□□□■ 私を花見に連れてって ■□□□



  「はぁぁぁぁぁぁぁっ」
  テラスの手摺りに手をついて、セレスティナは、今日、何度目になるか分からな
  い溜息をついた。
  「はぁぁぁぁぁ…ヒマだ…」
  テラスに居ることに飽きたのか、今度は室内に入ってくる。だが、室内に入った
  からと言って暇な事に変わりがあるわけでは無い。
  「ヒマぁ〜っ」
  それだけ言うと、翼をしまい、バタンと床に寝転がる。
  「ヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒ…………」
  そう言いながら、ゴロゴロと部屋の東側へと転がって行く。
  「…………マヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマ」
  今度は、西側へ。まるでイモムシだ。だが、当のセレスティナは楽しいらしく、
  何度も部屋を東西に転がる。
  「セレス〜、居るかぁ?」
  何往復目になるか分からない―少なくとも、十数回目な事は確かだ―床上転がり
  をしている最中に、悪友の1人、レキサンドラがやってきた。
  「……って、ナニやってんだ?オマエ……」
  部屋に入るなり、床の上を転がるセレスティナを発見し、レキサンドラは思わず
  目を点にした。
  「何って…見て分からない?床の上転がってるの。サンドレもする?結構楽しいよ。」
  「イヤ…オレは遠慮しとく……」
  軽い眩暈を覚えながら、レキサンドラは力無く答える。そのままズルズルと床に
  へたり込まなかったのは、立派だったと言えよう。
  「何だってそんなことやってるんだ?セレス。」
  「何でって…ヒマだからに決まってるじゃない。」
  その答えに、今度こそレキサンドラは撃沈した。はっきり言って、当分の間、
  再起不能なほどのダメージを受けた。
  「そ……そう…。あ、そうだ。そんなに暇なら、アルカヤの風景でも楽しんできたら?
  何時も任務だ何だって、ゆっくり見られないでしょう?」
  「アルカヤの風景?」
  ほんのチョッピリだけダメージから復活したレキサンドラの提案に、セレスティナは
  小さく首を傾げる。確かに。アルカヤの風景をゆっくりと楽しむのも良いかもしれな
  い。それに季節は丁度春。景色の綺麗な場所が多い季節でもある。
  「そぉだね。それも、良いかもしれない。じゃ。行ってくる!」
  言うが否や、しまった翼を大きく広げ、一目散に地上へと舞い降りていった。その
  後ろ姿を見送りながら、レキサンドラは大きな溜息を1つつくと、そのまま床の上
  へとへたり込んだ。

  「クライヴ〜」
  いつものように、何もないはずの空間から突然現れて、これまたいつものように
  セレスティナはクライヴの背中にベッタリと張り付いた。
  「っと…もしかして、邪魔した?」
  クライヴの手に、抜き身の剣が握られていることに気付いたセレスティナが慌て
  て訊ねる。前に一度、剣の修練中とは気付かずに、いつものように背中にくっつ
  いた為、危うくクライヴに怪我を負わせそうになったことがあるのだ。
  「イヤ…気にするな。丁度終わりにしようとしていたところだ。」
  剣を鞘に戻しながら、慌てて離れようとするセレスティナに向かってそう答える。
  それより…どうした?」
  「ん〜、事件ってワケじゃないの。ただ、することなくてヒマだったから。」
  ホッとしたような表情を浮かべ、再びクライヴの背に張り付きながらセレスティナ
  は言う。
  「でね、レイラ―あ、彼女も勇者の1人なの―が、今なら、北の方はサクラが
  キレイだよって教えてくれたから。」
  「櫻?」
  「そう。丁度良いから、“オハナミ”してきたらって。でもさぁ、私、サクラがどんな
  花か知らないんだよね。」
  セレスティナの言葉に、“それで自分の所へ来たのか…”と、クライヴは妙な納得
  をしたのだった。
  「今から見に行くか?」
  そっと、首に回された腕を解いて立ち上がりながらクライヴはセレスティナに向
  かって、そう、声を掛ける。
  「え?良いの?」
  「あぁ。その為に来たのだろう?」
  驚いたような、それで居て、嬉しそうな表情をするセレスティナを見ながら、
  とことんセレスティナに甘い自分を痛感するクライヴだった。

  「これが櫻だ。」
  そう言って、クライヴがセレスティナを連れてきたのは、街から少し離れたとこ
  ろにある、小さな丘の上だった。
  「うっわぁぁぁぁぁ〜」
  夜も遅いせいか、周囲に人の姿はなく、其処にあるのは、その櫻だけ。だが、
  それがかえって、櫻の美しさを引き立たせている。
  「すっご〜い、キレイ〜〜〜っ」
  初めて見る櫻に、すっかり心を奪われたらしいセレスティナは、ぼぉっと櫻の木
  を見つめたまま、微動だにしない。と、その時、何処からか大勢の人間が走って
  くる様な音が聞こえた。
  「?」
  「何?この音……」
  その音に、現実に引き戻されたらしいセレスティナが、首を巡らせて音のする方
  向を探る。隣に立つクライヴも、同じようにして音の出所を探している。
  「ねぇ……何となく、イヤな予感がするんだけど……」
  どうやら、その音は北の方から聞こえてくるらしく、その方向にある、有る物を
  思い浮かべて、セレスティナは思い切り顔をしかめる。
  「俺もだ……。」
  お互いに、顔を見合わせて深い溜息をつく。どうやら、とんだ花見になりそうだ。

