| Don't hesitate. Please wait in this breaking
world. |
| Please…please wait at the hill where we
promised. |
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| セルバのリャノ郊外。ドライハウプ湖を見渡せる丘の上で、ずっと待っていた。 |
| 二人で決めた、約束のこの小高い丘の上で。 |
| 見上げた空は突き抜ける様に澄み渡っていて。雲に見えるそれは実は白い羽根で、ふわ |
| りと舞わせて綺麗な銀髪をきらきらと太陽に光らせて舞い降りてくるのではないか。そう |
| 思ってずっと此処で待っていた。 |
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| 「 」 |
| 遠い空に、その名を呼ぶ。いつもだったら、どんな小さい呟きでも、『呼びましたか?』 |
| と微笑んで現れるというのに。 |
| 早く還ってきて欲しい、自分の隣に。伝えたいことが沢山ありすぎて、とても一言じゃ |
| 足りない。だから、直ぐに帰ってきてこの声を聞いて欲しい。この言葉を受け止めてほし |
| いのに。適わないのは判っているが、天に届くことを願って真っ直ぐ手を伸ばす。 |
| もし最後があの場面だとしたら、それは淋しすぎて。 |
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| Putting up the hand to find it from the heaven. |
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| 最初は全く太刀打ちできなかった天竜とベルゼバブにも、ラファエルとミカエルという |
| 援護を得たお陰で確実に傷を与えられるようになった。 |
| 二人の加護で自分の身も護られていたし、もし自分が傷を負ったとしても、直ぐに癒し |
| てくれる存在が傍にいたから、変な言い方だけど、安心して戦えた。 |
| だけど、悪魔はそこに目をつけた。絶える寸前、攻撃の手をクライヴの脇を狙った。当 |
| 然、彼に避けるのは容易かった。だが、避けてから気付いたのは悪魔の本当の狙いだった。 |
| 彼の後ろには、大事な人がいたのだ。 |
| 背後から聞こえる強烈な悲鳴。恐る恐る振り返ると、ベルゼバブの強い気を真正面から |
| 受けて胸を押さえて倒れている愛しい天使の姿だった。ラファエルも、まさか彼女まで攻 |
| 撃の手がのびると思っていなく、少しでも天竜の力を抑える為もあって、彼女には護りの |
| 術を施してはいなかった。 |
| 「…ミシカ…?」 |
| クライヴと、天使二人も呆然とした。甲高く笑い飛ばす悪魔の声が煩い。 |
| 「この下級天使がいけないのだ!たかが低俗な存在でしかない者の分際で私に楯突く者を |
| 手助けしたりするから!!回復なぞするから、歯向かうという意識が出てくるのだ、愚か |
| 者が!!」 |
| その時、心の奥にふつふつと何かが込み上げてきた。確かに怒りに間違いないのだけど、 |
| 今まで感じてきたものとは、全く別のもののような気がした。 |
| これが、人を大事にしたいという気持ちの現われか。確かに、今まで命を賭してまで傍 |
| にいて護ってやりたい者などいなかった。だから、初めて感じるこの得も言い知れぬ怒り。 |
| 今までの暗い負の力に呑まれそうな怒りとは違う、その怒りが心を染め上げた。 |
| そして、ベルゼハブは気付く。目の前の男から怒りという気を纏ってそこに立っている |
| ことに気付いた。 |
| 「はっ!人間が天使に情をもったというのか!?馬鹿馬鹿しい…」 |
| そんなものに何の意味もありはしない。悪魔はそう言おうとしたが、適わなかった。立 |
| ち上るオーラを纏ったホドフレイムが振り下ろされ、凄まじいオーラと剣圧が悪魔と天竜 |
| を粉々に砕いたのだ。血飛沫を飛ばすことも、断末魔を上げることすらも許さなかった。 |
| 「ミシカ!」 |
| 悪魔の末路など最早彼にはどうでも良くて。振り返るとラファエルに抱えられている大 |
| 切な人の姿を捉えて、慌てて駆け寄る。 |
| 「心配は要りません。いくら強い力の持ち主とは言え、あれだけ弱っていたのではいくら |
| なんでもこの子は殺せませんよ」 |
| ラファエルは動じずに穏やかな口調を崩さない。 |
| 「ありがとう、勇者クライヴ。この子の力になってくれて。この子に代わって私がお礼を |
| 言います」 |
| それはあっけなく終幕が訪れることを予感していたのか。 |
| そんなの、許さない。二人しか知らない、あの約束があるというのに。 |
| 「…ミシカ」 |
| 自分の声には応じないその名を一度呼ぶと、クライヴは自分が首から下げていた銀のロ |
