多年草
 
 夜道を歩くクライヴといつものように同行をするレゼーヌ。
 突然クライヴの足が止まり、数歩前へ進んだレゼーヌへと声をかける。
「……すまないがリリィと交代してくれないか?」
「リリィとですか? ええ、構いませんよ。すぐ呼んで来ますので待っていて下さい」
 ラキア宮で待機しているリリィの元へと、転移を唱えるのだった。
「……あ」
 ラキア宮へ戻って来たレゼーヌを見つけたリリィ。
「クライヴ様の同行はもう終わったんですか?」
「ええ、私の同行は終わりました。クライヴが貴方と交代して欲しいと」
「交代……クライヴ様がですか?」
 リリィの問いに微笑みながら首を縦に振るレゼーヌ。
「仲が良いのはいい事です。クライヴが待っているので行って来て下さい」
「……仲が良いと言って良いのか分かりませんが、クライヴ様がそう言っているのでしたら行って来ます」
「お願いしますね」
 嬉しそうにクライヴの同行を引き受けたリリィ。そんなリリィを見送ったレゼーヌは机の上にたまっている書類に目をやる。
「最近同行ばかりで片付けていませんでしたね……。呼ばれるまでに片付けてしまいましょう」
 先に全勇者の現在地を確認し、まだ小一時間は誰も事件に遭遇しないと割り出してから、山積みになっている書類へ手をつけた。
「…………」
 道の脇の樹の根元に寄り掛かるようにして待つクライヴ。そんなクライヴの前に小さな光が現れた。
「こんばんはクライヴ様。レゼーヌ様から私と交代して欲しいとお聞きしましたが、私に何かご用でしょうか?」
「……態々すまない。用……」
 何か言いたそうだが、それを言葉にしようかどうしようかと口を開いては閉じ開いては閉じを繰り返すクライヴ。
「クライヴ様? あの……聞きたい事ですか? それとも何かして欲しい事でも?」
「……聞きたい事がある……力を貸して欲しい」
「分かりました。お役に立てるよう努力します。それで、聞きたい事とは何でしょうか?」
「…………」
 言いづらい事なのか、クライヴはまたしても口をパクパクとさせた。そして、ようやく決心がついたのか言葉を発した。
「三月十四日の事なんだが……」
 三月十四日、リリィにもその日が何の日だか覚えがあった。
「確かその日はホワイトデーと言う行事だったと思いますが」
「ああ、アルカヤにはないがレゼーヌから聞いている」
 ホワイトデーと対なる行事であるバレンタインデーに、クライヴら全勇者はレゼーヌから『いつもありがとうございます』と言う気持ちが込められたチョコレートを受け取っていた。あくまでも“感謝の気持ち”である。その時にバレンタインデーとホワイトデーの由来を聞かされたのだった。
「……そのホワイトデーに何か……贈りたいと思っている」
「あ、もしかしてクライヴ様の聞きたい事とは、何をレゼーヌに様に贈れば良いか。と言う事ですか?」
「…………」
 斜め下に視線を落しながら頷くクライヴ。
「銀のナイフなど、いつも渡している物にお返しの気持ちがあればそれで良いと思いますが」
 クライヴは顔を上げ首を横に振りながら強い口調で言う。
「それでは駄目だ。……天界へ持って行くと消えてしまうからと……他の勇者の手に渡ってしまう。それに……いつもと同じ物では……」
「ですが、強い想いが込められた物は消えないと言いますが」
 リリィは、以前クライヴがレゼーヌに渡したロザリオが消えずに残っているのを思い出しそう言った。
「今度渡す物にもそう言う想いを込めればきっと」
「何にだ。……想いを入れようにも、何に入れて言いか思いつかない……」
「…………」
 漠然と『こう言うような物』と言うのもないクライヴに思わず絶句してしまったリリィ。だが、直に良い案を思いつき、その顔に笑みが浮かぶ。
「でしたらワインなんてどうでしょう? 喜びこびますよ。きっと」
「……何か残る物が良いんだが……」
 遠慮がちに言うクライヴ。そんな姿にどうしても力になりたいと、リリィは考えに考えた。
「……それでしたら――」

