踏み出す勇気−君に教えられた事−


    日の光が射しこむ時間が来た。俺は今まさにベッドに入ろうとしていた所だった。
   だが、次の瞬間に部屋に飛び込んできた奴の所為で、それは妨げられることになる。
   「クライヴ!」
    聞きなれた声が耳に届く。ただ、いつもと違うのは声の音量。あいつが大声を出し
   たのは初めての事だった。
    あいつ…ルードの愛称で呼ばれる天使ルーンバレンは、熱血とは無縁の男で冷静沈   
   着、いついかなる時も焦りを見せた事はなかった。そんな奴が大声を上げて自分のも
   とに来たのだ。何か大事でもあったのだろうか。俺はとっさにそう思ったのだが…。
   「ルード、何かあったのか?」
   「あぁ、あったさ!聞けこのやろう!」
    怒鳴り声が頭に響く。見れば、目は据わっていて、顔も赤い。間違い無く、酒に
   酔っている。落ち着け、どうしたんだ。などと聞いても、彼は聞く耳を持たない。
   「俺だってなぁ!好きで天使なんかやってねぇんだ!」
    完全な酔っ払いである。
   「俺が何かしたかよ!なぁ、クライヴ。俺は何も悪くねぇよな、な?」
   「あぁ、悪くない…だろうな」
    あまりの変貌に、俺は苦笑するしかなかった。
   「だろ?なのにあいつら、おまえには協調性がなさすぎるとか冷徹だとか好き勝手言
   いやがって…果ては本当に天使か?だぞ!」
    …何となく読めてきた。天使同士の内輪もめか。確かに、ルードは一般的人間の想
   像する天使とは違う。違うなんて物ではない、かけ離れていると言うべきだろう。そ
   の事でもめて自棄酒飲んで現在に至る…というわけか?
    だが、ルードの性格からしてそんな事はないだろうに…。
   「俺は天使なんてやりたくて生まれてきたわけじゃない…こんな性格にだってなりた
   くてなったんじゃねぇ…ん…だ…」
    言いたいことだけ言うと、どさりと音を立ててベッドの上に倒れ、すぐ寝息を立て
   始めた。本心としては俺のベッドを返せと言いたい所だが、仕方なくベッドを占領し
   てしまったルードに毛布をかぶせてやった。
    ルードがこんなふうに荒れるのは、会ってから今まで1度もなかった。ルードは口
   も悪く、態度もでかい。だが…本当の辛さや、やさしさを知っているのではないだろ
   うか…。俺や他の勇者が彼に心を開いているのがその証拠だろう。
    以前、自分のことを話してくれた事があった。成績は良く、大人には誉められては
   いたが、ずっと一人だったと。一人が辛いと思った事もあったこと。それでもどうし
   ていいか解らなかったと。そんなルードに少し共感を抱けたんだ…。
    この天使は決して冷徹ではない。ただ不器用なだけ…。お互いに解ろうとすれば見
   えてくるものだってある。そのことを教えてくれたのも…この天使だ…。お互いの事
   を知ろうと1歩を踏み出す事の大切さ。そして…ただ死に向かって歩む俺に、生きる
   事を教えてくれた。そんなルードが冷徹なわけがない。
    正直言うと、ルードが悩んでるなんて思いもしなかった。ルードはいつも強がるか
   ら…なかなか本音も話さないから。だが、本音を話さないのは…俺もだったな…。
   ルードに会っていなければ、俺はいつまでも踏み出す勇気を…本当の強さを知らず、
   誰にも本心を語ることなく死んでいただろう。ルードにとっても1歩踏み出すと言う
   事は勇気がいるのだろうか。いや…そんなはずないな。ルードは俺とは違う。だか
   ら、大丈夫だ。協調性がない、なんて言う奴らもいつか解ってくれるだろう。
    運命とは不思議なものだな…。ふと、そんな事を考えた。窓から射しこむ朝日に、
   ルードの銀の髪が反射して輝いた。
    …君に出会えたことを感謝している…ルード…。


     END




  (コメント)
今回は男天使のルーンバレンことルード君のお話ですね。
たまには男天使も書こうかなと思いましていかがでしょうか…
  
                            



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