ヨハネ行伝

 

講談社文芸文庫『新約聖書外典』

 

 

 

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しかし、ヨハネは云った、「先ずアルテミスの神殿へ出かけよう。私たちがそこにゆくと、そこにもきっと主の僕たちが見つかるであろうから」。

 

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それから二日の後に、アルテミスの偶像を祀る神殿の創立の祭があった。全ての人々は白い衣裳を着けていたのに、ひとりヨハネのみは黒い着物で神殿に入っていった。人々は彼を逮捕して殺そうとした。するとヨハネが云った。「おまえたちは気が狂(ふ)れてしまったのだ、エペソ人よ、唯一の神の僕たるこの私に手をかけようなどとは!」それから、とある高い階段に上ると、エペソ人の群集に向ってこう云った、

 

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「エペソの人々よ、君たちはまるで海のようにひとつところにたゆたう危険を犯そうとしている。流れ込む全ての河、流れ下る全ての泉、また、激しい雨と間断ない波浪、そして、岩を食む激流も、一旦海に入れば、その塩分のせいで、諸共に塩辛くされてしまうものである。ちょうどそれと同じように、君たちも、今日まで逸れることなく真実に神を畏れ続けてきたにも拘らず、以前の古い崇拝へと頽(くずお)れてしまっている。君たちは、私によって行われた驚嘆すべき業と病人の癒しを既にどれほど沢山見てきたことであろう!それでもなお君たちは心がいじけて盲目となり見ることさえできない始末だ。一体これはどういうことなのだ?

 

エペソの人々よ!今や私がこうして君たちの神殿の中にまで敢えて立ち入ってきたのは、他でもない、君たちがあり得ないほどに神なき者たちであり、人智によって死んでいる者たちであることを告発するためなのである。見よ、私はここに立っている!おまえたちはそろって、女神アルテミスを持っていると主張している。それなら、私ひとりが死んでしまえ、と彼女に祈ってみるがいい。反対に、そうすることがおまえたちにできない場合は、この私が、ひとりではあるが、自分の神に呼びかけて、おまえたち全員、不信仰の罪で滅ぼしてしまうであろう」。

 

 

 

45

見るところ、今やそのようになったし、また、益々そうなりつつあるが、あなたがたを、ちょうど子供に対してそうするように、柔かい食物から引き離して確固とした岩の上に礎を据えるまで、私はなおあなたがたの許を離れはしない」。