有の恐ろしい渇きに襲われていて、この麻薬の混じっていない飲み物を喜んで飲みたいが、他方“自分の苦しみを少なくしたくない”のである。私には、イエズスの心をいやすのが、あの蜂蜜入りの水よりも、かのローマ人の心であるということがよく分かる。
「神は、あなたのこの慰めを祝福にかえますように」と言ってほほえむ。
マリア・ワルトルタ/イエズスの受難/P308
たびたび、振り返って気遣うロンジーノが、あわれんでしばらくの休憩を命じる。その時、群集が近寄ってどんなに侮辱するか・・・。百夫長が兵士たちに、
「槍を向けろ」と命ずるほどである。
ぎらりと光る槍の前に、卑劣な群集は悲鳴を上げて山の方へクモの子を散らすように逃げていく。
マリア・ワルトルタ/イエズスの受難/P313
ロンジーノは、その男を頭のてっぺんから足の爪先までじろじろ見てから、役に立つと思って命令する。
「おい、そこの男、ここに来い!」
キレネの人は聞えないふりをするが、ロンジーノは猶予を与えない。命令をもう一度繰り返すと、男は手綱を息子の一人に渡して百夫長のそばに来る。
「あの人が見えるか」
ロンジーノはこう言いながら、イエズスを指差すために頭をめぐらしたとき、通してもらいたくて兵士にすがっているマリアが目に入る。ロンジーノはあわれに思って叫ぶ。
「その婦人を通せ!」
それから、キレネの人に向かって命じる。
「イエズスは、あの荷を背負ってはもう一歩も歩けない。おまえは強い。あの十字架を担い、あの人のために頂上まで運べ」
「私が?できませんよ・・・ろばがいる・・・暴れん坊だから、息子たちではそれを抑えられない・・・」
重ねてロンジーノが言う。
「ろばを失い、おまけに罰の二十たたきをされたくないなら、とっとと行け!」
マリア・ワルトルタ/イエズスの受難/P319
それを見ていたマリアは、自分の頭を覆う細長い、薄い白布を黒いマントを着たままとる。マントをすべり落とすことなくそれをはずすと、わが子のためにロンジーノに渡すようにヨハネに与える。百夫長は快くそれを受け取り、群集の方に傷だらけの痛々しい背中を見せている全裸のイエズスに、母からの布を渡す。イエズスはそれと分かり、腰に幾重にも巻いて落ちないように固く結ぶ。ただ、母の涙でしんめりしていただけの麻布に、血の最初の一滴が落ちて広がる。数知れないかさぶたが、サンダルをとり服を脱いだときにむけて、再び血が流れ始めたのである。
マリア・ワルトルタ/イエズスの受難/P325
ロンジーノは段のちょうど真下で、子の方に苦しみに引き裂かれている顔を向けているマリアを見て、さいころで遊んでいる兵士の一人を呼んで伝える。
「あの人が供をしている子供と一緒にここへ上がりたちなら来てもよい。あの人を助けて守れ」
マリアは“子供”と思われたヨハネと一緒に、軟らかい石に刻まれている段を上って兵士たちの列を通り抜けて十字架の真下に近寄るが、イエズスを見るために、また、イエズスから見えるようにやや離れた所で立ち止まる。
マリア・ワルトルタ/イエズスの受難/P337
ロンジーノは直立不動の姿勢をとり、左手を刀に、右手は規則どおりぴちっと脇にあてて、皇帝の玉座の前で敬礼しているように緊張し感情を押し殺している。しかし、必死に耐えている顔がゆがみ、目にはこの人の鉄の意志だけがとどめている涙がにじみ、きらりと光る。