| ハンターのお仕事 |
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天使ラビエルは今夜もクライヴのもとを訪れるために、
張り切って空を飛んでいた。 彼の胸はいつものようにわくわくしている。
今夜はクライヴはどんなことを教えてくれるだろう? と。
クライヴは自分が天使にいつも何かを教えているというつもりはまったくなかったが、
ラビエルは彼から勝手に男としてのあるべき姿を学んでいた。
クライヴはラビエルの憧れなのだ。
クライヴをスカウトしに行って初めて会った時、
彼は一人で喋る天使を無言で眺めたあと、
そのままふいと立ち去ってしまった。
その冷たい反応に、ラビエルは怒るどころか感心した。
感動すらした。カッコイイ、と。 男というものはああでなくちゃいけない。
次に会いに行った時、クライヴは一言、
「……本当に天使なのか?」
と確認した。 そして、そうだというラビエルの返事を信じ、
頼みたいことがあるなら来い、好きにしたらいい、と静かに言い、
また黙ってどこかへ行ってしまった。
完璧だった。間の取り方といい、
天使の証である翼を目の前にしながら本当に天使なのかと問うボケ具合といい、
余計なことは一切喋らずに好きにしろとだけ言う無駄のなさといい、
彼は完璧だった。というわけで、その日からラビエルは勝手にクライヴを自分の先生にしてしまった。
クライヴのようなカッコイイ男になる方法はただ一つ――本人から学び、すべてを盗む。
これに限るのだ。
「こんばんは、クライヴ」 ラビエルは上空から勇者に声をかけた。
クライヴは修業中だった。相変わらず熱心だな、と天使は微笑んだ。
寡黙な勇者は振り上げていた刀を下ろし、頭上を見上げた。
木々の黒っぽい枝の間に、ラビエルのまばゆい翼と銀髪が見える。
「……用か?」 天使が目の前に舞い降りると、
クライヴは短く訊ねた。
ラビエルはそれには答えずに、勇者の頬と右手にある傷に目をとめた。
「怪我をしたのですね、クライヴ」
「すぐに治る」
「これを使って下さい」 ラビエルはにっこり笑うと、手のひらを差し出した。
すると、真っ白い綺麗な羽が現れた。
初めてクライヴにこの天使の羽を渡した時、彼の顔にわずかな喜びが広がったのをラビエルは見逃さなかった。
気に入ってもらえたのが嬉しくて、ラビエルはそれ以来よくクライヴに天使の羽を持ってくる。
どうせ贈り物をするなら、喜んでもらえる物のほうがいい。
「いつも、すまない」 クライヴは穏やかな口調でそう言った。
その時、シータスが小さな絨毯に乗って飛んできた。
「天使様、いらっしゃっていたのですね」
「こんばんは、シータス」
シータスは天使に向かって頭を下げると、勇者に向き直った。
「クライヴ様、どうやらもうこの辺りにはアンデッドはいないようです」
「そうか」 クライヴは言った。 「では少し移動する」
「どこへ行くのですか」 ラビエルは戸惑って訊ねた。
「どこへでも――やつらのいる場所へだ」
「クライヴ様は、修業をかねてアンデッドハントをなさっています」
シータスが説明した。 「もうこの周辺の魔物は狩り尽くしてしまったようですね」
ラビエルは、ああ、と納得した。
「クライヴ、あなたはヴァンパイアハンターなんでしたよね?」
「……そうだ」
「あの、具体的にヴァンパイアハンターとは何なのですか?」
「ヴェンパイアやアンデッドモンスターを専門に狩る者のことだ」
「それがあなたの仕事だったわけですか」
「……今でもそうだ」
「でも……」 天使は心配顔で喋り続けた――クライヴが少し苛々しているのも気づかずに。
「あなたが修業をかねてこの辺りのアンデッドを退治していたら、
仕事の依頼が来なくなってしまうのではないですか?」
「私もそれは思っていました」 とシータス。
「そのことなら心配はない」 クライヴは、
もうこの話はこれで打ち切りだということをはっきりにおわせる口調で言った。
しかしラビエルは食い下がった。
「なぜです?」
「……もう手段を講じてあるからだ。それに、アンデッドどもが一匹もいなくなることはあり得ない」
「どんな手段ですか?」
クライヴはため息をついた。
そして面倒くさそうに上着の内ポケットをさぐり、
折りたたんだ紙を取り出して天使に渡した。
「これを何枚か作って配った」
ラビエルがその紙を広げると彼の肩越しからシータスがのぞき込み、
二人は内容に目を通した。
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笑いをこらえているため、シータスの全身はがくがく震えていた。
しかし、天使ラビエルはいたって真剣だった。
何もおかしいことなどないらしく、 感心したようにクライヴのチラシに見入っている。
「この、キャンペーン中というのは?」 天使は勇者に訊ねた。
「ああ、たまにそうやって料金を下げないと、客が減るからな」
とクライヴ。
天使様はどうかしてしまったのだろうか?
