TouchandGo!



無口で無愛想だった私の勇者は、少しずつ話をしてくれるようになった。
本当にたまにだけど、笑顔を見せてくれるようになった。
触れようと伸ばした私の手を、振り払わなくなった。
そんな、あの日のお話。






「どうした?」
さらり。
普段剣を握っているとは思えない程綺麗な指先から零れ落ちる、艶やかな光沢を持ったさらさらの黒髪。
その光に、私は一瞬で心を奪われた。



足が床を蹴り、体が宙に舞う。



ほぼ飛びつくような形で、指をクライヴの髪に伸ばす。
指先が触れたクライヴの髪は、思ったとおりの感触だった。
柔らかく、さらさらで、艶やかで。
思わず感嘆のため息がもれた。



…ふと視線を感じて顔を下ろすと、珍しく驚いたクライヴの顔があった。
それは、クライヴの事を知らない人なら分からない程度の、ほんの微かな変化だったけど。



しまった、またやっちゃったな、と私は翼を小刻みに動かしながら心の中で呟いた。
我に返るのはいつも行動した後。
考えるより先に体が動いてしまうのは本当に私の悪い癖だ。
だからといって今更慌てて離れる訳にもいかず、私は宙に浮きがらクライヴの髪をなで続けた。
本当、こういう時って翼は便利。






さらさらの、綺麗な黒い髪。
クライヴの、髪。
その感触が気に入って調子に乗って触りまくっていると、クライヴがおずおず、と言った感じで口を開いた。



「…何をしている?」
「へ?見ての通り、クライヴの髪撫でてるの」
「…何故だ?」
「だって、クライヴ、さっき髪さらりって指で掻き揚げていたでしょ?」
「ああ」
「…何かそれ見たら、クライヴの髪触りたいな〜って思って…んで、気がついたら触ってた」
「……」
普通は本人に断ってから触るものなのかもしれないけど。
クライヴは何も突っ込んでこなかった。



「さらさら〜v」
撫で撫で撫で撫で撫で撫で。
癖がなくて真っ直ぐで、その上さらさらで。
女の子でもこんな綺麗な髪の持ち主は滅多に居ないんじゃないだろうか?
私はそんな事を考えながらクライヴの髪を撫でていた。






「…デネブ」
「いいじゃない減るもんじゃあるまいし。それに、今日は任務も何も無いんだからさ」
先手必勝。
もうちょっと触れていたい、一緒に居たい。
そろそろ離れてくれないか、という台詞を聞きたくなくて、私はクライヴに拒まれる前に言ってみた。
「……デネブ」
「だって触りたいんだもん〜」
クライヴの髪にそっと頬を寄せながら、子供の様に駄々をこねてみる。



クライヴはふう、とため息をつくと、ふいに私の腰に両腕を回して抱き寄せた。
「ひゃ!?」
「……」
自然と、お互い抱き合うような形となり、ぴったりと体が密着する。
突然の事に、心臓が跳ね上がり、声が裏返る。



「ク、クライヴ?ちょっと?」
「…嫌か?」
「…別にそうじゃないけど、でも、何で…」
「触りたいから。…では理由にならないか?」



…ああ、そっか。
つまり、私たちは同じ気持ちだってことか。
出会った最初の頃からは考えられないクライヴの言葉に、思わず口元が綻ぶ。



「…どうした?」
私は笑いながら、クライヴの頭をしっかりと胸に抱え、髪に口付けた。
「…理由になるし、全然嫌じゃないよ」
口付けた髪は、やはり柔らかかった。
(水ノ宮楓 様のコメント)
遅くなりましたが闇の王子同盟に入会させて頂いた記念に書かせて頂きました。
休憩中に訪問した時の「クライヴの髪かきあげさらり」の絵は見る度髪に触りたくなります。
ひたすら甘い話で苦手な方はすみません(><)
これからもよろしくお願いします。
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