白い首筋が目の前にあった。
細く、ほんの少し力を入れたら折れてしまうのではないかと思うほどのそれが…
手を伸ばせば届いてしまうようなところに所にある。
「吸血鬼にも虜化能力があるらしいですよ。」
いつだったか…天使のお前はそう言った。
何の話をしていたのか…それは良く覚えていない。
だが、確かにそう言った。
吸血鬼は死霊系の怪物だが、夢魔や淫魔や悪魔にも分類される事がある。
どれも、妖魔でありながら礼儀正しく、紳士なイメージと、
人を糧とし、糧とされたものを魅了する力を持っているという共通点があるからだろう。
「だからもしかしたら、クライヴにもその力があるかもしれませんね…」と
「だからきっと、私も貴方に魅了されちゃったんですね…」と…
彼女は言った。
あの時俺は、自分の中のあの血を許せなかったから…
そんなお前を無視してしまったけど…。
今ならはっきり言える。
―――それは違う。
と…。
―――魅了されたのは俺の方だ。
気が付けば…俺はお前の虜になっていた。
お前の願いは断れない。
お前のためなら何でもできる。
首筋に噛み付かれる事など当然なかったけれど…
俺の胸の一番深いところに、お前は心地よい痛みを齎す傷跡を残した。
きっとお前を失ってしまったら、俺は生きてはいけないだろう。
愛してる。
いくら言っても、言葉じゃ足りない。
頭も胸も、俺の体はお前だらけ…。
気が付けばお前の事ばかり考えている。
「どうなさったんですか?」
優しい笑顔で尋ねる君が憎い。
俺ばかり、君に夢中になっているなんて……ずるい…。
君の白い首筋に歯を立てたら、お前を永久に捕らえておける。
古の神が美しい姫をそうして手に入れた様に…。
古の悪魔がそうして女たちを虜にした様に…。
俺だけのものにできるだろうか…。
もし…それができるなら………
たとえこの身を闇に落としても、君が手に入るのならば…
俺は…闇の王子へ姿を変える…。
-END-
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