| ザリオを取ると、未だ気を失っている彼女の首に下げてやり、他の二人の天使の目も気に |
| せずに、そのまま唇を重ねた。 |
| 「…約束を忘れない。俺は、待っているから…ミシカ……」 |
| そうして、天界へ戻っていく翼を見届けたのだ。 |
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| 壊れていくこの世界で 迷わず待っていて |
| 二人決めた 約束のあの丘で |
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| ふと、葉擦れの音がして。誰か来たのかと振り返る。しかし、期待は虚しく、一陣の風 |
| が待っているだけ。 |
| 色んな疑念が頭を掠め続ける。 |
| あの後、ちゃんと目覚めたのだろうか。何があったか判ったのだろうか。自分との約束 |
| を憶えているのだろうか。地上に降りれるように取り計らってもらえたのだろうか。…そ |
| れ以前に、自分のことは果たして記憶を消されてはいないだろうか。 |
| 空を仰ぐ。雲は果てしなく伸びていて隙間から切れ切れに青い空が見える。 |
| また、風が吹く。目を閉じてその風に身を預ける。この風が自分を天へと運んでくれる |
| 翼ならばどんなにいいだろうと。場所はわかっているのに、そこには迎えに行けない。空 |
| が果てしなく強固な敷居の様だった。 |
| もう一度、その名を呼ぶ。あれから、もうどれくらい経っただろうか。段々と時間とい |
| う概念が自分の中で希薄化していく。周りの景色すら霞んでしまうほどに。 |
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| 伝えたいことが、あるんだ。 |
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| 自分の中での時は、もう内に宿った気持ちを充分に伝える為の期を熟しているというの |
| に。どうして、いつもどちらかが欠けてしまっているのだろう。 |
| 風が、一層強く舞う。自分の黒髪が視界を遮る。強い風に、周りの草が一層大きな葉擦 |
| れの合奏を奏でる。 |
| 暫くして、クライヴはそこに一つの不協和音が混じっている事に気付く。サク、サクと |
| いう、葉を踏む音。 |
| 目を開けて、見上げた空から視線を下ろして振り返る。彼の霞んだ視界の中に、ぽつん |
| と一つ。鮮やかなシルエットが浮かぶ。その身体の中心に揺れているのは、見覚えのある |
| ロザリオ。 |
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| その瞬間、それを中心に彼の世界は色を取り戻した。 |
| 常緑の木々の葉の萌える色や、太陽の日を沢山浴びて光るドライハウプの湖面。そして、 |
| 穏やかになった風に靡く、銀色の髪。柔らかい、今の空の様な蒼い瞳。 |
| 「…クライヴ…」 |
| ずっと聞きたかった声が自分の名を空気に刻む。耳にその響きが触れて、クライヴは我 |
| を忘れた。 |
| 気が付くと、目の前に立っていた手折れた可憐な花に喩えられる彼女の体を、抱きしめ |
| ていた。 |
| 「…戻って…これたのだな…」 |
| 「はい。誓いました、ずっと一緒にいたいって…。あのままでいきなり帰ってしまったら、 |
| 驚かせましたよね…。私も、驚きました」 |
| 腕の中の娘はそう言って微笑む。 |
| クライヴは腕の力を緩めて、空を移す目を覗き込む。 |
| 「身体は、大丈夫なのか?」 |
| 「はい、ラファエル様が治してくれて、ここまで送ってくださいました。あの方は風と癒 |
| しを司った大天使でいらっしゃるから」 |
| つまりは、自分が羽根であれと願ったあの風はラファエルの力だったということか。 |
| 「私…嬉しい。これで、クライヴの傍にずっといられる…」 |
| 頬を染めて、少しだけはにかんで言う大切な人に、クライヴもいとおしそうに微笑みか |
| ける。 |
| 「俺もだ…ミシカ。…ありがとう………愛して…いる…」 |
| そう言うと、ミシカの頭にそっと手を添えて、自分の顔を近づける。 |
| 彼女は目を閉じて、それを受け入れた。 |
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| それは、証。これから二人はたとえ死を以ってしても、心ごと結ばれるという誓いの。 |
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| Can I protect you at the time when world
breaking? ―――…Yes.
Of course! |
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|
| fin |