 |
|
| 優しい空 |
いつもと変る事のない夜空を彼は見上げていた。
いつもならば、側にいるはずの女性が今日は、いやここ数日は姿を現さない。
原因はとても単純な事である。
彼女が必死になって話している事を真剣になって聞いてはいなかったからだった。
「もう・・・」
来る事はないのだろうか。やはり、天使である彼女と自分は違う世界に住む住人に過ぎない。
増して、自分は吸血鬼の血が流れている・・・。
そんな事、関係ありません!
以前、彼女はそうはっきり告げたことがあった。真剣な眼差しと寂しい表情が入り混じり、
ゆっくりと口を開いてこうも付け足す。
「クライヴの地が何であろうと、クライヴには変わりないのではないですか?
・・・わたしは、どんな姿でもクライヴを思う気持ちに変わりはありません」
その後、恥ずかしそうに俯く。クライヴは思わず口元を緩めている。
そんな思い出も、今にしてみたらとても楽しい思い出に変っていた。
当初は、天使自体を避けるようにしていたが、天使ミスティルには関係ない
ような感じであった。殆ど毎日と言っていいほど、クライヴに会いに来る。
何度、係わるな、と言ったかも覚えていない。
それでも、次の日には笑顔で会いに来るのだ。今思えば、とても辛いだろう。
「当然だな・・・」
見捨てられても仕方がない。それだけの事を彼女に対してしてきたから。
ミスティルも自分にさえ会わなければ、辛い思いもしなくて済むだろう。
勇者は自分だけではない。そんな思いが頭を巡っている。
「ったく、あの天使・・・嘘ついたんじゃねーだろうなー・・・」
横を通り過ぎた男が呟いた一言が、耳に入ると歩いていたはずの足が止まる。
この男も勇者・・・。ぱっと見ると、僧侶のようだが、口調が僧侶らしくないといえば嘘ではない。
男は周りを見ながら、偶然クライヴと視線が合った。
男は納得したように、頷いている。
「ふーん。君がクライヴ・セイングレントかー・・・。天使も悪趣味だな」
くすり、と男は口元を緩ませていた。じろり、とクライヴは自然に睨んでいる。
男は苦笑すると、付け足す。
「悪い、そう睨むな。俺も勇者でな。こっちの方に用があるといったらな
天使がお前に言伝したいと言ったから、お前を探していたんだ」
「言伝・・・」
それならば、妖精に頼めば済む事をどうして態々こんな男に頼んだのだろうか。
ひょっとすると、彼女はこの男の事が好きなのだろうか。そんな不安までも脳裏に過ぎった。
「こんな所で話もなんだ。酒場に行こう」
近くの酒場へ男はクライヴを促す。今日は天使以外の依頼を受けているわけでも
ないので、男の後を歩く。
「・・・飲みすぎだ」
まだ一時間も経っていないというのに、男は次々とグラスを空けていく。
横目でやや不安げにクライヴは告げる。
「大して飲んでねーよ!それよりも、お前・・・ミスティルの事好きなんだろう?」
クライヴを見透かすように、男は告げた。当たっているのだが、敢えて表情を変えずに
クライヴはグラスに視線を映す。
「お前には関係ないことだ」
「関係ない?!だったら、ミスティルが泣くなんて事ないだろうが!」
どん!とテーブルを叩く。酒場の客の目をひく事になるのだが、そんな事はお構いなしに
男は話を続ける。
「お前がそんなんだったら、俺がもらうぞ」
酔っているせいなのか、それとも本気なのか。じっとクライヴの事を男は見つめていた。
前から、色々な勇者の事は聞いていたのだがこうも酒癖の悪い勇者がいるなんてクライヴは
思ってもみない。
「・・・彼女は物じゃない。それに、俺と一緒にいても彼女は辛い思いをするだけだ・・・」
そう言うと、席を立つ。勘定をテーブルの上に置くと、何も告げずにその場を立ち去ろうとする。
「ごめんなさい、わたし、何も分かりませんね」
大きな声で男はそう告げた。クライヴが思わず振り返ると、そこには真剣な表情の男がいる。
「言伝をしろと彼女は言わなかった。だが、その言葉は一字一句嘘はないぞ。
彼女はな、不安でたまらないんだろうな。・・・その事位、分かってやれ」
最後の方はぽつりと告げると、グラスに残るワインを飲み干す。
「・・・ああ」
返事だけをすると、クライヴは男を残して酒場を後にした。
涙混じりに告げている彼女の姿が脳裏に過ぎる。こんなにも、手にとるように彼女の事が分かる
はずなのに、いつもどこかで彼女を不安にさせ、悲しい思いをさせていた。
それはこれからも変わらないかもしれない・・・。
それでも。
クライヴは夜空を見上げている。いつもと全くと言っていいほど変わらない夜空が、どこか
寂しい色に見えた。
「・・・ミスティル」
呟いた言葉が彼女自身なのは、彼女の事を思っている以上に愛してしまったからだろう。
そんな時、ふわりと一枚の羽が彼の前に舞い降りる。
クライヴは怪訝に思い、羽を拾うとそこにはいつもと変わらない彼女が立っていたのだった。
「お仕事・・・ですか?」
その表情は少々不安が入り混じっている。クライヴは何も言わずに彼女の体を抱きしめていた。
「クライヴ?」
「すまない・・・。君に不安な思いしかさせる事ができなくて・・・」
吐息がミスティルの息にかかり、ミスティルは顔が赤くなっている事を知っている。
やんわりと表情が和らいだ。
「そんなことありません!・・・わたしは、クライヴといてとても、とっても楽しいし・・・嬉しいです」
真っ赤になってそう告げる。クライヴは一瞬目が大きくなり、すぐに目を細めた。
そっとミスティルの頬に触れる。
「・・・そうか」
そのまま、クライヴはミスティルの唇に自分の唇を重ねた。
クライヴとミスティルの暖かさがお互いに伝わる。
「もう寒いですから、戻りませんか?」
ゆっくりとミスティルはクライヴに告げた。
「ああ」
クライヴはもう一度、空を見上げる。空は先程よりも、優しいように見えた。
これも全てミスティルのお陰である。
「どうかしたんですか?」
クライヴの顔を下から彼女は覗き込む。クライヴは首を左右に振った。
「そうですか?あ、宿屋に戻るなら暖かい物作りますね」
楽しそうにミスティルはクライヴの腕に自分の腕を絡ませる。クライヴは口元を緩ませて頷く。
二人にはまだ幸せの時間が続くのだった・・・。
|
|
 |
|
(コメント)
えーっと、高橋怜と申します・・・。作品、どうだったでしょうか?
実は、この作品は一度強制終了させられ、ないだろうと思っていた矢先に
残っていた作品です・・・。
元々、送ろうと思っていたんですけど、こういう作品は凄く珍しいですね〜♪
うちのクライヴ・・・天使にぞっこんです、はい。天使ミスティルの方もなんです
けど・・・(^^;)。消える前の方が無茶苦茶ラブラブだったんですけどねー
・・・最後の最後で消えたので、文章をあまり詳しく覚えていません・・・(汗)。
お目目汚しですが、有り難う御座いました。
|
|
|