  「久しぶりだな。息子よ。」
  そのあまりにも予想道理の登場の仕方に、クライヴとセレスティナは、再び深い
  溜息をついた。
  「誰が貴様の息子だ。誰が。」
  「なんて言うか…こう、ワンパターンよねぇ…………」
  うっとおしそうに返すクライヴの隣で、これまたウンザリしたようにセレスティナが呟く。 
  その呟きが聞こえたのか、レイブンルフトがセレスティナの方を向く。
  「貴様もいたのか。凶暴な天使よ。」
  『王よ……その言葉だけは言うべきではないと思います………』
  “凶暴”と言う言葉に、セレスティナの眉がピクリと上がったのを見たブラスの
  顔が青ざめる。
  「いて悪かったわねぇ……」
  今すぐ、レイブンルフトを思い切りハリセンで吹っ飛ばしたいのを、ググッと拳を
  握りしめて我慢しながらセレスティナが答える。
  「何しに来たんだ?」
  少しでもセレスティナの気を落ち着かせようと、髪を優しくすきながら、それでも
  レイブンルフトを睨みつつクライヴが問う。
  「決まっているだろう?クライヴ、貴様を城に迎え入れに来たのだ。我が息子と
  してな。」
  「俺は決して貴様の息子になどならん!」
  レイブンルフトの言葉に逆上したクライヴを、先程とは逆に、今度はセレスティナ
  が宥める。
  「……と、言うのは冗談だ。」
  ズベシャァッ!
  レイブンルフトが付け足したその言葉に、一斉に2人して盛大にコケる。
  「あ……あのねぇ………」
  怒りのためか、顔中をピクピクと引きつらせながらセレスティナが何とか立ち上がる。 
  その隣では、同じように何とか立ち上がったクライヴが無言で剣に手を掛ける。
  「だったら、一体何しに来たのよっ!!」
  今にも斬り掛かりそうなクライヴを、何とか手で制しながらセレスティナが訊ねる。
  「花見だ。」
  ドベシャァッ!!
  その答えに、2人は再び盛大にコケる。一体、何処の世界に呑気に花見なんぞに
  出かけるヴァンパイア・ロードがいるというのだ?(イヤ、実際目の前にいるけど。)
  「あ…そ…そう…花見…」
  その一言で、セレスティナの思考回路は完全に破壊された。いつもならば、問答
  無用で特大ハリセンで吹っ飛ばしているはずなのに、ハリセンを取り出すことすら
  思い付かないようだ。
  「貴様のようなヤツを倒すために此処まで来たのかと思うと…何だか自分が情け
  なくなってきた……」
  その隣で、クライヴは、かなり深い自己嫌悪に陥っている様だった。
  「ム?一体どうしたというのだ?クライヴに天使よ。」
  当のレイブンルフトは、自分の言った一言が2人にどれほどのダメージを与えた
  のか理解していないようで、不思議そうに声を掛ける。
  「大体にして天使よ。何だ?その間の抜けた顔は。みっともないぞ?」
  『王よ……その一言は余分だと思われます……』
  “間抜け面”と言われたことによって、セレスティナの破壊された思考回路は瞬時
  にして復活した。前に、ヴァイパーに同じ事を言われたことでも思い出したのであろう。
  「だぁれが間抜け面だってぇ?!」
  思考回路だけでなく、怒りも復活したようで、ユラリと立ち上がるその手には、
  いつの間にか、超・特大のハリセンが握られていた。その様子に、慌てて逃げ出す
  レイブンルフトの下僕達。ブラスだけは、櫻の木の陰に隠れて様子をじっとうかがっ
  ている。
  「頭、冷やしといでっ!!」
  そう言うや否や、手にした超・特大ハリセンを、レイブンルフト目掛けて思い切り振る。
  バッシィィィィィィィィィィンッ!!
  「ドワァァァァァァァ…………………………………」
  凄まじい音とドップラー現象と供に、レイブンルフトは空の彼方に飛んでいった。
  『王よ…………(シクシクシクシク)』
  その様子を、櫻の木の陰から覗いていたブラスは、滝のような涙を流しながら見
  送っていた。

  「?!…セレス、レイブンルフトはどうした?」
  レイブンルフトがお空の星となって暫く経ってから、クライヴはようやく自己嫌悪
  から回復したらしく、周囲を見渡す。
  「あぁ、アイツなら、空の彼方に飛ばした。」
  思い出すのもイヤなのか、かなり顔をしかめながらセレスティナは答える。
  「そうか…」
  ポンポンとセレスティナの頭をなぜながら、一体、今回はどんな原因で吹っ飛ば
  されたのかがかなり気になるクライヴだったが、思い出すのもイヤそうなその表情
  に、聞くのを止めにしておいた。
  「それより、とんだオハナミになっちゃったね。」
  レイブンルフトに邪魔されたのがよほど悔しかったのか、少々寂しそうに俯いている。
  「また、連れてきてやる。」
  その様子を哀れに思ったクライヴがそう言うと、セレスティナはパッと顔を輝かせ、
  嬉しそうに見上げる。
  「ホント?!ホントにまた連れてきてくれる?」
  念を押すように問うセレスティナに、クライヴは軽く笑みを浮かべながら肯く。
  「あぁ。約束する。」
  何時しか、空に輝いていた星と月はその役目を終え、太陽が顔を出そうとしていた。


  END




 
(コメント)
 強制終了〜っ!(苦笑)終わり方だけマトモ(?)。落ちが決まらなかった…
 相変わらず、うちのパパさんは情けないです。結構好きなんだけどなぁ…。

                


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