 三月十四日、ホワイトデー当日。ドライハウプ湖。
「急に呼び出してすまない」
「いいえ。リリィがなにやら嬉しそうに『クライヴ様が用があるそうです』と私を呼びに来たのですが……」
「…………」
 この間の交代からというもの、特に理由がない限りレゼーヌはクライヴにリリィを同行させていた。クライヴの想いを知るリリィとしてはこの日が待遠しかったようだ。
「元気そうで何よりです。それで、用とはなんでしょうか?」
「……これを」
 クライヴは小さな包みを差し出した。
「二月十四日のお返しだ……受け取って欲しい」
「ありがとうございます」
「開けてくれないか……今この場で」
「……今すぐにですか? 分かりました」
 小首を傾げながらもレゼーヌは言われた通りに包みを開ける。そこには植物の種と思われる物が数粒入っていた。
「? あの、これは種ですよね……?」
「ああ……」
 クライヴは数日前のリリィとの事を話す。
「……それでしたら、種もしくは球根などいかがですか?」
「種……?」
「はい。綺麗な花が咲く種などが宜しいかと思います」
 笑顔で話すリリィだが、何が言いたいのか全く分からないクライヴは『種? 球根? 花?』と、眉間に皺が寄りそうなほど真剣な表情で悩んだ。
「…………」
 返事がない事から、分かっていないと感じたリリィはプレゼントの本位を話す。
「レゼーヌ様にお渡しになった後、お二人で蒔いて育てるんです。そうすれば花も残りますし、とても良い思い出がつくれると思います」
「……そうか。すまない付き合せてしまって」
「気にしないで下さい。相談して下さって私、嬉しかったですから」
「嬉しい……?」
「必要としてもらえてです。では、一旦戻ろうと思うのですが良いですか?」
「ああ、構わない」
 クライヴに向かって頭を下げ、戻ろうとしたリリィは慌てて付け加えた。
「花の種類ですが、バラの球根だけは絶対にいけませんから覚えておいて下さいね。それと手に入れるには花屋が一番だと思いますので詳しくは店員の方にお聞きになって下さい。どう言うのが良いかといった事はプロに聞かれるのが一番です」
「――そうだったのですか。それで、これはなんと言う花なのでしょうか?」
「リュウキンカと言う名だそうだ。どこかに蒔きたいと思うんだが……」
「……リュウキンカですか……名前からはどのような花なのか想像できませんね。――ええ、そうしましょう。私が上に持って行っても消えてしまいます。それでしたらこの地に蒔くのが一番です」
 二人は湖の淵の日当たりの良い場所へと移動し、クライヴが用意しておいたスコップで軽く土を耕しそこへ種を蒔いた。
 クライヴの隣にしゃがみ込んでいるレゼーヌは種を蒔いた場所に手をかざしながら言う。
「綺麗な花が咲くと良いですね」
「……花が咲き、その花が枯れたとしても……また次の年には花が咲く」
 突然言い出すクライヴ。
「ええ。その次の年もまた次の年も綺麗な花を咲かせてくれる事でしょう」
 何を言い出すのかと思いながらもにこやかにクライヴに答えるレゼーヌ。クライヴは首を縦に振り言葉を続ける。
「……俺はこの花を……毎年君と見たい」
「そうですね」
 思わず肯定の返事をしてしまったレゼーヌだが、クライヴの言葉の意味を理解し慌てた。
「って、え? あ、あの……それって」
「この戦いが終わっても地上に残って欲しい」
 真っ直ぐなその言葉にレゼーヌはロザリオを握り、ゆっくり瞬きをしクライヴを正面から見て言う。
「……はい。残れるよう、努力します」
「……ありがとう」
 リュウキンカの花言葉、それは……『必ず来る幸福』
 
 
(筆者様コメント)
折角の企画参加久々なのだからと、今までに打った事の無いハッピーエンドで〆させて頂きました。
花言葉候補は後いくつかあったんですが、『必ず来る幸福』が気に入りリュウキンカになりました。それまでどんな花かも全く知りませんでした。色々調べられて良い勉強になったかもしれないなと思いました(小笑) ちなみに、タイトルの多年草とは何年にも渡り生育を続ける草花の事で、リュウキンカもその一種です。
最後にクライヴを打ったのは既に半年以上も前の事だったんですが、打ち始めたら結構スムーズに動いてくれたんで良かったです。それでは。

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