| 雪は舞うよ。 |
| 冷たく、鋭く。 |
| まるで |
| 温かな翼から抜け落ちた |
| 無数の羽のように |
| 冷たく。鋭く。 |
| ―クライヴ…お前は優しい子だから、いつかきっと天使様がお前の元にやって来てくれるよ…。 |
| ―ほんとう?おばあちゃん!!てんしさまがぼくのところにきてくれるの? |
| ―ええ、そうよ…。心の綺麗な子には天使様が来てくれるのさ。 |
| ―…でも…おばあちゃん… |
| ぼくのカラダはケガれてしまっているんだよ…? |
| ココロだって、きっときっと… |
| その日も、雪が降っていた。 |
| 屍が、群がる。 |
| 死の光景。 |
| 天使など到底縁の無い場。 |
| 血に塗れた刀を持ち、立ちつくす青年。 |
| その青年はアンデットやヴァンパイヤを殺す事が生業であり宿命であった。 |
| 漆黒の闇が朝の光に支配されつつある中、 |
| 青年は不死者達が本来在るべき姿に戻ったのを見、立ち去ろうとした。 |
| その刹那。 |
| 「…貴方は…クライヴ・セイングレントさん…ですね…?」 |
| 空気を震わすその声とともに |
| その場にまるで相応しくない光り輝く両の翼を持った、 |
| 神々しい光を放つ天よりの使者が舞い降りた。 |
| ―ああ、本当に来るとは思わなかった…。 |
| 羽がはらはらと舞い落ちる。 |
| その一つをおもむろに手に持ち、天使の方を向く。 |
| 「私は、天使ラビエルと申します…」 |
| 黄金を称すに相応しい金の長き髪。 |
| 水晶のような澄んだ瞳。 |
| 凛とした心地よい声。 |
| 全ての者を癒すような微笑み。 |
| …見テハイケナイ。 |
| 俺の中で誰かが叫んだ。 |
| 怖い |
| 怖い |
| 怖い…。 |
| 「あ…待ってください!!」 |
| イヤだ。…怖い。 |
| 踵を返し去る俺に向かって『彼女』は叫んだ。 |
| その麗しい声で。 |
| だって、君を汚してしまうから。 |
| どんなに洗い流したってもう、落ちない。 |
| 紅い血 |
| どんなに流したって途絶えない。 |
| 憎むべき血 |
| どんなに癒したって収まらない。 |
| 俺の怒り、憤り |
| いつ君を襲うか解らないから。 |
| いつその汚れ無き君を汚してしまうか解らないから。 |
| 「お願いです。話を聞いてください」 |
| 彼女が追いかけてきた。光り輝く翼を羽ばたかせて。 |
| そのたびに落ちる小さな羽一枚一枚が勿体無くて、目で追ってしまう。 |
| 「…何だ」 |
| 必死に搾り出した声で答える。 |
| 声が震えているのに気付かれない事を願いながら。 |
| 「貴方に…勇者となってこの世界アルカヤを救ってもらいたいのです」 |
| 「こんな世界どうなろうと俺には関係無い」 |
| 必死の悪態。ウソに満ちた言い訳。 |
| 「ですが…」 |
| 口篭もる彼女を再度目をやる。 |
| だが、やはり彼女は絶えず光を放っていて… |
| 「貴方のような剣士に、勇者となって頂きたいのです」 |
| 光への、憧れ。 |
| 闇への、恐れ。 |
| そんな思考が交差して、その場にいられなくなる。 |
| 「あ、…えっと…セイングレントさん…!!?」 |
| 再び踵を返して去ろうとする。 |
| すると当然のように聞こえてくる彼女の声。 |
| 「…クライヴでいい。」 |
| 「え…?」 |
| 自分でも驚くような言葉が口から出てしまった。 |
| 天使への恐れからか、それとも光への欲望からか。 |
| どちらにしろ完敗だ。もう、仕方がない… |
| 「お前の言う『勇者』とやらになってやろう…。後はお前の…勝手にしろ…」 |
| それだけ言い残して立ち去った。 |
| 手の震えが止まらなかった。 |
| 天使が 何故か 怖くて。 |
| 「あ、ありがとうございますッ!!…えっと…く、クライヴ…」 |
| 後ろから聞こえてくる控えめな天使の声。 |
| でも、もう振り返らない。 |
| ふと空を仰ぐと、暗闇の空より無数の氷の結晶が舞っていた。 |
| 一粒、クライヴの指に落ち、溶けて消えた。 |
| 暖かく、残酷に。 |
| ―ケガれのない、てんしさまなら…ぼくをコロしてくれるかな…? |
| ―…クライヴ… |
| ―…なに…?おばあちゃん…? |
| ―可哀想な子… |
| 雪は舞うよ |
| 冷たく、鋭く。 |
| 地に溶けるよ |
| 脆く、儚く… |
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| END…? |
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| だって全ては、始まって終わる。その繰り返し。 |
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