シータスはラビエルを見つめた。
別に笑いをこらえている様子もない。笑いの感覚がないのだろうか?
だって、クライヴ様がこのチラシを書いたというのに! あのクライヴ様が!
「そうですか」 ラビエルは感心したように言っていた。
「ちゃんとビジネスの勉強をしているんですね、クライヴ。さすがです。
ところで、この顔文字は?」
「そういうものがあったほうが親しみやすく、依頼もしやすいのではないかと思ってな」
「そうですか……」 却って軽々しくなってしまって、
あまり信用を得られないのではないだろうか、
ていうかここに添えるよりは 『お気軽にどうぞ』
のあとがいいのでは、 とラビエルは思った。
もうだめだ。もう我慢できない。
シータスは二人に気づかれないように絨毯で上空へ上昇した。
できる限り上へ上へと飛んだ。 そして、十分な高さまで来ると、身をよじって思う存分笑い転げた。
涙を流し、ごついこぶしで絨毯をバフバフ殴りつけて笑った。
あれは一見普通の広告だったが、内容と、 それを作ったのが誰であろうあのクライヴであるという事実が、
彼を笑い死にの淵へ追いやろうとしていた。
だいたいからして、クライヴは時としてシータスを抱腹絶倒させるのだ。
最初にシータスを死ぬほど笑わせた出来事は、
クライヴに同行するようになって間もない頃――テルエルにゾンビが現れた時だった。
寡黙な勇者は、戦いの前にこう言ったのだ。
「俺の刀のサビとなれ」
それは呟きだったが、シータスは確かに聞いた。
間違いなくその耳で聞いた。そして大笑いした。
笑いすぎてクライヴの援護に集中できなかったほどだ。
あまりにも愉快だったので、あとで子分のリンクスを呼び出して、
その出来事を話してやった。 しかしリンクスはクライヴのことをよく知らないため、
いったい何がおかしいんだろうと、 一人で突っ伏して
「だって、『俺の刀のサビとなれ』 だぜおい!!」
と笑っているシータスを変な目で見ていた。
とにかく、あまりに高く昇ったためと笑いすぎたために酸欠になると、
シータスは平静を装って天使と勇者の元に舞い戻った。
「……どこか直したほうがいいと思う所はあるか?」
二人はまだチラシについて話していた。
「そうですね……」 ラビエルは広告を再度読み返した。
「ここなんですが…… 『依頼なさる』 ではなくて、
『ご依頼なさる』 にしたほうがいいんじゃないですか?」
「……そうか。敬語は苦手なんだ。直しておく」
「あと……」
「なんだ」
「ここ」 ラビエルはチラシの上のほうを指差した。
「 『こまる』 という字が間違っていますよ。
『かこう』 になっています」
クライヴは真っ赤になった。「……直しておく」
「あと……」
「……まだあるのか」
「いえ、あの、この顔文字なんですけど、『安い!!』
のあとよりは、 この 『お気軽にどうぞ』 のあとの方がいいと思うんです。
その方が、いかにも 『お気軽にどうぞ』 っていう感じがしませんか?」
クライヴはしばし考え込んだ。
「……そうだな」 ややあって彼は呟いた。 「君の言う通りだ」
「個人的に好きなのが、この部分です」 ラビエルはその個所を指差した。
「この、『アンデッドの蒼き狩人』 」
「そうか。おかしくないか?」
「いえ、おかしくなんてありません。詩的で素敵です」
――詩的で素敵。
その何気ない韻律ですら、今のシータスを笑い死にさせるには十分だった。
今の彼は箸が転がってもおかしい年頃の少女のように、
些細なことで笑える幸せな妖精だった。 シータスは電光石火の素早さで上空へ飛び、再び死ぬほど笑った。
翌日から二日間ほど、シータスは筋肉痛に悩まされた。
END
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* コメント *
純白をプレイしていて、 セシアを訪問中にふと思いついたので作ってみました(なぜセシア)。
これでも私はクライヴが大好きです、ええ、誰にも負けないくらい。
クライヴのビラは、ダサ字フォント対応パソですとより一層楽しめます(笑)。
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