「・・・ゆき・・・」 |
アルカヤ上空で、誰にも聞かれないだろう声が、そう呟いた。 |
灰色の雲から舞い降りるそれは、まさしく今地上へ降り、守護する |
彼女の姿そのもの。 |
羽ばたくのを止めると彼女は術で浮遊し、ひらひらと舞うそれを見つめ、 |
金色の眼を細めた。優しげな桜色の唇には、微笑が浮かんでいる。 |
「・・・さあて、残りはあと1人。もたもたしてたら、明日にな |
っちゃうよね」 |
ひとしきり雪を眺めて満足すると、金茶色の小さな頭は1人で頷く |
リアクションを取り、消えた。 |
雪片と共に、一枚の羽根が地上へと消えて行く。 |
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甘い物が好きな女の子達(レイラに「子」というのは違うように思 |
うけれど)。 |
アイリーンには、彼女の髪と同じ色の、オレンジのケーキ。いつだ |
って元気で健気なアイリーンには、笑顔が1番似合うと思ったから。 |
レイラには、少し甘味を抑えてシンプルな、けれど深い味わいを持 |
っている紅茶のケーキ。理想と現実のギャップに苦しみながらも、 |
決して弱音を吐かない、強くて優しい騎士の貴女に。 |
セシアには、彼女の好きな南国のフルーツのムースケーキ。一生懸 |
命で、困っている人を見ると放っておけない・・・どんな人にも分け隔て |
ない、セシアの心の色みたいなケーキ。 |
ルディ以外は多分、甘い物はあんまり好きじゃないだろう、男性陣。 |
ルディには、彼の国のイメージカラー赤い色のさくらんぼのゼリー。 |
ちゃんと甘くて、でもなんだか吹き抜けてく風のよう。一ヶ所にじっ |
となんかしてられない、ルディにぴったり。太陽みたいな笑顔。 |
お酒をよく飲むロクスには、キッシュ・ロレーヌ。ちゃんと野菜と |
か、お肉も食べないとダメだよ?チーズやミルク、お肉に野菜のたっぷ |
り入ったこれは、彼の為にあるみたいだね。ああ、眉間に皺寄せられる・・・かも。 |
好き嫌いのなさそうな(でも甘い物は苦手そう)フェインには、チーズクッキー。 |
保存がきくし、そんなに甘くないから、貴方でもきっと食べられるんじゃないのかな? |
アイリーンに心配かけないように、頑張ってね。 |
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。 |
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彼女の愛しい勇者達、最後の1人。 |
そして、彼女にとって最後の難関。最も高いハードル。「彼」の居 |
るだろう宿屋の傍まで来て、飛ぶのをやめて歩くことにした。 |
夕刻から降り始めた雪は、もう足跡ができるくらいに積もっている。 |
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さく、さく、さく。 |
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もう、プレゼントを待ち焦がれる子供達は、夢の国へ旅立っている時刻。 |
絶え間なく降る雪は、この地を守護する天使である少女・・・シャリオンにも |
降りかかる。肩まであるまっすぐな金茶色の髪、子猫みたいに大きな、 |
金色の眼。小作りな身体のパーツは、頼りなくて華奢で、愛らしい。 |
宿屋のすぐ傍まで歩いて、上階の窓を見上げる。 |
「彼」が居るのは、辺境の小さな町の、やっぱり小さな宿の2階。 |
「・・・う〜・・・」 |
先刻上空で呟いた言葉は至極最もで、急いで渡してしまわないと、 |
本当に日付が変わってしまう。 |
白い額に皺を寄せ、唸る。 |
表情は、困りきった子供のそれ。 |
別に日付が変わるのなんて構わないのだけど、やっぱり拘りたい、 |
と思う。折角作ったんだし、喜んで貰いたい。問題は、果たして喜ん |
で貰えるのか、ということ。 |
「・・・でも、皆美味しいって・・・言ってくれたし。うん」 |
「・・・何をしてる?」 |
独り言に被る、低くて心地良い声。そう。「彼」の。 |
「・・・・・・って、え!? クライヴ!!?」 |
驚いて2階の窓を振り仰ぐと、いつも通りの彼女の勇者が。そこに居た。 |
開け放たれた窓の縁に痩身を持たせかけ、彼は彼女を見ていたのだ。 |
もうとっくに眠りから醒めて、特にすることもなく(依頼も無かったので) |
ぼんやりと、曇る窓から雪を眺めていて。ふと、覚えのある気配が近づ |
いて来るのに気づいた。どうやら外から、しかも何故か歩いて来たらし |
い・・・と思っていれば、部屋まで来ないで建物の傍で気配は足を止め |
たらしくて。 |
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・・・どうしたんだ、一体。 |
いつもなら、窓をノックして来るのに。 |
・・・すぐ其処に居るのに、何故来ないのだろう。 |
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そう、思っていて、じれったくて。 |
つい、声を掛けてしまった。 |
綺麗な無表情の裏で、勇者が何を思っているかなんて、皆目見当も |
つかないシャリオンは、意を決して雪に覆われた大地から足を離した。 |
ふわり、と身体が浮き上がると同時に、純白の翼が拡がり、空を打つ。 |
クライヴの居る窓辺まで来ると、そのまま窓枠に座り込む。 |
何をする気だ、と訝しげな視線を寄越す勇者の眼前に、白い両手を |
掲げて。ほんの少し紅潮した頬のまま。 |
にこり、と笑んだ。 |
一連の所作の意味を理解しかねて、思わず眼を円くした、漆黒の青年に。 |
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「メリークリスマス、クライヴ」 |
掲げられた手には、何時の間にやら白い箱があって。 |
天使の少女は、唖然とする彼に箱を差し出す。 |
「あのね、これ、作ったの。これは、クライヴの分。・・・えー・・・と、 |
迷惑じゃなかったら、食べて欲しいの。一年間の、感謝と、有難う |
と、私の気持ち」 |
不安げに小首を傾げて、告げられる言葉。 |
数秒の沈黙の後、クライヴは差し出された白い箱を受け取った。 |
途端に、シャリオンの表情が明るくなる。 |
「・・・有難う」 |
ぼそりと、でも確かに紡がれた礼に、少女は再び微笑んだ。 |
慌てるように背を向けた漆黒の勇者は、耳まで真っ赤になっていた、とか。 |
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白い世界 銀色に煙る空 天使の羽根が降り注ぐ |
柔らかな けれど確かな 神々の祝福 |
そして今 此処に在る己へと与えられる・・・ 「天使」のプレゼント |
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END
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〜神楽坂さまのコメント〜 |
はい。クリスマスSSです! |
即席なのでかなり拙いですが、宜しくお願いします! 続きが出る |
かも、です<おい。 |
失礼致しました。 |
神楽坂 マナ 拝 |
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