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小さな小さな一つの結晶に、暖かな想いを乗せて… |
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| 広い平野は一面の雪で敷き詰められていた。 |
| 先月頃までは少なくとも生やしていた草々は埋もれ、スラティナはすっかりと冬景色である。 |
| 夜中になると気温は昼間よりさらに冷え込み、外出をする者は多くは無い。 |
| 今日と言う日を除いては… |
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| いつもと変わらず、クライヴは修行に明け暮れていた。 |
| 日が落ちるのが早い分生活時間も長くなり、その長くなった分を修行に費やしていた。 |
| 他にする事が無いと言えばそうなのだが、それでも何もしないよりかは増しと思い刀を振るっている。 |
| 体を動かしていなければ寒いと言うのも一つの理由なのだが… |
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| (…それにしても冷えるな) |
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| 人に弱みを見せたく無いという思いが強いクライヴは、春夏秋冬特に厚での変わり無い服を纏っている。 |
| 寒ければケープ類を羽織る事も無く、又暑ければ脱ぐ事も無い。 |
| 只その状況に合わせて我慢をしているだけなのだ。 |
| だから今は体を動かして暖めようとしている。 |
| が、それもいくらか限度があり、体は冷えたまま。 |
| クライヴは思わず身震いした。 |
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| (しばらく動いていたら温まる…か?) |
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| 半ば自問しながら一時休めていた刀で宙を斬る。 |
| 足元の雪は何度も踏まれて既に硬くなっていた。 |
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| 「精が出ますね」 |
| 頭上からふと、柔らかな声で掛けられた。 |
| その声の主が誰だかすぐに判ったので、ゆっくりと仰ぐ。 |
| 「こんばんは、クライヴ 調子はいかがですか?」 |
| 雪にも似た羽を数枚舞わせて着地し、一人の天使は翼を仕舞った。 |
| 「アイラか… どうした?」 |
| 刀を鞘に収め、柔らかな表情を天使に向ける。 |
| 「はい。 あの、今日はこれを渡したくて来ました。 宜しければ受け取って下さい」 |
| アイラの手が淡く光り、薄れていく頃には一つの紙包みが見えた。 |
| 「気に入ってもらえるかどうか判りませんが…」 |
| その紙包みを手に取り殆ど重みが無い事を確認する。 |
| 中身が気になり封を開けて目に入って来た物は… |
| 「……マフラーか?」 |
| 「はい、作り方がよく判らなくてリリィに教わりながら編んだのですが… あまり綺麗じゃ |
| ありませんけど…」 |
| 生地全体は白で、所々に紺色の模様が付けられていた。 |
| 多少、目がずれている個所も見られたが… |
| 確かに街で売っている物と比較したら劣るが、そのアイラの気持ちがクライヴにとっては嬉しかった。 |
| 毛糸の暖かさを掌で感じながら冷えた首筋に巻く。 |
| 「……ありがとう」 |
| 「こんな物でもそう言ってもらえて嬉しいです…」 |
| いつもと変わらず、穏やかな笑みをその顔に浮かべる。 |
| アイラのその表情を見ていると、自然とクライヴの顔も綻んだ。 |
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| そんな2人の空間に、白く舞い散る結晶が藍色の雲から降り注いだ |
| 静かに地に降りては除々に層を重ねて行く。 |
| 「あっ、雪です」 |
| 「…ここ4,5日降っていなかったのに又降って来たな」 |
| 少々うんざりしながら天を睨みつけていたが、傍らの天使は嬉々とした表情を浮かべていた。 |
| 「でも、今日は降って欲しかったですよ」 |
| 少し離れて、雪が降りる様をその瞳で捕らえる。 |
| 「ホワイトクリスマスですよ クライヴ」 |
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| (……あぁ、雪が降るとそんな呼び方もあったな) |
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| そんな事を思いながらも雪が降ってはしゃぎ気味のアイラを傍で見守る。 |
| 雪が降っているのは見なれているのだろうが、この日のだけは意味が違うらしい。 |
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| 「ねぇ、クライヴ 雪ってそのもの自体が冷たい分、人々には暖かい気持ちを届けるんですよ |
| 大切な人に向かって想いを乗せて願ったりすると」 |
| 「…想いを乗せる?」 |
| 「えぇ、クリスマスの雪はそう言われているんです きっと、大勢の方々が大切な人を想っている |
| んでしょうね」 |
| それを天使らしい発言と感じたが、強ちそうかもしれないと思った。 |
| 自らの想いを伝えられない者や愛し合う男女は願っているのだろう。 |
| 一つ一つに想いを託して。 |
| だからこんなに降るのだと。 |
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| (……俺の正確な想いは、彼女に伝わっているだろうか?) |
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| ふと脳裏に微弱な疑問が横切る。 |
| アイラの気持ちもクライヴと同じだと言ったが、それを何処まで感じ取ってくれているか… |
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| 「…俺も、これに一つ託してみるか…」 |
| 「えっ?」 |
| 舞い散る雪に目線を走らせていたが、後ろを振り向きクライヴの顔を見る。 |
| 「いきなりどうしたんです?」 |
| 「いや…、それを信じてみるのも良いかと思ってな…」 |
| 苦笑混じりで言葉を返し、クライヴもアイラの顔を見た。 |
| アイラはしばらくきょとんとしていたが、雪を手に受け止めながら微笑んだ。 |
| 「でも、その必要は無いと思いますよ」 |
| 「…?」 |
| 「これでも、クライヴの気持ちは判っているつもりですから……」 |
| 優しい笑みを湛えて返すその言葉は、クライヴの中の不安だとか疑問を消し去った。 |
| ”判っている” |
| その一言だけでも心強く感じ、自然と愛しく思えて、次の瞬間には両手でアイラを包んでいた。 |
| 「…クライヴ、今日は一緒にいましょう…」 |
| 「あぁ、そうだな…」 |
| お互いに微かに微笑み合い、静かにその唇を重ねた。 |
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| 遠くの街の方からは、賑やかな音が聞こえてくる。 |
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| 「「メリークリスマス…」」 |
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| たった一つの結晶を、大切な願いに変えて…… |
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| ―END― |
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| 〜葉月様のコメント〜 |
| 何か、甘いのかそうでないのか判りませんね(^^;) |
| クリスマスに降る雪の話は私が勝手に作りました。 |
| 本当にあるかどうかは知りませんが…(いや、多分無いでしょう) |
| 私的にはこのような企画でクライヴを書かせて頂くのは幸せです♪ |
| 書く事でも心の支えになっております。 |
| 駄文を読んで下さっている皆様にも激感謝です☆ |
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